Phase.7『再捜査』part.1
「はぁ、はぁ……追っては来てないみたいだな」
永夜は着替え途中に逃げたために乱れた服を整えながら、ルナの隠れ家に身を潜めていた。
ふかふかの布団とは行かないまでも、草を沢山積んであって、柔らかい寝床になっていた。
が、女の子が住む場所ではない。
ルナの情報から、星亮市には永夜を除いて吸血鬼はいないらしい事がわかった。
「吸血鬼じゃないなら、何が……」
「ふーっ……」
「ん?」
何か唸る声をハッキリと聞いた。
野良犬や野良猫の類いと思い、辺りを見回してみるが、声の主はそんな小さな物ではなかった。
「ふーっ、ヴガァァァ!!」
「何だこいつ!」
声の主は小学生くらいの男子。
小さな体で、人とは思えない程の移動能力を持っていた。
その移動方法は背筋を真っ直ぐに伸ばし、両腕を前に突き出して、足首だけでぴょんぴょんと跳びはねる。
とにかく、人でない事は明らかだ。
「何なんだよ、こいつはっ!」
「ヴォルガァァァ!!」
動きにくそうな動作なのに、早さは永夜の比ではない。
すぐさま銃を取り出し、相手の右足に向かって発砲する。
しかし、体の表面が固いようで、銃弾はカチンと跳ね返った。
「ヴゥゥ……ゥガガァァァ!!」
「接近戦は不利だな、……って!」
気付くと、既に相手は間合いに入っていた。
反射的にナイフを取り出し、応戦しようとしたその瞬間……
「ヴァ……ゥゥゥ……ア゛ッ!」
突然永夜から距離をとり、すぐに逃げ出した。
すぐに追おうとするが銃弾が効かないのなら勝機はなく、見逃してしまう。
「……くっ。とりあえず、報告を……」
携帯を取り出し、テレビ電話で勝吉を呼び出す。
『はぁーい。もしもし?』
「相変わらずテンション高いな。あんたは」
電話に出たかと思えば、数日ぶりのハイテンションの勝吉がいた。
『あれ、どうしたの真夜ちゃん。そんな疲れた顔して……って、君はどこにいるの? 明らかに普通の背景じゃないけど?』
「下水道だ」
『なっ! ……パパは……パパは、そんな風に育てた覚えはないよっ!』
「何の話だよ。それよりさ、課長はこんな動きをする人外を知っていますか?」
永夜は携帯を置き、電話の向こうに見えるようにして、先程の男子のようにぴょんぴょんと跳びはねる。
『それって、もしかしてキョンシー?』
「きょんしー?」
『中国の妖怪だよ。なんらかの事由によって風水的に正しく埋葬されていなかったり、恨みや嫉みによって この世を去った者が、死後も魄・怨念を持つにより人間にある三魂七魄のうち魂がなくなり魄のみもつキョンシーになるだ』
「そのキョンシーは人の血を吸いますか?」
『うん、確かにキョンシーは生き血を……まさかっ!?』
「恐らく、吸血鬼事件の犯人は吸血鬼ではなく、キョンシーなのでしょう。荒牙鬼ルナは星亮市には彼女自身と俺しかいないと言っていましたし」
『ルナと言うと、あの女の子か……』
「すいません、俺の勝手で」
『いや、いいよ。ちゃんと更生した後、補助班に所属させようと思っているし』
「ありがとうございます」
『じゃあ、その代わり~』
「何もありませんよ」
『え~、そんなぁ~。まだ何も言ってないのに~』
「どうせ、『パパ~』と呼べとか言うんだろ?」
『えっ? 今、何て言った?』
「嫌だっ。もう言いたくない!」
『……ちっ』
「あんたって、とことんダメ人間だよな。男に女装させたり、完全に女にしようとしたり」
『でも、なかなか様になってるじゃん。その服』
「うっせ!」
『ハハハハ! じゃあ、こっちでもキョンシーについて調べてみるよ。チェイサー7はそのまま調査続行だ』
「了解しました」
携帯の画面が暗くなると同時に、永夜はため息をついた。
振り出しに戻り、また初めから調査する事になると思った矢先に、キョンシーの登場。
吸血鬼事件ならぬ、キョンシー事件の調査は進展が早くて助かる。
しかし、永夜は現在学校をサボっている状態にあるのだ。
早く解決して戻らなければならない。
「あ、そうだ。美佳対策する必要があるか」
美佳のサイトメトライズから逃れる為の術を行わなければならない。
永夜はその場の地面に石で魔方陣を書く。
書き終えるとその上に立ち、目を閉じて集中する。
頭から足まで気を通すようイメージして、リラックスをする。
すると、体の中を何かが巡っていくような感じがすした。
「逃走。能力妨害、追跡能力に設定」
魔方陣の線が光だし、永夜の体を包む。
「固定完了、術式発動」
光は更に輝きを増し、永夜の体の中に溶けていった。
「……よし、行くか」




