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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.2『サイコメトラー』part.4


 美佳とのトラブルですっかり遅くなってしまった。

 急いで任務に向かわなければ、帰るときには真っ暗になってしまう。

 ポケットにナイフ。

 テレビの女スパイのように股に拳銃とホルスターを着けて準備完了。

 弾薬の予備も持っているし、完璧のはずだ。

 ちなみに銃はM1911A1。

 普通の弾丸の他に対吸血鬼として銀でできた弾丸を貰っている。

 吸血鬼自身にそれを渡すのはどうかと永夜には思う所があったが、何も言わないでおいた。


「………よし」


 この寮は警備システムはしっかりしている。

 就寝時間を過ぎても扉が開いたりすると、ブザーが鳴るようになっている。

 だが、一つだけ外に出る方法がある。

 窓だ。

 この窓は大体15センチ弱しか開かないようになっている。

 だが、少し弄れば……………できた。

 窓は完全に開き、人一人が余裕で出られるくらいに開いた。

 もしも門限を過ぎて暗くなってから帰る事になってもここから入ってこられる。


「……えいっ」


 二階からのジャンプなら、吸血鬼の永夜にとってどうってことはない。

 吸血鬼は怪力無双だからな。

 腕力や脚力は人並みではない。

 それに吸血鬼だから蝙蝠に化ける事だってできるのだ。

 蝙蝠になれば飛ぶことができるが、人の姿の時でも翼を生やして飛ぶことはできる。

 ウィアドに来るまではできなかったが、ちゃんと練習した。

 蝙蝠に化ければ、潜入調査もなんなく遂行できる。

 だから、永夜は特別調査班に入ったのだ。


「まずは何処から見ていこうか」


 永夜は翼を生やす。

 背中に生えた蝙蝠の翼をはためかせ、夜空に舞い上がった。

 吸血鬼だからだろうか、満月が出ている夜は気分がいい。

 永夜は夜空を飛び回りながら、資料にあった吸血鬼事件の現場を回る。











 結果…………何も見つからなかった。

 警察が調べた後でもあるし、時間が経ちすぎているのだから仕方がないだろう。

 辺りは真っ暗だ。


「……帰るか」


 建物の屋上から寮の方向へ飛ぼうとしたその瞬間、月明かりの中を飛んでいる物が視界に入った。

 鳥や蝙蝠の類いではない。

 夜空を飛んでいるソレは、翼を生やしていて、人の形をしている。

 永夜はソレに向かって飛び上がる。

 ソレは飛んでくる永夜に気付いて振り向く。

 しかし永夜の方から見て、月を背に振り向いた為に顔が見えない。

 それでも、永夜と同じような蝙蝠の様な翼を生やしていることがわかった。

 吸血鬼であることは間違いない。

 もしかしたら、吸血鬼事件の犯人かもしれない。

 そう思った瞬間、吸血鬼は慌てて逃げ出した。


「待てっ!」


 待てと言われて待つ奴はいるはずもなく、その吸血鬼は町の暗い裏通りに向かって滑空していく。

 永夜もそれにつられて滑空するが、相手は永夜なんかよりずっと速い速度で滑空していく。

 そして、光の届かない裏通りの闇に溶けて消えた。

 そこで永夜は動きを止めて吸血鬼が消えた裏通りを見詰める。

 暗くてよく分からなかったが、永夜より小柄で、スカートのような物を履いていた。

 永夜みたいに女装する奴がいるとは思えないし、吸血鬼は間違いなく女性である事は間違いないだろう。


「報告用件あり、っと。…………あ」


 永夜は報告する用件はもう一つあることを思い出す。

 そう、美佳に女装の件を知られた事である。

 きっと「早っ!」と言うに違いない。

 その後は何かと説明をして、まだミッションを続けられる事を伝えなければならない。


「先が思いやられるなぁ」










「ウィアド特別調査班。コードネーム、チェイサー7。定時報告。緊急報告用件あり」


 寮の窓から自室に入り、端末の電源を入れて定時報告をする。

 すると、画面に勝吉の顔が写し出される。


『お疲れ様、チェイサー7。用件とは?』


「いやぁ、その事なんですが……」


『元気が無いね。まさかもう女装がバレたのかい?』


「はい、実は…………」


『まさかそんな事はな、早っ!』


 『そんな事はないだろう』と言いたかったらしいが、そうもいかない。

 永夜は申し訳ない気持ちで一杯だった。


「一応、訓練通りすべて話して…………納得してもらえたと思います。ミッションは続行可能ですが、スクールティンカーとかいう団体に入ることになってしまいました」


『スクールティンカー…………まだ残っていたのか』


 勝義の声の後半は永夜の耳には届かなかった。


「…………義親父?」


『いや、何でもないんだ。ミッションの続行が可能ならいい。引き続き、任務に当たってくれ』


「わかりました。あ、それと先程、現場を見に言ったのですが。吸血鬼らしき影を見ました。残念ながら取り逃がしてしまいましたが……」


『なるほど。他に何かわかった事はあるか?』


「その吸血鬼は、自分よりも小柄で、女性であることです」


『顔は見なかったのか?』


 しかし、永夜は首を振った。


「残念ながら、月明かりのせいで……」


『それは仕方がない。ご苦労様、チェイサー7。ゆっくり休んでくれ』


 通信終了。端末の電源が切れる。

 永夜は端末を机の上で充電状態にさせた後、ベッドに横になる。

 すると疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。


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