Phase.6『傷跡』part.5
ある日の事である。
孤児院の地下では金属同士がぶつかり合う音が聞こえていた。
その音の正体はナイフ同士が当たる音。
地下で何人もの子供が一対一で互いを傷つけ合おうとしていた。
そこは既に孤児院ではなく、幼い子供に戦闘技術を叩き込ませる場であった。
その中に片目だけが赤い金髪の少女がいた。
コードネーム『赤裂』。
その目は狂気に満ちており、敵とあらば誰であろうと命を奪うとされていた。
赤裂の相手は既にボロボロ。
必死の攻撃を試みるも、赤裂の驚異的な戦闘力の前には風前の灯火だった。
「止めっ!」
首筋にあと数ミリという所で赤裂の手が止まる。
訓練終了である。
回りの子供達も戦闘体勢を解く。
それと同時に、数人の大人達が半数の子供達の襟を掴んで引きずっていく。
子供達は泣き叫び、怯えた表情で回りにいる同年代に助けを求めるが、誰も振り返りはしない。
やがてひとつの部屋に連れ込まれ、その重たい扉が閉まった。
「お疲れだ、赤裂。休んでいいぞ」
その言葉に表情を一つも変えず、黙って歩き出した。
夜になれば、就寝。
少ない食料を平らげた後は、薄いタオルで身を包んで寝る。
「ねぇ、赤裂。起きてる?」
「…………」
隣の布団の少女が赤裂に話しかける。
彼女はこの孤児院では数少ない明るい性格の持ち主で、寝る前には必ず赤裂に話しかけてきていた。
「明日の午後に、何かお客さんが来るんだって」
「…………」
「私達の中から優秀な人を選んでスカウトするんだって」
「…………」
「私はダメでも、赤裂はもしかしたら選ばれるかもしれないね。だって私達の中で一番だもん!」
「…………」
その後も長々と彼女の話は続き、しばらくして、話し疲れたのか少女は眠ってしまった。
そこで、赤裂は本日始めての言葉を発した。
「…………当然」
次の日、また訓練。
赤裂の相手、それは明るい性格をしたあの少女だった。
「今日は午後にお前達をスカウトにくるお客さんらが来る。というわけで、この中で優秀な奴が選ばれるから、目の前にいる相手と戦い、自分は優秀だとアピールしろ。では始めっ!」
短い話が終わると、一斉に子供達の声が上がった。
それはもちろん『はいっ!』などと明るい声ではなく、敵に向かってかける言葉ばかりだった。
「頑張ろうね、赤裂!」
「…………っ!」
赤裂は笑う少女に向かってナイフを突き付ける。
しかし、相手もここまで勝ち進んできた精鋭。
そう簡単に勝てる相手ではない。
それに、今日はスカウトが来るという事で、誰もが本気で戦っていた。
赤裂の攻撃を避けては、ナイフを振り回す。
明るい性格とは裏腹に、彼女のナイフは確実に急所を突こうとしている。
だが、赤裂も負けてはいない。
自分の急所を突こうとする彼女のナイフを弾いては、今度は相手の急所をナイフで突こうとする。
「絶対に負けられないんだから!」
その言葉に、赤崎の中何かが弾けた。
次の瞬間に赤裂の鋭い眼光が、さらに鋭さを増す。
少女は赤裂の動きに驚きながらもペースを崩さない。
しかし、それが彼女の弱点でもあった。
ペースを落とさないという事は、状況の対応が遅いという事。
綺麗過ぎる戦闘パターンは、パターンを読まれて反撃を食らう可能性が高い。
赤裂はペースを変えて、相手のペースを崩すのを得意としており、ペースが崩れた相手の隙を付いて倒す。
それが今回はペースを変えるタイミングが早くなっていた。
「あっ!」
赤裂の猛攻に耐えきれず、少女の手からナイフが飛ぶ。
「選ばれるのは、私っ」
次の瞬間、赤い噴水が現れた。




