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誇り

作者: アルファン

「残念ながら、ご臨終です。」

手術中という忌々しくも祈りの象徴である看板から

光が消え、中から出てきた赤黒い服をまとった医者が

そう言った。

「えっ。」

言葉が出てこなかった

愛しの妻が、たったのほんの数分の出来事で

命を落とした。

私はこれを受け入れることなどできなかった。

この医者は嘘をついているんだ

そう思うことしかできなかった。


妻は3年前に双子を生んだ

女の子と男の子だ

二人とも実に手のかかる子で、妻も私も

眠りにつく頃にはへとへとになっていた

しかし、私は寝る時に一日を振り返り

ほほえみを浮かべて寝れることを喜んだ。

妻の寝顔も新婚のころよりだいぶ変わっていた

私は「愛する」ということが次第にわかってきていた

しかし、私はほほえみを浮かべて寝ることができなくなった

明日が本当に来るのか

それをいつも考えながら寝る習慣が生まれてしまった


妻の葬式をしているとき、双子の子どもたちは

不思議そうな顔をのぞかせていた

次第に泣き、グズリ、暴れた

私はそれにいらついた

恥ずかしくも連れてこなければよかったとさえ思った

私は妻の最後でさえこの子たちのことを考えなければいけないのか

そう、ひどくこの子たちが「邪魔」だった。


最初はそれから二年後

子供たちが小学校に入学し、ほどなくしてからだ

疲れていた

家事をしながら、仕事をし、子供の要求に答える

たったこれだけなのだが、ジクジクと私を蝕んだ

私は久々の休みに二人を連れ、海を見に来ていた

そして気づけば夜になっており

気づけば、二人を連れて沖のほうまで泳いでいた

息子は泣き叫び「冷たい」と叫んでいた

娘はこちらをじっと見つめ

「お母さんに会いに行くの?」

そう私に聞いた。

私はすぐに岸に戻り、自分の頬を叩いた。


私はそこまで要領がいいほうではないのだが

子供たちが小学6年生になることには

手を抜けるとことは抜けるようになっていた

そしてなによりも、子供たちが協力してくれるようになっていた

しかし、世間の風は一段と強く吹いていた

贅沢は言っていられないが、私は仕事に不満を抱いていた

それは前にも言ったわたしが要領が良くない事だと思う

子供たちは可愛い、この子たちのために頑張れるだろう

しかし、頑張れるだけだろう

そう思っていると、私は寝るときのほほえみをまた失った


二回目の過ちだ

私が気づいた時、目の前には血だるまの男がいた

両手には血、口の中に鉄の味が広がっていた

「お仕事」を懸命にこなす警察にマニュアル通りに捕まり

取り調べをうけた

私は、うけつつ記憶を追っていった

あの夜、私は珍しく酒に溺れていた

きっとくだらないことでくだらないお叱りをうけたのだろう

そしてどうやら、気に食わない男が目についたのだろう

今は4月

きっと自慢大会が始まっていたのだろう

そういえば私が血だるまにした男は若かった

とにかく、私は傷害罪とかいう名目でブタ箱に放りこまれた

牢屋の中でやっと考えられた

「子供たちにどんな顔であえばいいんだ?」

後日、面会に来た子供たちは言った

「ひどい顔してるね、まるで叱られた子供だよ。」


娘が高校一年に、息子が社会人になった

私は、前の職場を首になり、今は小さな工場で働いていた

典型的なダメ一家と呼ばれていた。

今や舵取りはもっぱら娘に任せていた

私は、起きて出来ている朝食を食べ、仕事に行き

同僚と酒を飲み帰宅するという生活に戻っていた

些細な事件はやっぱりあった。

娘が彼氏を家に連れてきたとき、私は思い切り顔面を殴った

服に着飾られ、フニャっとした顔をして「お父さん」と

呼ばれた瞬間手が出てしまった。

娘はさすがに私を非難したが、後々になって

「父さんの言うとおりあいつは糞つまらない男だった。」といった

その晩、娘は初めて酒を飲んだ


二人が二十歳になった。

着飾った格好を二人がして、肩を並べている

私はこの瞬間の為に生きてきたのだろう。

本気でそう思った

そしてふいに涙がこみ上げ、ある女性が脳裏に浮かんだ

妻だった。

妻に会いたい。

妻に会って一緒に喜びを分かち合いたい!。

激しくそう思った。

その晩は妻の遺影を胸にだきかかえ眠りについた


路上が見える

車が列を作り、走っていく

目の中には、赤、黄色、青

人が波を作り、決められた道を歩く

その中から、一人取り残される

妻だった

こちらに気づきほほえむ

ああ、幸せを感じるあのほほえみだ

「俺はやったよ!君との夢を叶えたよ!人としての喜びを感じたよ」

そう叫ぶと彼女はうんうんと頷いた

よくみると彼女の両手に小さな双子がいた

それがどんどん大きくなり、

今の凛々しい息子と愛しい娘になった

妻は両手をしっかりつないでいた

お互いがお互いに歩き出そうとしたとき

私は目を覚ました

「そうか、君も感じてくれたか」

私は、またほほえみを浮かべて寝れることに喜びを見つけた。


人が子を残す、当たり前のようだがとても素晴らしく、生まれてこれた事への最大の恩返しになると私は思います。それがどんな形であっても。

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