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Prologue ※挿絵あり
月明かりが照る夜。
建設中のビルの鉄骨に座り込んでいる少女がいた。
短く、まるで夜空の黒の様に黒い髪の少女。
傍にはバイオリンケースが置いてある。
彼女が鉄骨に座り込んでいる所からして、普通の少女ではないことは明らかだ。
しかし、その他にも普通ではないと確信できる理由はあった。
背中だ。彼女の背中にはコウモリの様な翼が生えている。
西洋の妖怪。血を吸う化け物『吸血鬼』だ。
しかし、彼女が吸血鬼であることなど誰も知らないだろう。
ふと少女は立ち上がると、ケースの中からバイオリンと弓を取り出した。
バイオリンを構え、弓をそっと当てて、ゆっくりと動かす。
響いた旋律はとても幻想的で綺麗なものだった。
彼女の奏でる旋律に合わせるようにして周りにいたコウモリ達が舞う。
流れるような音の連なりは満月の夜空にコウモリと一緒に消えていった。