Phase.4『吸血鬼の時計』part.2
昼休みの後は体育だった。
男子はグラウンドでサッカー、女子は体育館でバスケットボール。
初めは男子の方に行きたいなぁ。と思っていたが、永夜の思考はすぐに入れ替わった。
もちろん、更衣室だ。
なんとか美佳に協力してもらって切り抜ける事ができたが、心臓に悪く、美佳からはじと目で見られていた。
女子は通常ブルマを履くことになっていて、永夜は焦っていたが、美佳からジャージでもいいと聞いてほっとした。
「真夜、パス!」
と、美佳からボールが回ってくる。
永夜はぼーっとしていたためか、少し戸惑う。
それを狙って相手チームがボールを奪おうと迫るが、永夜は難なくこれを突破。
あまりの素早い動きに驚くも、次々にブロックしてくるが、永夜にとって問題にすらなっていない。
「やりますね、真夜さん」
すると、目の前に遥が立ちはだかる。
そして、その後ろには桜。
スクールティンカーの怪力と邪気眼のコンビである。
「押して参るっ」
ダッ、と桜が前に出てボールを奪おうと迫る。
桜は尋常ではない桜の早さに驚きながらも、永夜はボールを逃がし、ゴールに向かおうとする。
「行かせませんっ!」
遥の時間差攻撃。
遥の手がボールに触れようとするギリギリでターンし、遥の攻撃を避ける。
しかし、いつの間に移動したのか、桜が右サイドから攻撃してくる。
永夜は左手でボールを持ち、桜の攻撃を避ける。
やはりと思うが、遥が左サイドから攻撃してくる。
かなりのコンビネーションである。
永夜はどうするか迷っていると美佳がゴールに向かって走っていくのが見えた。
桜と遥は美佳の移動に気づかなかったのだろうか。
それでもこれはチャンスだと思い、ボールを投げる。
「美佳っ!!」
美佳はゴール手前でボールを受け取り、シュートする。
すると、回りから拍手が溢れ出した。
見回すと、自分のチームだけでなく、相手チームも拍手をしていた。
「やったね、真夜!」
「うん、そうだね」
「真夜って、バスケやってたの?」
「え、やってないけど?」
放課後、スクールティンカーの集まりでそんな話が持ち上がった。
「それなら、なおさら凄いですね。真夜さんは私と桜のブロックを躱し続けたんですから」
「え、マジ? 真夜さん、遥と桜のブロックを避けたの?」
そこに何故か食いつく修。
「凄いじゃん、真夜さん。二人のブロックは俺も抜いた事ないのに」
「遥と桜のコンビって運動面だと全国レベルなのよ? って言っても、二人とも力を使ってるからなんだけどね」
永夜は遥と桜の方を見てみる。
遥は『お嬢様』ということで、どう見ても運動が得意そうには見えない。
桜は相変わらずの無表情で辺りを見回している。
ボディーガードの頃もこの調子だったのだろう。
「さて、今日はどこを調査しましょうか」
「やっぱ、真夜が時計を見つけたって言う裏通りがいいんじゃない?」
「え、でも危険だよ?」
「危険だとわかってるからやってるんでしょ?」
「いやでも……」
美佳を含め、修、遥、桜の全員が調査を続ける気満々だった。
危険だとわかっていても進む。
『勇気と無謀は違う』と悪役の台詞でも、正しいのてあると、永夜は知っている。
永夜の頭の中は、いつの間にか天月真夜のことでなく、一般市民を巻き込んでしまったという想いでいっぱいだった。
「たとえ犯人が現れても、俺達なら負ける心配なんていらないって」
「そういう問題じゃないんだけど……」
そう言うも、四人とも何もわかっていないようだった。
「さあ、レッツゴー!」
『おおー!』
裏通りの、永夜が時計を見つけた場所。
昨日永夜が探し回ったにも関わらず、スクールティンカー全員で再調査をしている。
つんつん、と誰かが永夜の背中を叩く。
「……ちょっと」
「桜?」
背中を叩いたのは桜だった。
「えっと、何?」
「もう一度時計を……」
「時計?」
永夜は再び時計を見せる。
桜は時計を開き、写真の少女を見る。
たったこれだけの事に自分を呼んだのだろうか、と永夜は思った。
すると、桜は時計を見ながら話し始める。
「なぜ?」
「なぜって、何が?」
「なぜ、裏通りを探したの?」
「いや、暗い場所での犯行だからぁ、って思って」
「本当にそれだけ?」
永夜に目を向ける桜は何かを疑っている。
しかし、桜のポーカーフェイス故に、どこを疑っているのか確信が持てない。
まるで自分の存在が疑われているような。そんな目だ。