Phase.3『スクールティンカー』part.2
「真夜はね、吸血鬼なんだよ」
「へっ?」
美佳は確かに『吸血鬼』と言った。
永夜は呆然としている。
しかし、呆然としているのは永夜だけではなかった。
美佳を除く、スクールティンカーのメンバー全員が何も言えないでいた。
『…………』
「…………?」
『…………』
「…………えっ?」
『えぇ――――――!?』
やっと声を出せた。
だが、混乱している状態だからであった。
「ちょっと、美佳。何で言うの! 疑われるの私じゃん!」
「え、本当に天月さんは吸血鬼なの!?」「真夜が吸血鬼なのは嘘じゃないよ」「いや、嘘! 嘘だから忘れて!」「いや、真夜さん。この状況での誤魔化しは認めるということに」「いやもう、本当に……!」「…………」「その無言で見詰め続けないで、桜さん!」「…………ちっ」「舌打ちしましたよね!」「気のせい」「そんな訳ないでしょ!」
「静かにっ!」
ピシャリと美佳の声が混乱する永夜達を静める。
永夜達はやっと冷静になり、美佳は再び話し出す。
「真夜は確かに吸血鬼だけど、吸血鬼事件の犯人じゃないよ。真夜が吸血鬼事件の犯人だったら、それを知っている私を生かしておくわけ無いでしょ」
軽い口調で物騒な事を言う美佳であったが、確かに永夜なら自分が犯人とバレた瞬間、口封じをするかもしれない。
しかしあくまで、永夜が犯人だったら、だ。
当然永夜は犯人ではないのだから、口封じする意味もない。
「まあ、確かにそうだけど……」
「真夜さんが犯人ではないという証拠にはなりませんね」
「…………」
修や遥は疑いの目で永夜を見るし、無口な桜の永夜を見る目は鋭く、敵意が剥き出しだった。
このままでは三人に信じてもらえない。
「皆、真夜を信じてあげられない? 真夜は仲間の吸血鬼を助けてあげたいと思い、スクールティンカーに入るという条件を飲んで、協力を要請したのよ?」
「え、いや。別に脅されただけ……」
「真夜は吸血鬼事件の犯人じゃない。これは本当。何度でも言うわ。真夜は吸血鬼事件の犯人じゃないの!」
三人は美佳の気迫に圧倒されている。
美佳の目は確かに本気だ。今の美佳の目力は、かなりの物であろう。
すると、遥は溜め息をつく。
「では、真夜さんが犯人ではないというのなら、これから被害者を一人も、せめて私達の中では一人も出さないようにして吸血鬼事件を解決してください。それまで、私は真夜さんを完全には信用できません」
「じゃあ、それまで真夜は仮入団って事で決まりね。修や桜は?」
桜は首を振り、修は「遥さんの意見に賛成」と言う。
「ありがとう、皆」
「まだその台詞は早いよ? 私達はこれから吸血鬼事件の捜査をしに行くのよ?」
「え、もう?」
「善は急げ、早速行くよ!」
永夜は美佳に手を引かれて連れていかれる。
美佳は既に天月真夜という女生徒が柳永夜という男だという事を気にしていない。というより、意識的にに見ないようにしていた。
捜査開始から既に一時間がたった。
永夜や修、遥は真面目に考えているようだ。
桜は相変わらず無口で無表情。眉一つ動かさないため、何を考えているのかさっぱりわからない。
そして、美佳はと言えば。
「おじさーん、たこ焼くんねぃ!」
飽きていた。
「美佳はこういう地道な作業は嫌いなんです、昔から」
「はぁ、そうなんですか?」
捜査の結果。美佳の案で聞き込みから始めた所、やはりと言うか、何も有益な情報は得られなかった。
しかし、永夜は今スクールティンカーに接触して良かったと思っていた。
ただの高校生一人よりも、スクールティンカーという団体で聞いた方が自然だった。
それに、スクールティンカーは星亮高校では伝統の『部活』で、星亮市民なら一度は聞く名前だったのだ。
スクールティンカー』の団長となる星亮高校、最高学年の生徒が次の世代に引き継ぐ事により、存続してきたのだと言う。
しかし今年は部員が集まらず、最高学年が1年生となっていた。
前期団長は朱知美佳の姉、朱知美代で、姉から家で直接任命された。
美代は美佳より強い力を持つサイコメトラーで、現在は海外で仕事中らしい。
「でも、やる気は十分あるんですよ? 最初だけですが……」
「はははっ、それは凄いですね」
「でもっ、美佳は仕事がポンポン進まないと、あーやって飽きちゃう訳」
「へー」
美佳はサイコメトラー。つまり追跡者。
本人も自分は追跡者だと言っていたのに、途中で捜査を放棄する追跡者がはたしているだろうか。
ウィアドでは仕事を絶対に失敗してはいけない、と教えられている。
攻撃班なら、戦闘で亡くなった人達の気持ち。
護衛班なら、護衛対象やその遺族の気持ち。
調査班なら、被害者やその遺族の気持ち。
そして、サポート班はそれぞれの人達と大きな責任を負っている。
それを考えると、やはりスクールティンカーに協力してもらうのは間違いなのかもしれない。と考え直す永夜であった。