Phase.3『スクールティンカー』part.4
「うーん、じゃあどうすっかなぁ」
修が面倒臭そうに言う。
「…………」
「桜?」
すると、遥が桜を呼んだ。
桜は現場に残った血痕をじっと見ている。
血痕と言っても、ほとんど消えかかっている。
いったい何を見ているのだろうか。
「…………ニュースでは、出血が大量だったのを覚えてる」
「それが?」
「血を吸う吸血鬼が何故、血を大量に溢すのか……」
「つまり、桜は犯人は吸血鬼じゃないと言いたい訳?」
それに対し、桜は首をかしげる。
遥は永夜に目線を移し、永夜はそれに気づいて話始める。
「大量に血を溢しているからと言って、吸血鬼ではない訳ではないですよ? 私達吸血鬼は吸血するときに、脛動脈を狙って噛みます。だから大量に血が出てしまうのでしょう。しかし、ちゃんとしたやり方をすれば、噛んだ後も血を出さないようにできます。でないと、その人は死んでしまいますから」
「じゃあ犯人が吸血鬼だとして、何で血を溢しているんだ? 被害者は全員生きてるんだぞ?」
「多分、犯人の吸血鬼も血を出さないように手順を追って吸血を繰り返していると思います。考えられるのは本当は吸血鬼でない、もしくは小食である事」
『小食?』
全員が首をかしげる。ここからは通常、吸血鬼しかしらない話だ。
永夜は少し迷ってから言う。
「人に小食や個食などがあるように、吸血鬼にもそれがあるんです。つまり、大量の血が出る脛動脈を噛んでも小食だから溢してしまう。そういうことなのかも知れませんね」
確証なんて無い。ただ、傷跡の形から犯人は吸血鬼である事は間違いない。
「さっぱりね」
「そうですね。もう遅いですし、今日は帰りましょう」
「うしっ、賛成」
日がかなり傾いていて、寮の門限が近づいている事を示していた。
今日の所は解散。新しい情報は得られず、調査は全く進まない。
残っている情報は、裏通りに逃げた吸血鬼の影。
「今日は裏通りに行ってみるか……」
「え、何? 真夜」
「ううん、何でもない」
星亮市の裏通りは商店街の明かりが届かず、月明かりさえも、角度によっては届かない仕組みになっていた。
永夜は現在、その裏通りにいる。
太陽は沈み、月明かりがうっすらと辺りを照らしている状態となっている。
月明かりがなければ、一寸先は闇、という状況になりかねない暗さだ。
昨日の吸血鬼が未だここを動かずにいるとは思えないが、『そこにいた』という証拠が欲しかった。
何か落ちていないか。
そんな少ない可能性がありますように、と祈りながら暗闇の中を探し続けた。
探しながら、永夜は色んな事を考えた。
吸血鬼事件の犯人を捕獲、もしくは射殺が任務。
つまり、永夜は同胞を撃つ事になるかもしれないのだ。
その時、永夜は何も私情を挟まずに引き金を引けるのか。永夜自信、とても心配だった。
いつも通り、いつも通りと心の中で唱えても、永夜の不安は消えることはなかった。
不安と言えば、ミッション完了後も星亮高校の生徒として、潜入を続けなければいけないのだ。
早い所天月真夜から解放されたかったが、それも難しくなった。
どうにか学校や生徒を説得できないだろうか。
そもそも、女装を強要したのは勝吉である。
永夜の義父親とは言え、勝吉はウィアド日本支部の支部長である。
立場上逆らえるはずがなかった。
「…………はぁ」
永夜は調査を続けながらも、自分が女装を止めたいと言った時の勝吉の反応を考え、大きな溜め息をついた。
「……ぶつぶつ……大体、俺じゃなくても……ぶつぶつ……調査班の中に女性メンバーもいるし……ぶつぶつ……チェイサー6とかも適任だと……ぶつぶつ……」
愚痴を溢しながら調査をしていると、永夜は何か光る物を見つけた。
「ペンダント……いや、時計か?」
それは銀色の時計だった。
珍しいアンティークな装飾、アナログ時計で、開けると写真が入れられる物。
永夜は中を見てみた。
そこには黒髪の少女と、長身の男の姿が写っていた。
少女の方は、にぱっと笑った笑顔が可愛らしい。
長身の男の方は、優しそうな笑顔を見せている。
誰の物だろうか。そんな事を思っていた時だった。
「…………コイツ」
気のせいではない。少女の犬歯が人と言うには少し長すぎる。
犬歯が長い者は、吸血鬼や狼男など、その類いの種族である。
そして、男の陰で見辛くはあるが、少女の背中から吸血鬼の物と思われる翼が生えているのが確認できた。
「コイツが吸血鬼? いや、でも昨日の奴がこの辺りに落としたのだとしたら……」
確証は無いが、現在で一番怪しい容疑者である。
永夜はポケットに時計を入れると、寮に帰った。