Phase.5『協力の意思』part.1
「あれ、真夜。その手どうしたの?」
翌日、昨日の怪我をした左手を応急処置だけして学校に来たが、登校中に美香に見つけられてしまう。
一応包帯を巻いてあるため、傷口は見えないようになってはいるが、少しだけ血が滲んでいるのがわかった。
「昨日の見回りでね」
「え、まさかもう行っちゃったの?」
「うん、ごめん」
永夜は左手を隠しながら言う。
「大丈夫? 痛い所ない?」
「いや、左手を怪我しただけだから」
「見せてっ」
そう言って手を取る美佳。
永夜は驚いて手を引っ込める。
「いや、応急処置はしたから大丈夫だって……」
「ダメ!」
ピシャリと言い放たれる。
永夜は少し怯んでしまう。
美佳は本気で心配してくれている。
しかし、回りの目が気になったのだ。
恥ずかしいとか、そういう感情ではなかった。
永夜は渋々包帯をとって手を差し出す。
「ほら大丈夫だから、ね?」
「うん、わかった」
ようやく手を話してもらい、包帯を巻き直す。
「で、何かあったんでしょ?」
見回りの結果を聞く美佳に永夜は小声で話す。
すると、美佳もそれに合わせて小声にする。
「……写真の子に会った」
「え、嘘! 捕まえたの?」
「いや、逃がしちまった。でもあの子が触ったこの時計の……壊れた鎖の部分で美佳がサイコメトライズしてくれれば後を追えると思う」
「うーん、有紀斗の協力は必要無くなっちゃったって事ね」
「そうだな」
そう、有紀斗の協力は必要無くなった。
だが『あくまであの場所について調査する時は』である。
吸血鬼で魔力を持っている者は、血の濃さに比例する。
永夜の場合は吸血鬼としての血が薄いため、魔力を持っていないのだ。
しかし、純粋な吸血鬼の血を持っている者はかなりの大魔術が行えるほどの魔力を持っている。
少女がまだ同じ場所に隠れているとは考えられない。
もう結界の目は潰して、他の場所に移って別の場所で結果を張って潜んでいるかもしれない。
だが、そんな事を言えば美佳は後で有紀斗に協力を頼もうとするだろう。
そんな事はさせない。絶対に、と永夜は心の中で自分に言い聞かせた。
「おはよう、真夜さん」
「え? おはよう。有紀斗君」
教室に入って席に座ると、永夜は目の前の席の少年に話しかけられる。
永夜の前の席の少年、長瀬有紀斗。
調査中に話しに出てきた、A組の魔術師である。
長瀬有紀斗も美佳のように家族が代々魔術師で、有紀斗はその長男。
本人曰く、幾つもの魔術回路を持っていて、難易度DからAまでの魔術を行える。
「今日、ティンカーの仕事で裏通りに行くだよね?」
「あ、その事だけど。また今度って事になって……」
「え、そうなの? 残念だね」
有紀斗はとても残念そうな顔をする。
スクールティンカーの仕事ははっきり言って、仲良しごっこ以上、捜査未満だ。
ただ、能力を行使して捜査を行っているから成果があるだけ。
実際に凶悪犯を捕まえた事はないはずである。
事件に首を突っ込むのは、面白くも何ともないはず。
それを残念そうにするという事は、スクールティンカーの仕事は楽しいと思っているからなのだろうか。
「有紀斗君はスクールティンカーの仕事の協力ってどう思ってたの?」
「前にも一回だけ協力した事があるんだけど、結構面白かったよ」
「そうなの? 私はそうとは思わないけど……」
「真夜さんは『警察が暇なのはトラブルが無い証拠だから~』って言う人?」
「わかんない。……でも事件が無いのはいい事だよね」
「真夜さんは優しい人なんだね」
突然、有紀斗は笑いながら言った。
永夜は今まで『優しい』なんて言われた事は無い。
調査班のミッションはいつも秘密裏に行っていた。
攻撃班、護衛班は隠れる訳にはいなかないのだが、残りの調査班、補助班、特別班はほとんどが歴史の闇の中である。
ミッションが終わった後は『よくやった』とか『上出来だ』などの言葉ばかりで、『優しい』など言われた事がない。
調査中に襲われたこともあり、その度に殺すこともあった。
その時の血の臭いは、今でもはっきりと覚えている。
「そんな事は無いと思うけど?」
「よく平和が一番って言うでしょ? それでも、何か刺激が欲しいって言う人の方が多いと思う。スクールティンカーのメンバーは代々、そういう思考が強い人が選ばれてるんだよ。何故だかはわからないけどね」
「ふーん」
確かに美佳や修は事件に自ら首を突っ込む性格のようだし、遥はその美佳に乗っかっているだけ。
それでも、スクールティンカーの仕事が面白いと思っているからこそ、今もメンバーのままでいるのだろう。
桜は遥に着いているだけだが、スクールティンカーの仕事が不都合ならば、止めさせように言うだろう。




