Phase.4『吸血鬼の時計』part.3
「えっと、桜?」
「……後程、伺います。貴女がどこの誰なのか、その時になればわかるでしょう」
「えっ」
「では」
桜は時計を返すと、足早に去っていき、遥のすぐ近くで待機する。
『貴女がどこの誰なのか』という言葉は、天月真夜の素性を調べるということだろうか。
ならば心配はあるまい。
永夜はこの地域の住民ではないのだから。
「いや待てよ?」
永夜は思考を巡らせる。
天月真夜の素性を調べると、どうなるか。
もちろん天月真夜は星亮市民ではない上に、偽名なのだから、調べられるはずがない。
しかし、逆に考えれば?
天月真夜はどこの誰かもわからない、謎の人物となる。…………怪しすぎる。
もし永夜が桜の立場なら、天月真夜を徹底的に調べるだろう。
「はぁ、調査の前に色々とやることがあるなぁ」
ため息をついても、誰も気付かずにいた。
永夜は時計を再び見、携帯端末で写真をとると、画像データとしてメッセージと共にウィアドに送信する。
「真夜~?」
「え、うん?」
美佳が呼ぶ声がする。
「サイコメトライズの結果、出たよ」
「で、どうなの?」
すると、美佳は落ち着いた口調で話す。
「ここで吸血鬼の時計を拾ったってことは、ここに犯人がいたってこと。だからサイコメトライズをしてみたんだけど……。写真の女の子と同じ、と言っても服がだいぶ古くなっていたみたいだから、その女の子は私達より年上かもしれない」
「でも、吸血鬼は人より老化が遅いと聞いたことがあるのですが……」
「確かに、私達吸血鬼は人に比べて長寿。それも純粋な吸血鬼になればなるほどね」
「純粋って?」
修の問いかけに、永夜は頷いてから答える。
「人間にも『ハーフ』や『クォーター』があるでしょ? それと同じで、吸血鬼の血が濃い、薄いがあるの。吸血鬼の血が濃ければ濃いほど老化が遅くて長寿だけど、太陽の光に弱くなる。でも、例外として太陽光に強い種もいるらしいけど、私は見たことは無いわ」
永夜の説明を聞いて納得したのか、四人はうんと頷く。
だが、これだけでは調査は進んでるとは言えない。
永夜はもう少し美佳の話を聞いてみた。
「美佳、女の子はどこに行ったかわかる?」
「……やってみる」
永夜は時計を差し出すと美佳に渡す。
美佳は目を閉じて意識を集中させる。
数十秒の時間が経ち、美佳は目を開いた。
すると「あっち!」と裏通りの奥を指差した。
「おお、美佳すげぇ」
「さすが団長ですね」
「ありがとう、美佳」
皆に褒められて恥ずかしそうに顔を掻く美佳だったが、すぐに真面目な顔になる。
「ま、まだ犯人を捕まえられたって訳じゃないんだから。ほら、追いましょ!」
と言って、先に行ってしまった。
何度もサイコメトライズを繰り返して、三時間。
スクールティンカーは裏通りのかなり奥に来ていた。
長い間誰も来ていないのか、荒れ放題な奥地だった。
どうみても少女が一人で来るような場所ではない。
それ以前に、人っ子一人すらいないのだ。
写真の少女がここに来たということは、少女が犯人である可能性が高い。
「?」
「ん、どうかした?」
「ううん、気のせいだと思う」
「そう? で美佳、女の子はどこに?」
しかし、美佳は首を横に振った。
「わからない。ここだとサイコメトライズができない。何で?」
相当混乱している。結界か何かのせいで力が使えないのだろうか。
永夜は試しに翼を広げてみる。
「ちゃんと広げられる」
永夜につられて他の三人も試してみる。
「ちゃんと火はつくぞ?」
「私もちゃんと力が使えます」
「問題ありません」
どうやら美佳だけが力が使えないようで、他のメンバー全員とも問題なく力を使える。
「何かの魔法の結界ですかね?」
「さあ?」
思い出せば、ついさっき美佳は何かを感じたようだった。
永夜は何も感じなかったし、修も遥も桜も何も感じていなかったようだ。
もし魔法による結界だとすれば、これは追跡系能力のみに発動する術式なのだろう。
写真の少女がここに隠れているとすれば、この結界を張ったのは写真の少女……いや、男の方かもしれない。
「結界ならどこかに『目』があるはずだけど……」
「残念ながら、今この場に長瀬君はいませんからねぇ」
「長瀬君?」
「はい。長瀬有紀斗君。1年A組の魔術師です。魔術の知識なら彼に聞くのが一番だと思いますよ?」
「長瀬君……魔術師。1年A組にはいろんな人がいるんですね」
「個性が豊かな人が多いクラスで楽しいですよね」
少々豊か過ぎではないだろうか。と永夜は思ったが、心のなかで留めておく。
「でも、長瀬君を呼ぶには時間が遅くなってしまいましたね。明日にしましょうか」
「そうですね」




