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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.7『再捜査』part.3


「え、そうなんですか?」


 不思議そうに首を傾げる遥。


「当たり前ですよ。誰が好き好んで女装なんか……」


「それにしては引くくらい似合っていると思いますが……」


「引かないでください、と言いたい所ですが。自分自身が一番引いてると思います。……あの親父に」


 帰ったら絶対に殴ってやると強く念を込めて、右手の拳に力を入れる。

 遥はそれに苦笑い。


「ふふっ。話を戻しますが、桜はウィアドの事は知りませんでした。今は私からも、口外しないように言ってありますが、早めに吸血鬼事件の方を解決して桜を納得させてあげてください。本人の口から言ってあげた方が説得力はありますよ。きっと」


「そうですかね……」


 桜に『化け物』と呼ばれた時を思い出す。

 未だに忘れられない、心にグサリと突き刺さる言葉。

 化け物と呼ばれた自分。

 化け物の自分。

 それでも、普通の人間として振る舞おうとする、愚かな吸血鬼。

 見せ物にされ、辱しめられた。

 そんな過去が、今の永夜を苦しめる。


「…………はぁ」


 ため息をつき、永夜は遥の顔を見る。

 遥のその目に嘘は無い。

 しかし、桜の目は?

 スクールティンカーのメンバー達の目には永夜はどのように写っているのだろうか。

 美佳や遥、修はどうだかわからないが、桜の目には『化け物』として写っているのだろう。


「遥さんには、俺はどんな風に見えてます?」


「永夜さんですか? そうですね……綺麗な長い銀の髪で、赤い瞳で……」


「いや、見た目を聞いたんじゃ――――」


「そして、とっても優しそうな顔をしてますよ」


「…………」


 遥は永夜に向かって『にこっ』と笑って見せる。

 どうして、あんたまでそんな笑顔ができるんだよ。

 心の中でそう呟く。


「その笑顔が、偽りの物だったとしたら?」


「……それは穏やかじゃないですね」


「知っての通り俺は遥さんの嫌いな男ですし、人を殺す事だってあります。名前と歳、性別すら偽ってスクールティンカーに加入して。偽りの姿で接していた、この俺を信じられるのですか?」


「逆に、永夜さんは信じて欲しいですか? 信じて欲しくないんですか?」


 信じて欲しい。そうに決まっている。

 しかし、永夜の中で納得ができない自分がいる。


「私は男性の方が嫌いという訳ではありません。それに、さっき言ったじゃないですか。永夜さんに触られても、叩きのめさなかったって」


「それは、その……」


 永夜を信じているから叩きのめさなかったなんて事が信じられるはずがない。

 そこで、永夜は気が付いた。

 今の自分は、ストリートチルドレンだった頃の自分と同じような心境だと。

 誰も信じる事ができず、回りが全て敵だと思っていた幼い頃。

 繰り返される記憶を振り払おうと、頭を左右に振る。


「もう俺は、あの時の俺じゃないんだ……」


「ん、今何て?」


「独り言です。気にしないでください」


「そうですか? あ、そうだ。永夜さんに聞きたいことがあったんですよ」


「え? な、なんですか?」


 ここまで来て、いきなりの話題転換。

 遥はやはり天然のようだ。


「キョンシーって、血を吸うんですか?」


「ええ、吸うらしいですよ。俺もさっきまでは知りませんでした」


 と、そこにケータイの呼び出し音が鳴り出した。

 取り出して見ると、勝吉からだった。


「ちょっとすいません。もしもし?」


『やあ、チェイサー7』


 画面には、いつもより真面目な勝吉の顔が写り出された。


「キョンシーについて、何かわかりましたか?」


『そうだ。キョンシーは太陽の光が苦手な妖怪で、昼は下水道の中で太陽の光を避けて潜み、夜になると外に出て、人を襲うんだろう』


「なるほど。あの、二つ程いいですか?」


『ん、なんだね?』


「キョンシーとの戦闘経験から思ったんですが、あれだけの身体能力を持っているのなら、被害がもっと大きくなると思ったんですが」


『なるほど。確かにチェイサー7が取り逃がしただけの身体能力があれば、被害が大きくなっていくはず』


「あと『刃物が苦手』という弱点はありませんでしたか?」


『刃物?』


「はい。俺が接近戦に対応しようと、ナイフを取り出した瞬間に逃げて行ったんで」


『キョンシーの対抗策は、ゆで卵や蒸す前の生のもち米を噛まれた傷に当てることで毒を緩和。童貞の男子の血、雌鶏の血、生のもち米をかける。噛まれたり傷を負った場合は、成長する牙や爪を削ることで凶暴性を抑える。噛まれて絶命した者の死体を火葬することでキョンシー化を防ぐ。というのがある』


「刃物に関する情報は有りませんね」


『あと、自分の姿を映し出される鏡に弱く、近づけな い。ともある』


「自分の姿? まさか……」


『ん、どうかしたのか?』


「ナイフの光沢が鏡の役割をしたんじゃないかと思っただけです。確証はありません」


『…………。……確率は高いな』


「でも、それでは逃がしてしまうかもしれませんよ?」


『桃の木で作った剣、清めた銭で作った剣によって物理的なダメージを与えたり、道術を使って退治する。とあるけど、桃剣も銭剣も用意できないな』


「俺も道術は使えませんね」


『よし、今すぐ補助班を送る』


「ん? 何か他に対抗策が?」


『……下水道にいるキョンシーに太陽の光を浴びてもらう』


「どうするんですか?」


『下水道の天井に穴を開けるか』


「いや、それは不味いと思います。他に無いんですか?」


『符やまじないを施し符と同じ効果を与えた自分の血をキョンシーの額につけることで動きを封じる。と書いてあるけど、チェイサー7に血は……』


「最終手段として使わさせていただきます」


『レーザー銃で焼くか……』


「えっ?」


『通常兵器は聞かないけど、レーザーで焼き払う事は可能だ』


「あるんですか?」


『試作段階だが』


「なら、補助班に持って来させてください」


『了解した。場所は…………』


「じゃあ、星亮高校の裏校門にしましょう。そこなら、人通りはありません」


『そうだな。では明日の午前三時に到着する』


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