下準備は入念にしましょう 2日目開店前
「おはよう。起きて?六時だよ?」
私はベッドの下の布団で寝ている哲を起こし始める。
普段なら絶対に起きない時間だろうなと熟睡している哲を見る。
今のうちにと私はさっさと制服に着替えて、ダイニングに移動する。
今日はしっかりとご飯を食べたいから、ご飯の支度をする。
昨日あれだけ和食を食べたのに、ご飯に卵焼き、鳥の照り焼き。
温野菜のサラダ。私は自宅で済ませてしまうけれども、多分哲は
無理だろうから、お弁当に詰め込むことにした。
みそ汁のかわりに今日はけんちん汁なので、これは保温機能の
あるお弁当箱に詰め込む。
もうすぐでおじさんが迎えに来てくれる。
「いい加減に起きなさい。連れて行かないわよ」
私は乱暴に哲の布団を引きはがした。そこには今日学校に行く
服装の哲がいる。うちの学校は制服はあるけれども、別に私服で
投稿しても構わない。昨日も女の子によっては衣装で通学した位だ。
一応、今日は終わったら皆で打ち上げと言うことで私服登校に統一。
だから、朝早く出る私に付き合って登校するという哲を私の家に
泊めたのだ。今は、トレーナーとジーンズ姿。
「さっ、さみぃぞ」
「じゃあ、私…学校に行くから。置いてくわよ」
「おっ、俺も行くって」
完全に寝ぼけたままの頭の哲を引きずって玄関まで連れて行く。
寝癖のついた頭は…学校でセットする位はできるし、そのままにして
寝ぼけ旦那しようって事ですましてもいい。
「それより…俺の朝飯は?」
「大丈夫、お弁当持ってきたわよ。なんなら後でコンビニに行こう」
私は玄関のドアを開けた。
「おっ、今日は哲もいるんか。昨日…泊まったな」
「そうだね。じゃなきゃいる訳ないでしょ」
そう言って、私達はワゴンに乗り込んだ。
「昨日はどうだった?」
「凄く売れたよ。今日もこれから準備しないと」
「哲は何をやるんだよ?」
「…店員…」
おじさんは失礼な位に笑っている。
「気持は分かるけど、これでも需要があるんだから」
私は自分の気持ちに少しだけ蓋をする。
「そっか。女の子のストライクゾーンとは難しいの」
「男の子のストライクゾーンだって分からないっての」
あっという間に校門の前に着いた。おじさんにホウレンソウのお金を
支払って領収書を貰う。箱にしてぎっしりと4箱入っている。
足りなかったら…その時考えよう。
まずは生徒会の依頼の受付を作っておく。
その後に職員室に寄ってから、家庭科室の鍵を貰う。
「哲は…朝ご飯食べなさい。暖かいからね」
私は哲にお弁当箱を渡した。
「サンキュー。俺は何をしたらいい?」
「うーん食べてからでいいから、冷蔵庫から、鶏肉を取り出して貰える?
そのあとは玉ねぎの皮を剥いて欲しいの。」
「分かった、お前にそれなりに仕込まれつつあるんだから戦力になるぜ」
「そうだね。期待しているよ」
私はそういうと、最初にご飯を炊けるようにお米を洗う。今日は最初から
三升炊いておこうという計算だ。
鶏肉を小分けに切っていると、恵美ちゃんが弘樹君を連れてやってきた。
「おはよう。哲君も使われてるんだ」
「おはよう。とりあえず、一升は炊いてるよ。玉ねぎの薄切りを頼んで
いい?哲よろしくね?」
私はざるに入っている玉ねぎを哲に渡した。
「それじゃあ、弘樹はこのホワイトソースの缶詰を缶切りであけて。
その後にこの鍋でお湯を沸かすの」
「なんか…俺こき使われてない?」
哲は少しだけ不服そうだ。
「そう?哲は、私と一緒なら中華以外なら作れるでしょう?」
私の一言に弘樹君は目を丸くする。
「そうなのか…俺…料理できねぇよ」
「大丈夫。徐々に作ればいいのよ…恵美ちゃんがいるんだから」
「少し終わったら…ガトーショコラ焼いたから食べない?」
私は弘樹君と恵美ちゃんに聞いてみる。今日はお昼が食べれそうもないから
開店前に皆でおやつをしようと思ったのだ。
「真美?いつ焼いたんだ?俺手伝っていないぞ」
哲がひっかかる言い方をした。気付かれたかな?
「哲君…。昨日はお泊まり?」
「昨日から千沙子さん達結婚式で家にいないのよ。さすがに同じ布団じゃないって」
「なんだ。俺達と同じなのかと思った」
「弘樹君…うっかりコメントは人によっては地雷級に衝撃だから…ね」
恵美ちゃん…本当に実行したんだ。怖い子ね。
「あぁ、悪い。俺からすると昨日も言ったけど…」
「いいの。この時期に動きたくないの。それだけなんだ」
「真美…俺はお前に任せるよ。女の子の方が大変だろ?今日も馬鹿しような?」
哲はいたずら前の子供のような表情をしている。
「そうじゃなくちゃ。お祭りは乗っかって遊ばなきゃ」
私はそんな哲に返した。
「そういえば、今年のナイスカップルコンテストはお前達がぶっちぎりだってよ」
そういえば、そういうのがあったっけ。後夜祭の司会担当なのに全く進行表を
見ていない私がいた。
「弘樹君…私後夜祭の司会だった事…忘れてた」
「おいおい、それ大丈夫かよ」
「えっと、打ち合わせが…4時だから。閉店作業中に抜けるから」
「なんかな…オープニングの二人のウェディング姿がインパクトあったらしいぜ」
「でも…あのカップルって交際中限定?」
「それはないよ。部活のダブルスペアってのもあったから」
私は否定するが、コンテストに出るとカップル認定になってしまう。
それがきっかけにというのはべた過ぎて嫌なのだ。
「そっか。俺…また晒し者かよ」
哲はへそを曲げた。晒し者って…私も同様なんですけど。
「お祭りは楽しまなきゃ…ね」
「仕方ないな。これで機嫌を直してよ」
私は哲の口の中に少しだけ用意しておいた生キャラメルを放り込んだ。
「これを貰ったら…やるしかねぇな。付き合ってやるよ」
「何…私も貰える?」
「いいけど、生キャラメル平気?」
二人は目を丸くした。密閉袋から生キャラメルを取り出す。
「作るの大変じゃない?」
「そんなことないよ。クッキングトイ使うもの。簡単だよ」
「へぇ…チョコファウンテンは気になるから買おうかな」
恵美ちゃんは弘樹の方をチラリと見てから言った。
「持ってるけど、いいよ楽チンで…ねっ、哲」
実はクッキングトイを使って作ったりするのが最近のお気に入りの私。
本当に便利なんだよ。
「恵美…買いに行く時は一緒に行くからな。いいな」
弘樹君は少しぶっきらぼうに言った。もしかしたら…スイーツ好きなのかも。
「真美、リョウがもしもケーキがなくなったらパウンドケーキ焼くってよ」
「諒君のパウンドケーキおいしいんだよね。でもどうやって?」
「昨日…あの後、りおちゃんと作ったんだって。その残りを回すって」
昨日の二人のやりとりが思い出される。りおちゃん、諒君に焼きもちを
焼いて…おねだりして焼かせたんだ。こっちも…怖いわ。
「恵美ちゃん、そこのところは諒君と打ち合わせして。諒君のお菓子も
おいしいんだよ。今回のメニューは諒君も作れるから人が足りなければ
使ってやって」
「昨日の、芋ようかん…おいしかったわ。さり気なくハートに型抜きされてて」
遊び心のある諒君は芋ようかんをハート型に抜く事を提案したのだ。
見事に女の子のハートを鷲掴みしたようだ。それがりおちゃんの焼きもちの元。
「皆…いいね。さあ、今日も頑張ろうか」
私は切り分けた鶏肉をバットに移して、ラップにかける。
そしてもう一度冷蔵庫にしまった。
包丁とまな板をきちんと洗ってから今度は玉ねぎのみじん切りを始める。
みじん切り用の玉ねぎは昨日冷蔵庫に冷やしてある。
手際良く作業すれば涙が出ることはないだろう。
そんな私の光景をみてから恵美ちゃん達も作業に入り始めた。
もう少しで全てが終わってしまうのが嘘のような光景。
今日だけは失敗するわけにはいかないからだ。
私達は少し雑談をしながら、他のメンバーがくるのを待ちながら作業をした。




