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第15話「会議の初日」


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星脈会議は、王宮の中央広間で開催された。


円形の部屋。その中央には、五つの椅子が円を描くように配置されている。これは均等な力関係を象徴するために、古くから採用されてきた形式だ。しかし実際には、どの国が最も発言力を持つかは、すでに決まっている。


五大国の筆頭者たちが座った。カルドゥス帝国の鉱山技官、ソレイユ共和国の首席商人、ヴェルデ森林地帯の精霊使い、アリダ帝国の将軍、そしてファルネーゼ王国からはハルヴェス侯爵。


ゼノンはファルネーゼの代表として座り、レインはその傍らの記録席に着いた。各国の学術顧問たちも同様に傍らに配置されている。


議長役はファルネーゼの王宮管理官が務める。これは当主国としての特権だ。


「星脈会議を開催いたします。今年は各地から異常な報告が寄せられております」


管理官が静かに議事を始めた。


カルドゥスの鉱山技官が最初に声を上げた。


「我が帝国の鉱山では、結晶産出が激減している。昨年は年間五千単位、今年の予測は三千五百単位。このままではカルドゥスの経済は崩壊する」


その言葉は率直で、感情的な重みがある。彼は単なる数字を報告しているのではなく、自分たちの苦難を訴えているのだ。


「原因究明が急務です。星脈術師たちの見解を聞きたい」


次にソレイユの代表が立ち上がった。


「海洋の星脈が乱れています。貿易船の航路が以前のようには機能しなくなり、交易量が減少している。海の安定性が失われれば、ソレイユの商業活動は根底から瓦解します。各国との海上交易に依存する我らとしては、この危機は存亡の危機そのものです」


ソレイユの代表は、カルドゥスと同じく危機的な状況を訴えている。しかし彼の言葉には、一つ異なるニュアンスがある。カルドゥスは『原因究明』を求める防衛的な立場だが、ソレイユは『解決策の提示』を求める攻撃的な立場だ。つまり、他国に責任を求める姿勢だ。


ヴェルデの精霊使いが、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「森の精霊たちが警告を送ってきた。『星脈が衰えている』と。彼らは星脈の流れを感じ取ります。そしてその流れが、確実に弱まっているのです。我らの民は森と共に生きている。その森が衰えれば、我らも衰える」


その言葉には、深い悲哀がある。数値化されたカルドゥスやソレイユの危機とは異なり、ヴェルデの危機は根本的で、精神的だ。彼らにとって、星脈の衰退は単なる経済問題ではなく、存在そのものの問題なのだ。


アリダの将軍は、最も冷徹に状況を述べた。


「死域が拡大している。枯れた土地が増えている。我が帝国の軍事的安定性は、領土の完全性に依存している。しかしこのままでは、統一を保つことが困難になる。各地で騒乱が生じ、中央政府の権力が弱まるだろう。これは五大国全体の安定性に関わる問題です」


四つの国家の訴えが、ほぼ同時期に現れたという事実。これは決して偶然ではない。何かが起きている。何かが、星脈に対して作用している。


ファルネーゼの王宮管理官は、速記官に記録を急がせた。各国の訴えが文書化されることで、公式な記録となる。これは後の交渉において、重要な証拠となるだろう。


レインは、ゼノンの次の行動を待った。教授はどのような学術的見解を示すのか。その言葉が、この会議の方向性を大きく変える可能性がある。


ゼノンが立ち上がった。


「各国の報告、ありがとうございます。学術的観点からの見解を述べさせていただきたい」


ゼノンは杖を自分の前に立てた。その動きだけで、場の注意がゼノンに集中する。彼の存在感は、力そのものだ。


「星脈は循環する。央域から各地へ流れ、また央域へ戻る。この循環が安定していれば、世界は保たれます。しかし現在、この循環に異変が生じている可能性がある」


ゼノンは手元の資料を広げた。ヴァルターの星脈地図、そして複数の調査結果。


「央域の結節点の光度が低下している。これは星脈の流量が減少していることを意味します。同時に各地で局所的な枯渇が報告されている。これは、星脈が蓄積されている場所があるのではないかという仮説を提唱させていただきたい」


その言葉は学術的で、冷静だ。しかしその意味は重大だ。星脈が蓄積されている場所。それが分かれば、なぜ各地で枯渇しているのかが分かる。


ハルヴェス侯爵が身を乗り出した。


「蓄積されている場所ですか。具体的には」


「特定には至っていません。しかし各国の報告から、複数の結節点が該当する可能性があります」


ゼノンは地図を指した。いくつかの点が赤く印されている。それらはファルネーゼ領内に集中していた。


侯爵は静かにそれを見つめた。


「興味深い。では、学院は今後この問題に対してどのような対応を取るのか」


「学術的な調査を継続します。原因が特定されれば、解決策も見えてくるでしょう」


しかし侯爵は、その言葉に異議を唱えた。


「学術的な調査では、時間がかかりすぎます。各国民の苦難は今この瞬間も続いています。それに対して、学院が『調査を継続する』というだけでは、不十分ではないでしょうか」


侯爵の言葉は丁寧だが、ゼノンの提案を切り捨てるものだった。そしてそれは巧妙だ。ゼノンの学術的なアプローチを『不十分』と評価することで、別のアプローチの必要性を示唆している。


ゼノンは静かに頷いた。


「それでは、侯爵のご意見をお聞きしたい」


「星脈管理は各国の主権に関わる問題です。現在の危機に対して、各国が連携して統一的な対応を取ることが必要ではないでしょうか」


その言葉の中に、危険な提案が隠れていることをレインは感じ取った。『各国の連携』『統一的な対応』。これは表面的には合理的だ。しかし実際には、誰かが統一的な管理者になることを意味している。


侯爵は続けた。


「ファルネーゼの学院は、星脈術の中心であります。もし学院が主導して、各国が統一的なプログラムに従うのであれば、より効率的な対応が可能になるのではないでしょうか」


そう言って、侯爵は笑った。その笑顔は温かく、相手の利益を考えているように見える。しかしレインには分かる。これは権力掌握の提案だ。星脈管理の一元化。そして管理者としての侯爵の地位の確立。


カルドゥスの鉱山技官は、すぐにそれに応じた。


「それは合理的だ。各国がバラバラに対応するより、統一された指導が必要かもしれん」


ソレイユの代表も頷いた。


「我らも同意いたします。このままでは各国が衝突するばかりです」


しかしヴェルデの精霊使いは、慎重だった。


「統一的な管理とは、どのようなものを想定されていますか。精霊との関係は、各地域で異なります。一元的なプログラムが機能するかは、疑問の余地があります」


アリダの将軍も質問を発した。


「統一的な管理者は、誰が担当するのか。また、その管理者がどのような権限を持つのか、明確にしていただきたい」


ゼノンは黙って座っていた。レインは彼の表情から、何かを読み取ろうとした。怒り。失望。しかし同時に、ある種の承認のようなものも。


侯爵は落ち着いた口調で答えた。


「これらは重要な問題ですね。本日の会議では、これ以上の具体化を避け、原則的な同意を得られればと思います。詳細については、今後の各国協議で決めるということでいかがでしょうか」


その提案は巧妙だ。本日の会議では『原則的な同意』を得る。つまり『統一的な管理の必要性』について各国が合意する。その後の詳細協議で、権限と管理者を決める。その時には、すでに『原則的な同意』が前提になっているから、異議を唱えることが難しくなるのだ。


会議はその後も続いたが、基本的な方向性はすでに決まっていた。


会議が終わった時、ゼノンはレインに一言だけ言った。


「会議は踊る。しかし世界の血は止まらない」


迎賓館に戻ったレインは、その日の会議内容を整理した。ゼノンの指示により、詳細な記録を作成することが、レインの役割だ。


侯爵の提案。各国の反応。ゼノンの沈黙。


すべてが複雑に絡み合っていた。侯爵が提案した『統一的な管理』は、表面的には合理的だ。しかし実際には、誰かが最高の権力を手にすることを意味している。そしてその誰かが侯爵であることは、すでに決定されているかのように見えた。


レインは、前世の経験を思い出した。国際交渉の場。利害の調整。権力の再編成。そのすべてが、『正義』『合理性』『人道主義』といった名目で行われる。本当の目的は決して表面には現れない。隠れたままで、人々を動かしていく。


ゼノンはレインの作業を見守った。


「君の分析は正確だ。しかし忘れてはいけないことが一つある」


「何ですか」


「侯爵の提案が、実は正しい可能性があるということだ。星脈の枯渇が現実であり、それに対して統一的な対応が必要であるなら、侯爵の方法論は合理的だ。問題は、その合理性と正義が一致していないということである」


ゼノンは窓から夜の王都を眺めた。


「権力者は常に、悪いことを良いこととして実行する。それが権力の本質だ。君が見分けなければならないのは、その言葉が真実を含んでいるのか、それとも完全な欺瞞なのかという点だ」


レインはその言葉を深く刻み込んだ。


その夜、レインが学院に帰還した時、イレーネ教官が訓練場で待機していた。彼女は腕を組み、レインの到着を静かに見つめていた。


「教官。何か」


「会議の内容については聞かない。政治は複雑だ。だが、一つ告げておく必要がある」


イレーネは前に一歩出た。


「五人が標的になる可能性がある。侯爵の動きが活発になれば、それに対抗する者たちも動く。学院の首脳部、各国の諜報機関。お前たちは今、複数の視線の交点にいる」


その言葉は、教官としての警告を超えていた。彼女は情報を持っていた――おそらく他の講師からの報告を通じて。


「お前たちの護衛術訓練は、今の局面では実戦的である。この先、何かあった時は躊躇わずに応用しろ。そして、五人で行動することを心がけろ。分散されれば、対応が難しくなる」


彼女は無表情のままだったが、その言葉には実務的な配慮と、深い信頼が込められていた。


「わかりました」


レインは頷いた。


「それともう一つ。五人の中に心が揺らぐ者がいないか注視しろ。マルクスのような立場にある者は、いつ父親からの誘いに折れるかもしれない。それは責めるべきことではない。人間は弱い。お前がすべきことは、彼が折れないように支えることだ」


イレーネは転身して去った。その背中には、長年生徒たちを守ってきた教官としての責任感が込められていた。


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