近いのに遠い距離 前日午後
「3時になったら手が空いたグループから家庭科室に集合」
お昼過ぎの午後1時に私は企画メンバーに一斉送信する。
ちょうど家庭科室はお昼御飯が終ったところ。
「お米がおいしかった」
「どうしよう。ふりかけであんなに食べれるなんて」
皆で、一升のご飯を食べちゃった。仕方ないよね。秋だもの。
「さあ、おやつの為にまたご飯を炊こうね。今度は男子も
来るから二升炊いておこうか?」
恵美ちゃんが、今日の作業予定表と睨めっこを始める。
昨日の夜に、昆布だしと干しシイタケを戻しておいたのが
結果的に作業の効率化に繋がっている。
「とりあえず、食堂のおばちゃん向けの試食を作っちゃおう。
今日は和食と洋食は…真美?何にするの?」
「洋食は、オムライスと、コールスローとグラタン。
家が…今夜グラタンなんだよ。帰って支度するのが嫌だからね」
私は恵美ちゃんに洋食のメニューを伝えた。
「オムライスの食材は?」
「とりあえず、卵だけ借りようかな」
皆は和食の支度をしていて、私は一人で洋食のメニューを作り始めた。
私が作っていくのを一部の女の子が見ている。
「どうしたの?」
「お弁当を毎日作っているって本当なんだろうなって思って」
「うん。家族全員と哲の分も作ってるの」
「哲君の?」
「うん、私達幼馴染だから。哲の家も共稼ぎだし、高校まで学校も
同じだからついでに作っているんだ」
「大変じゃない?」
「そうかな?そうでもないよね…恵美ちゃん」
なんか私が答えてると優等生の回答になりそうだから、危機感を覚えて
恵美ちゃんに無茶ぶりをしてみた。
「そうだね。慣れだよね。私も弘樹の作ってるし」
私達の答えに皆は驚いていた。
「真美って…本当は努力の人?」
「だって…学年主席で料理上手で家庭科全般は問題ないでしょ?」
「そんなことないわよ。絵を描くのは苦手だもの。ミシン怖いし」
「恵美ちゃんは…典型的なお嫁さんにしたい女の子だよね」
「うんうん」
皆言いたいことを言ってるなぁ。地味に否定できないから嫌になる。
「真美みたいな人って本当なら近寄り辛いのにね…」
「キャラクターが優等生じゃないもの」
「そうそう、たまに学校の木に登ってサボってるし」
あれ?バレないように登る木は選んでるのに。
「この調子だと…次の生徒会長近いんじゃない?」
「そうかな?そんなことないよ」
私は否定する。私はそういうことを前面にするキャラじゃない。
むしろ背後で操る方が得意なんだけども。
今回の文化祭のポジションが一番心地よい。
「それに哲君と竜也先輩がいつも一緒だし」
「だから、それは幼馴染だし…哲の家は昔2件先だったもの」
何気なく私が行った一言が少しだけ空気を乱した。
「だからって…一人占めしなくっても」
一人占めって…何?第一、私達は大抵歩美も一緒なのに。
「どっちがいいのよ?哲君と竜也君」
私が一番答えにくい質問をされた。もちろん一緒にいたいのは哲。
大好きなのは哲。申し訳ないけど、竜也じゃない。
「竜也は…好きな人いるよ。私もその人知ってるもの。
哲は…どう思ってるんだろうね。私の事。そそっかしいくてお転婆娘
程度かもしれないわね。否定できないし」
そう言って私は溜め息をついた。
「それよりも手を動かしなさい。試食を作らない人はクッキーの準備が
あるよ。粉を計って、ふるいを描けないと…。バターを冷蔵庫から
出しておいてね」
恵美ちゃんが困っている私に助け船を出してくれた。
こないだ恵美ちゃんとガールズトークしておいて良かった。
その後、食堂のおばちゃんの試食会をしてから、皆でおやつを食べた。
やっぱり男の子って良く食べるね。あっという間にご飯は空になった。
先生も食べていたけど…準備は順調に進んでいる。
明日の食材で当日処理以外は冷蔵庫で待機中。クッキーも必要量は
焼けたと思う。今の家庭科室は女の子のいる空間の典型なクッキーな
甘い香りが充満していた。
もう泣いても笑っても明日は本番。後悔だけはしたくない。
無事に食堂でのリハーサルも終わって、今日の解散前に明日の個人
行動予定表を歩美が配布している。
男子の一部は朝からマルシアで卵と牛乳を食パンを買うという修行が
待っている。まだ…一部の男子から反論が出ていたけれども、
試食のメニューを見てから文句を言うことはなくなった。
多分…私達の本気が分かって貰えたんだと思いたい。
午後5時。私達は戸締りをして会場を後にしたのだった。
「真美…お茶を淹れたんだが…飲まないか?」
哲はここのところずっと私の家で紅茶の練習。今では私よりも
はるかにおいしい紅茶を淹れる。なんか…悔しい。
これからのおやつの時は…お茶は任せようかな。私も楽したい。
「いいわよ。今日は夕ご飯食べるんでしょう?」
「あぁ、今夜は何?」
「グラタンとチキンソテーをご飯。手抜きでごめんね」
「それだけあれば充分だろ?」
哲は私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「もう!!何するのよ」
私は乱れた髪を直した。哲は少しだけむっとしている。
「どうしたの?何かあったの?」
「俺…お前の何?周りに聞かれてさ」
哲も私と同じことを聞かれたんだ。確かに微妙な私達の関係。
「多分…私の気持ちは哲は知っているはず。私の性格が分かっていれば」
哲はハッとした表情で私を見つめる。
「でも…このイベントをきっかけに付き合うのは嫌なの。
そのイベントよりももっと前から…誰よりも近い所にいるんだもの」
「そうか。真美の言いたいことは分かる。だとしたら…真美も俺の
気持ちを分かっているよな?ずっと側にいるから」
「多分…。ごめんね、もう少しだけ待って」
「もう少し?」
「うん。嫌いじゃねぇからな」
哲は私の手をゆっくりと握った。少しだけ冷たい哲の手。
緊張しているのが分かる。私は握った哲の手の上に更に自分の手を
合わせた。
「さっきの答えは…誰よりも側にいて、大切な人って答えて貰えない?
私もそうやって哲の事を答えるから。哲が側にいて欲しい。これからも」
「分かったよ。仕方ねぇから…そばにいてやるよ」
哲は微笑んで私を見ていた。




