Phase.6『傷跡』part.1
「真夜っ!」
後ろの方から響いた声に振り返ると、そこには美佳と桜がいた。
「美……佳……」
見られてしまった。
しかも、美佳だけでなく桜にまで。
調査班のルールには『なるべく正体をしられないで任務を遂行する事』とある。
もし正体を知られたのなら、説得して黙っていてもらう。
それが駄目だった場合、実力で排除。もしくは補助班の記憶操作の能力を持っている者に連絡。
美佳は既に説得済み。
しかし、桜の方はまだである上に、説得は難しそうだった。
「今っ……」
「なっ……、……あぁ」
と、永夜が二人に気を取られている隙に吸血鬼は逃げてしまう。
「天月真夜……貴女は」
「ち、違うんです桜さん。これは……その、どう言ったら良いか」
「大丈夫です。わかっています」
桜はこの場面でも、表情を変えないようだ。
だが、その無表情が今は怖い。
わかっている、という言葉の意味を考えていると、桜は初めて表情を変えた。
「貴女が殺しをしようとしていたという事が」
「えっ? ……うわっ!」
桜は言い終えると同時にナイフを取り出し、永夜に斬りかかってくる。
永夜は少し驚くが、すぐに後ろに跳ぶ。
「こ、殺しって。何を言うんですか、桜さん」
「なら、今貴女は何をしていたと言うのです?」
「それは……」
「ほら、言えないではないですか。それに、貴女の両手に握られている物こそが、殺しをしようとしていたという証拠です」
今も、永夜は銃とナイフを取りだしたままだ。
そんな物を持っている人物が誰かと戦っている所を見れば、誰でも相手を殺そうとしているようにしか見えない。
「そうか……」
ひどくがっかりする。
信じてもらえないという事にではない。
先程からの桜が永夜を見る目が、永夜が見せ物にしてきた者達と同じ様な、蔑みや軽蔑を訴え掛けていた。
永夜は小さく呟く。
「何処にいても同じなんだな、世界ってのは」
今までの記憶、主に辛い記憶や思い出したくない場面が浮かび上がってくる。
更には、それに対する憎しみまでが心の底から込み上げてきた。
「天月真夜。貴女の事を調べさせてもらいましたが、現在も謎の部分が多く、私の中では要注意人物となっていました。しかし、今の状況において、貴女を警戒すべき人物だと判断します」
「で?……」
桜はまだ永夜の事を男だとは思っていないらしい。
だから永夜はあくまで天月真夜として話す。
「私を今ここで殺す? それとも警察に通報します?」
「それは、これから考えます」
「そうですか。桜さんは迷わずに決断する人だと思っていました」
「黙れっ、この……」
桜は永夜が吸血鬼だということは知っているが、その他の事は調べてもわからない。
他人と接する時、相手の触れてはいけない所に話の方向を向けてしまうことがある。
「桜っ!」
美佳が止めようとするが遅く、桜は言ってしまう。
「化け物っ!」
瞬間、永夜の中で何かが弾け、二人が気付いた時にはもう、永夜はその場を走り出していた。
ただ、永夜の頭の中では『化け物』という言葉がぐるぐると巡っているのだった。
「くっ…………そぉっ!」
美佳と桜の二人から逃げてから少し経った頃、永夜は走り疲れて橋の下にいた。
その目尻には涙が伝う。
何度も、何度も『化け物』という単語と、蔑みと軽蔑の目線が頭の中で巡る。
「くそっ、くそっ、クソクソクソクソクソオぉ!」
こんなに泣いたのは初めてだった。
20年間、心の底に押し留めていた負の記憶が一気に込み上げる。
「くっ、………はぁ、はぁ……うっ!」
泣けば泣くほど溢れる涙と共に、昔の記憶が蘇る。
「何なんだよぉ。……何なんだってんだよぉ!」
何なんだ何なんだ、と誰も聞いていないその場でただ一人泣き叫び続ける。
「まだ捨てきれないってのかよぉ、俺はぁぁぁあああ!!」
ぽつぽつ、と雨が振りだす。
それと、同時に声が聞こえた。
「……五月蝿い」
その声は聞いた事のある声だった。
永夜は声のした方に振り向いた瞬間に身構える。
「お前は……」
「こんな所で大泣きしてる奴がいるなぁ、って見に来ただけよ」
「雨で濡れたんだよ。泣いてない」
「今降りだしたばっかなんだけど……」
強がりを言って見せても、涙は溢れてくる。
本当は、誰かに慰めてもらいたい。
そう思っているが、永夜は心の隅でそれを拒んでいた。
「同じ吸血鬼なのに……」
「……は?」
「何で同胞を殺そうとするのよ、貴女は」
殺意がなく、無防備にも自分の目の前で腰を下ろす少女に、永夜は警戒を解く。
「何で、って……。同胞だからじゃない。それが仕事なんだ」
「同胞を殺すのが仕事? 笑わせないでよ。今泣いてるのも、さっきの人達に正体がバレたからでしょ?」
「違う。……いや、半分くらい」
「私だってあるわよ? 信じていた人は雇い人で、それも私自身を生け捕り、殺してでも捕獲しろって命令を受けた人だった。でも、その人は助けてくれた。初めは半信半疑だったらしいけど、なんとなく分かってたんだと思う。そして、ある夜。その人は私に言ったわ。……自分を殺してくれってね。で、私は殺したわ」
「…………っ!?」
その話は、永夜が勝吉と出会った時と似ていた。
勝吉の当時の任務は、近隣に出没する吸血鬼の排除という物だった。
違うのは、今も会えるという事。
少女の頬にも涙が伝う。
永夜は少女がそれを拭う様を後ろから、同類を見る目で見ていた。
「貴女さっき、仕事って言ってたわよね」
「え、……あぁ。うん」
「いいわね。貴女はちゃんとした人に拾ってもらえたんでしょ?」
「まあ、悪い奴ではないな。って、何で拾ってもらったって知ってんだ?」
「昔、私達吸血鬼が人間によって壊滅寸前にまで追い詰められた時、私達の祖は自らの身を捧げて私達を逃がしたのよ? 一人でも多くの同胞を次の世代に残すことで、吸血鬼という存在を失わせないようにしたの」
テスト、まだ終わってないですよ?
それなのに、投稿する私。
あぁ、早くテスト勉強しなくては……。




