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第14話「王都の裏側」


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セレスティア王都の館は、贅沢さと秩序で満ちていた。


白い石造りの建造物は、かつてアストレイアの古い文明の遺跡の上に築かれたと言われている。王都はそのような歴史的な層を持ち、表面的な現代的な贅沢さの下に、深い過去が眠っている。


ゼノン教授の指示により、レインは学院の迎賓館に案内された。ここは各国の高位の術師たちが滞在する場所である。廊下を歩くだけで、様々な国家の使節団を目にすることができた。春の朝日が廊下の窓から差し込み、石の壁を淡く照らしている。


カルドゥス帝国の使節は武骨な鎧に身を包んでいた。いや、鎧ではなく、星脈術の鉱物結晶を強化素材として組み込んだ衣装だ。彼らの肌は日焼けして黒く、目は鋭い。北方の厳しい大地で生きてきた者たちの輝きがそこにはある。鉱山の衰退が彼らにどのような打撃を与えているのか、レインにはすぐに理解できた。


ソレイユ共和国の使節団は一目で豪奢だった。絹の衣装に身を包み、首や腕に宝飾品をぶら下げている。彼らは笑顔を絶やさず、あらゆる人物に愛想よく話しかける。商人の血が脈々と流れているのだろう。しかし彼らの笑顔の奥には、緊張が隠れていた。海の星脈が弱まれば、交易ルートは危機に瀕する。彼らの栄光も、その繁栄も、星脈の恵みなしには成立しない。


ヴェルデ森林地帯の代表たちは、文字通り森の装束に身を包んでいた。樹皮のような褐色の衣、草で作られた装飾品。彼らは沈黙を好み、あまり多くの言葉を発しない。しかしその目には深い思索がある。森の精霊との連携が失われつつある現在、彼らは生存の危機に直面しているのかもしれない。


アリダ帝国の軍人たちは、最も実戦的な装いをしていた。戦塵にまみれたように見える衣装、擦り切れた鎧、いくつもの傷跡。彼らは常に何かを警戒しているようにも見えた。星脈の枯渇が軍事的な安定にどのような影響を与えるのか、彼らはすでに計算しているのだろう。


そして最後に、ファルネーゼ王国の使節団。彼らは他国よりも控え目で、ある種の品格を保っている。王都はファルネーゼの中心であり、ここでの立場は既に確立されているのだ。しかしレインが注目したのは、その控え目さが本当の自信から来ているのか、それとも計算された戦略なのかという点だった。前世の経験から言えば、支配的な立場にある者ほど、その優位性を表現する必要がない。ファルネーゼが控え目なのは、すでに権力を握っているからこそなのだ。


レインがこれらの観察を整理していると、ゼノンが話しかけた。


「観察眼は活躍しているようだな」


「各国の状況が、着用している衣装や姿勢に反映されています。カルドゥスは危機的状況にあり、ソレイユは不安定さを隠そうとしている。ヴェルデは内向的で、アリダは警戒心が強い」


「そうだ。君の視点は正確だ」


「そうだ。君は会議の中で、表面的な議論だけでなく、各国の利害を読み解く必要がある。言葉の裏に隠れた意思を理解することが重要だ」


ゼノンは杖を杖突きながら廊下を歩んだ。


「君の前世の経験が、この場所では有用になるだろう。なぜなら、権力の構造は時代や世界を超えて、本質的には同じだからだ」


セレスティア王宮の夜会は、翌日の会議に先立つ非公式な場だった。各国の使節が一堂に集まり、表向きは親睦を深める機会とされている。しかし実際には、政治的な折衝がここで行われるのだ。公開の場では言えない本音が交わされ、次の日の議論の展開が決まるのである。


レインはゼノンの傍らにいながら、参加者たちの会話に耳を傾けた。


カルドゥスの鉱山官は、ソレイユの商人と緊迫した言葉を交わしていた。


「鉱物結晶の産出が減少している。このままでは我が帝国の経済は崩壊する」


「それは我々も理解しています。しかし海の星脈が弱まれば、交易量も減少します。むしろ、現在こそ協力の時ではないでしょうか」


その言葉の中に、取引のにおいがした。鉱物の優先供給と、交易品の優遇措置の交換。政治的な同盟の形成。


ヴェルデの代表は、アリダの軍人と静かに話していた。


「森が衰えている。精霊たちも沈黙している。このままでは、我らが民も生きていけなくなるだろう」


「死域が拡大している。我が帝国でも、まるで星脈が吸収されているかのように、限定的な地域で枯渇が加速している。何か共通の原因があるのではないか」


その言葉から、二つの国が共通の脅威を認識していることが読み取れた。単なる衰退ではなく、何らかの意図的な作用を疑っているのだ。


そしてその時、ハルヴェス侯爵が入場した。


ファルネーゼの最高権力者ではないが、王都での影響力は無視できない。彼は場の空気を感じ取ると、自然に各国の代表たちの中へと溶け込んでいった。


レインの血が凍った。


侯爵は四十代半ばだろう。黒い衣装に身を包み、その上には白い紋様が入っている。顔は理知的で、瞳は鋭い。しかし同時に、温厚さと親しみやすさを感じさせる。そうした多面性こそが、権力者の特徴なのだ。


侯爵はカルドゥスの代表に近づき、彼の肩に手を置いた。


「厳しい状況が続いているようですね。ファルネーゼとしても、この星脈の異変は看過できません。協力できることがあれば」


その言葉は誠実に聞こえた。しかし同時に、計算された言葉でもあった。侯爵は各国の代表者たちと言葉を交わし、その度に自らの立場を高めていく。ファルネーゼの王国を代表する者としてではなく、星脈という全大陸的な問題に対する思考者として。


やがて、侯爵はレインに気付いた。


ゼノンが軽く咳をした。それが合図のようになり、レインはゼノンと共に侯爵の元へ歩み出た。


「ゼノン先生。ご無沙汰しております」


侯爵の笑顔は本当に暖かく見えた。しかしレインは、その笑顔の下に何か異なるものを感じ取った。支配欲。所有欲。そして。


「こちらはアルヴェスの次男ですか」


侯爵がレインに話しかけた。その瞬間、周囲の会話がかすかに静まった。


「ハルヴェス侯爵。お目にかかります」


レインは丁寧に礼をした。前世の経験が体に染み込んでいる。上位の権力者に対する敬意を表しながらも、自分の尊厳を失わない態度。


侯爵は微かに笑った。


「母親に似ているな。エレナは優秀な星脈術師だった。惜しい人を亡くした」


母親の名前。そしてそれを口にする侯爵の言葉遣い。親しみと哀悼。しかし内実は何か。


レインは顔を上げ、侯爵の瞳を正面から見た。


その瞳の奥に、何かを見た。


支配欲。しかし同時に何か異なるものも。ある種の優しさ。愛情さえ感じさせるものも。しかしそれは砂糖に包まれた毒だ。甘い言葉で相手を縛り、逃げ場を失わせるもの。


「ありがとうございます。母は大切にされていたのですね」


「ああ。彼女がいなくなってから、ファルネーゼは多くのものを失った」


その言葉は、直接的な脅しではない。しかし明らかにメッセージを含んでいた。お前の母親を失わせたのは誰か。そしてお前は、その力に対抗できるのか。


会話が終わり、侯爵は他の客へと去っていった。


ゼノンがレインに近づいた。


「よく耐えた。あの男は優しい言葉で人を縛る。その言葉の中に毒を忍ばせ、気づかないうちに従属させていく。最も危険なタイプだ」


レインは静かに頷いた。母親の死。その背景にある権力の動き。そして今、その権力者の直接的な視線がレインに注がれている。


夜会は続いた。しかしレインの心は、すでに別の場所にあった。


敵は、想像よりも人間だった。


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