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【吸血鬼の変奏曲(パルティータ)】  作者: 稲木グラフィアス
第一章『銀髪の追跡者(チェイサー)』
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Phase.2『サイコメトラー』part.3


「真夜…………本当は男だよね?」


 唐突だった。永夜は魚の様に口をパクパクとしている。

 何を言っていいのかわからない。

 バレてしまった?

 いや、ただのハッタリかもしれない。

 何せ確信できるはずがない。


「な、何を言ってるの?」


「誤魔化しても無駄。私にはそういう力があるんだから」


「それって、まさか……サイコメトリ?」


「正解~。さっき真夜の鞄を触った時に真夜が変なおじさんに『えいや』って呼ばれてたのもそれでわかったの」


「でも、なんでそれで私が男だと思うの?」


「『えいや』にはそんな胸無かったし……ね」


 と、美佳は永夜の胸部の膨らみを掴む。

 もちろんパッドなので固い為、形が崩れないでそのままになっている。


「トイレで服を脱がそうとした時に胸が固かったから、やっぱりって確信したの」


「…………ご、ごめんなさい!」


 永夜は素早く土下座の体制になる。

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、と某双子のように謝り続けた。


「ちょっ、真夜。怖いから止めてよ!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


「や、止めないと人呼ぶわよ!」


「ごめんなさいごめんなさ…………はい」


 永夜はようやく落ち着きを取り戻し、床に正座する。

 しかし、手足はまだブルブルものだった。

 美佳に正体を知られた以上、バラされれば全てが終わる。

 ウィアドでは変装がバレた時は、情報漏洩を防ぐために知られた相手を排除…………なんて事はせず、包み隠さず全てを話して納得してもらう。

 ウィアドは殺しはしない。

 場合によってはありうるが、無関係の一般人を殺害したりはしないのだ。

 そういう類いの依頼は、専門の団体が受け持つ。

 つまり、ウィアドとは敵関係にあるのだ。

 実質、ウィアドは今までに幾つもの危険な団体を壊滅させてきた事で、国家間では有名なのである。


「さて、と。話してもらえる?」


「私は…………いや、俺は」


「おぉ、真夜の男喋り!」


「いや、男なんだけど。……ってそうじゃなくて!」


 やはり、美佳は美佳だった。

 彼女なりの心遣いだろうか、永夜は少しリラックスして話す事ができた。


「俺、柳永夜はウィアドっていう特殊武装組織に所属している」


「ぶ、武装?」


 美佳は武装という単語に反応する。

 いきなり武装と言われても信じられないのだろう。


「ウィアドは国の公認を得て、警察が解決する事が不可能で、自衛隊を派遣するわけにはいかない事件、世間には秘密にしていたいという事件、警察は信用できないという要人の依頼等を受け持つ武装組織だ。俺はそんな組織の調査班の一人で、吸血鬼事件について調べ解決するという任務でこの星亮高校に潜入しているんだ」


「吸血鬼事件って、あの?」


「そうだ」


「真夜……いや、永夜がここに来たって事は犯人はこの高校にいるって事?」


「さあ、それはまだ調べなきゃわからない」


 そもそも、永夜は今日から任務にあたるのだ。

 放課後、今までの吸血鬼事件の現場を見に行こうとした所を美佳に捕まえられたのである。


「で、何で女装なんか?」


「それには深い訳が……いや、浅いと言えば浅いんだが…………」


 永夜は助走の理由を美佳に話す。

 理由を聞いた後、美佳は溜め息をついた後、静かに言った。


「微妙だね」


「うん」


「でも、男なのに髪も長いし、顔も男とは思えないし…………。整形でもしない限りこんな男の人いないよ?」


「うるさいっ、俺の意思でどうこうできるもんじゃないし。それにこの容姿の方が人を引き付けやすいって理由もあるんだ」


「引き付けやすい?」


「俺はな…………吸血鬼なんだ」


 すると、美佳は目を丸くした。

 目の前に吸血鬼がいて、たった今吸血鬼事件を話題に出したのだ。

 驚く所か、今すぐ通報されてもおかしくはない。


「でも、永夜は吸血鬼事件の犯人なんかじゃないんでしょ?」


「ああ、そりゃ当たり前だ。嘘と思うならそれでいい。この事を学校に言っても構わない。俺のせいだからな。俺が正体を知られたのが悪いんだ」


 そこまで言うと、美佳は再び溜め息をつく。


「ふふっ、ずっるい。その言い方ずっる~い」


 笑いながらそう言うその顔は、さっきとはまるで別物。

 既に永夜が女装をしていることなど気にしていない。そんなふうにも取れた。


「大丈夫、言わないでおいてあげる。でもその代わりに、スクールティンカーに入ってもらう事にするわ」


「…………わかった」


 スクールティンカーがどういう団体かわかってはいないが、女装をバラされるよりは遥かに安いはずだ。

 どういう団体かは、明日聞けばいいだろう。


「じゃあ、私は部屋に戻るから。永夜は任務頑張ってね」


「了解っ」


 バタンと扉が閉まる。

「はぁ」と溜め息をつく。

 その溜め息は永夜の物かどうか、永夜自身が驚くほどの物だった。


「ったく何やってんだよ、俺はぁ。こんなミッション一日目に正体を知られるなんて」


 美佳がサイコメトラー。その事は本当の様だ。

 初めて会った時、永夜の事を転校生かと言ったのも、彼女の能力が発動していたに違いない。


「さて……時間をロスしちまったし、すぐに行くかな」


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