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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.4『吸血鬼の時計』part.1

 翌日、永夜は時計を鞄の中に入れて寮を出た。

 とにかく、解散した後に裏通りに行ったら見つけたという事で、時計を皆に見せればいい。

 そして、今は四時限目。数学。

 初日も思ったが、授業の内容がほとんどわからない。

 唯一分かるのは『英語』。永夜はいろんな国に行った事があるために、英語だけはわかった。

 任務も大切だが、学業についての自分の弱さにもっと勉強をしないといけないな、と思わされたのだった。


「はぁ…………、俺二十歳になるんだけどなぁ」


 しかし、戸籍上。


「んじゃ、問六を…………天月」


「え、…………あ、はいっ(くっそー、こんなん分かるかよっ!)」


 適当に答えを書いて、席に戻る。

 当然ながら間違っていた。


「はぁ…………」


 そして、溜め息をつくのだった。

 そのままズルズルと時は流れ、昼休みになる。


「んで、真夜。見つけた物って?」


「あ、うん。コレ」


 美佳率いるスクールティンカーの五人は屋上に続く階段に集まっている。

 永夜は昨日拾った時計を取り出して皆に見えるように掲げた。


「何か、高そうな時計ですね」


「中に写真が入ってたんでしょ?」


 今度は時計を開き、写真が見えるようにする。

 すると、遥が声を上げた。


「あ、この人。『魔王』ですよ!」


「『魔王』?」


「そっか、真夜は知らないんだね」


 すると、美佳は『魔王』について詳しく教えてくれた。

 『魔王』とは、吸血鬼事件が発生する前から存在していたあだ名で、五年前から世間を騒がせていた『連続殺人鬼』の事を指すと言う。

 犯人は2049年の冬に逮捕され、死刑となった。

 『魔王』は著名な人物ばかりを狙った殺人鬼らしい。

 警察はまだ全てを公表するつもりはないらしい。

 なぜ永夜がそんな事を思うのか。

 答えは簡単。永夜もこの事件については知っているからである。

 ウィアドで聞いた情報は、犯人の名前は荒刃鬼(あらばき)竜也(りゅうや)。政治の裏に繋がる人物で。暗殺を仕事とした、金さえ貰えばどんな人物でも殺るという男。


「で、何で魔王?」


「さあ。俺が聞いた話では、全く行方がわからないから……って感じだったような」


「『魔王』は著名な人物ばかりを殺していたため、警察総動員で『魔王』の捜索にあたったんですが、結果は失敗。まるでRPGの魔王の城にでも隠れているのかもしれないとニュースキャスターか呟いた所から、『魔王』というあだ名がつけられたんです」


 そんな『魔王』と一緒に写っているこの吸血鬼はいったい誰なのだろうか。

 『魔王』は当然ながら人間である。

 人ならざる者が人間社会に溶け込んでいる今の世の中では、人とそうでない者が写っている写真は、そう珍しい物ではない。

 しかし、ぱっと見ではわからないのが当たり前。

 時計の写真の少女は自分が吸血鬼である事を晒している。

 そんな写真は珍しい。

 大抵、コスプレか何かと思われているらしく、化け物だと驚かれることはないとか。


「つまり、この女の子が吸血鬼だって事?」


「話が早くて助かります」


「以外に可愛い娘だなぁ」


 すると、桜が修の頭をひっぱたく。

 パァン、と景気のいい音が鳴り響いた。

 桜は修が暴走しないようにブレーキをかけるという役割を持っているとか。

 それでも、とても痛そうな音だった。

 修はたいそう女の子が好きで、可愛い女の子を見ると胸に熱い炎が灯るらしい。

 発火能力者(パイロキネシスト)だけに、危ない例えである。


「大丈夫、桜も負けないくら――――――」


 その瞬間、桜はタンッと地面を蹴って空中に飛び上がると、修の頭にオーバーヘッドキックを決めた。


「――――――い!」


 思いっきり地面に修の頭がぶつかり、そのまま動かなくなった。


「大丈夫なの?」


「いつもの事だから。修も真夜が来て興奮気味なんでしょ」


 そう言うものなのだろうか。

 もっと別の物が、今の修にはあった気がした永夜である。

 永夜は修を元の体制に戻した後、話を続ける。


「解散した後、裏通りの方を調べてみようと思っていたら、この時計を見つけたって訳」


「えっと、何故裏通りの方を?」


「だって、裏通りって夜になると真っ暗でしょ?」


 吸血鬼を見たなんてとてもじゃないが言えない。

 修、遥、桜の三人には天月真夜が偽りの人物であることは秘密なのだから。


「なるほど。桜、この人物について調べられる?」


 すると桜は写真を覗き込み、うんと頷く。


「明日までに調べておきます」


「えっと、どういう事?」


「メイドにはメイドの情報を得る方法がある、そういうことです」


 遥はいたずらっぽく笑って見せる。

 メイドにはメイドの情報の得る方法がある。その言葉に一瞬だけ気を引かれた。

 いったいどんな情報の得る方法があるというのだろうか。

 しかし、一般人に捜査の協力をさせているという事実に永夜は抵抗を受けていた。

 本来ウィアドは表向きの組織ではないのに、こうしてスクールティンカーなどという学生の一団体と協力して進めている。


「…………はぁ」


「どうしたの、真夜。ため息をつくと幸せが逃げるよ?」


「何でもないから気にしないで」


「????」


 美佳は、さっぱり分からないという表情をする。

 それでいいと永夜は思った。

 と、そこで修が会話に復帰。


「真夜さんは幸せが感じられないんですか!?」


「いや、別にそんな事は言ってな」


「なら、俺が楽しい所に連れていきましょう! あ、ホテルとかじゃないんで心配しないでくださいね?」


 スパァン。

 再び快調な音が響いたが、誰が奏でた音かは言うまでもないだろう。


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