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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.5『協力の意思』part.5


 物凄い情報収集能力である。

 下手をしたらプライベートまで知れるのではないかと思うほどだ。


「で、話を戻しますが。天月真夜という人物は本当は偽りの存在なのではないか、と仲間内の中で噂がでていまして……」


「い、偽り?」


「はい。現在、メイドのネットワーク以外にボディーガードだった頃の仲間にも聞いて回っているのですが、やはり何も……」


「どうしてそこまでして調べようとするの?」


「初めは私もこんなになるとは思ってもみませんでした。ですが、あの天月真夜という人物はどうも怪しい。何か隠しているような感覚がするのです」


 隠している事というのは、本当は天月真夜という女性ではなく、柳永夜という男性であるという事。

 一般人ではなく、ウィアドという秘密組織の調査班に所属しているという事。

 隠し事にしては、かなり表に出してはいけない嘘だ。

 美佳や遥、修などは事情を説明すれば納得させることは可能であるが、桜の場合は遥の防衛のために何をするかわからない。

 美佳はそう思うと、途端に冷や汗が流れてきた。


「もし、遥様に危害を及ぼすような者なら全力で排除するのみです」


「は、排除?」


 美佳は永夜に殺されるような事を言われた後であって、死を意味する言葉に反応してしまう。

 それと同時に、元ボディーガード+狂眼の桜と現役秘密組織の一員+吸血鬼の永夜が争ったらどちらが勝つのかを想像してしまう。

 桜の身体能力はある程度までは知っているが永夜がどこまで戦えるかが気がかりだった。

 吸血鬼事件の犯人と戦ったと言っていたものの、逃がしてしまったとか。


「……美佳さん、どうかしましたか?」


「え、ううん。ボディーガードだった桜と吸血鬼の真夜が戦ったらどうなるんだろうなぁ、と思っただけだから」


「戦ったら……。負けるつもりで戦うつもりは毛頭ありません」


「うん、そうだよね。…………あれ? そう言えば、何で桜はここにいるの?」


「ここは早乙女家の門の目の前ですし、私はこれから予定が……」


「予定?」


 どうも奇妙である。

 別に美佳は桜の事を疑っている訳ではないのだか、少し気になった。

 買い物をする時間にしては遅すぎる。

 だからと言って、桜が夜遊びする性格であるはずがなかった。


「私も行っていい?」


「別に構いませんが、寮には門限が……」


「大丈夫だよ、心配しないで」


「そ、そうなのですか?」


 心配そうにする桜を大丈夫と言って説得し、歩き出す桜の後を追う。

 どこに行くのだろうかと思ったが、その方向は間違いなく星校の寮の方向だった。


「桜? 別に送ってもらいたくて言った訳じゃないんだけど……」


「わかっていますよ、深夜の寮の監視カメラの中に写っていないに、写っている人物に会いに行くんです」


「そんなっ。深夜は皆自室にいるはず……」


「それが、いるんですよ。銀髪の人物が。寮内のカメラだけを見ていたんでしょうか、外のカメラに偶然写っていまして。木の葉の隙間から見えただけなのですが、女性という事はわかりました。もう誰だかお分かりでしょう」


 桜は天月真夜を調べていた。

 つまり、その女性の正体とは『天月真夜』その人だ、と言いたいのだろう。

 美佳は真夜が永夜である事を知っているし、深夜に見回りをしている事も知っている。

 しかし、永夜の協力をしてやりたいために、とぼける。


「さ、さぁ。わからないなぁ」


「そうですか。まぁ、これから証拠を押さえるつもりですから。遅くなるのでお帰りになるなら今からでも大丈夫ですよ」


 と、桜は空を見る。

 そこから、ただただ時が過ぎていくのを待つだけだった。











 日が暮れて、月が明るく輝く夜になる。

 美佳は缶ジュース二つを買ってきて、片方を桜に手渡す。

 会話がなく、落ち着かない。

 美佳は痺れを切らし、話題をふる。


「思ったんだけどさ、何で真夜の事をそんなに調べるの?」


「何で、と言われましても……。わからないと気が済まないと言いますか。私の知人でわからない人がいるというのは私、どうも心配になってしまう事があるんです」


「でもそんな、プライベートにまで侵攻しそうな……」


「プライベートには興味ありません。あくまで正体が知りたいのです」


 そんな事を言いながらも、桜は目線を空から外さない。

 暗い夜空の中に現れる永夜の影を探して、むしろ睨み付けているようにも見える。


「正体かぁ……」


「美佳さんは得体の知れない知人を知りたいと思いませんか? 私は若干の警戒心を持ってしまうので、友として受け入れることはできません」


「それは、知りたいと思うよ? でも私は真夜は悪人だとは思えないよ。真夜に触れた時は、悪意なんて一つも感じられなかったんだから」


 美佳が永夜の女装を許している理由の一つがこれである。

 悪意があって女装している訳ではなく、あくまで任務のため。


「私だって悪人の友達はいらない。私は個人個人の人間性を感じて友達になってるんだもん。私の信用する心はそこから来てるの」


「私にはサイコメトライズの能力はありません。私の能力ただ狂うだけの能力」


「それでも、その力で遥を護ってきたんでしょ?」


 桜は何も言わずにコクりと頷く。


「そんなテレパシーが使える訳じゃないんだから。誰でも、信用しなくちゃ心配にもなるよ」


「美佳さまは天月真夜を信用しているのですか?」


「信用……うん、そうだね。真夜と話してると不思議と安心感があるよ」


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