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第31話「地下迷宮」

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学院の地下へ降りる。


懐中石——吸収した星脈を構築した、簡易な光源だった。リュカが握っている。彼の特大級の吸収能力は、こうした使い方こそが最適だと、レインは思う。ノエルは先頭を行く。地相と炎相を併用して、崩落の危険がないか探りながら。アリシアは側面を支配しており、その識相で周囲の罠を警戒していた。


「階段、さらに下ります」


レインが呼ぶ。古い岩肌に刻まれた文字——古代文明の言語だ。その記述から、進路を読み取っている。前世の蓮は、言語学には詳しくなかった。だがこの転生後、アストレイアの古き言葉への耐性は、異常に高い。ゼノン教授に教えを受けてから、さらに加速した。


「こんな古い階段、大丈夫なのか?」


ノエルが足を進める。岩盤が脆くなっていないか、地相で感知しながら。


「大丈夫です。構造は——かなり堅牢に作られています」


レインは壁の刻印を指でなぞった。


「『永遠なるものの下へ』——こう書いてある。この階段は、かなり昔に造られたものですが、維持管理も行き届いていたのだと思われます」


「永遠ってのは、物々しいな」


リュカが呟く。光源を上げると、さらに奥の階段が見える。螺旋状に下へ、下へ続いている。


降下は続いた。どれくらい歩いたのか、時間感覚がおかしくなる。地下にいるからか、それとも緊張のためか。レインは何度も壁の銘を読んだ。出会った文字列のいくつかは、警告だった。


『此処より先、心定まらぬ者は進むべからず』


『星脈の道を自らの物にせんとする者よ、汝は失敗するだろう』


『大崩落の時、我らは何を失ったのか——その問いに答えられてこそ、進むべし』


「警告文ですね」


アリシアが指摘した。その表情は、いつにない緊張が見える。


「『大崩落』——何ですか、これは」


「歴史書には載っていない。でも、この下に——真実が眠っているのかもしれません」


レインは前に進む。光が揺れ、影が左右に踊った。


ついに、開かれた空間に出た。


天井が高い。いや、ここはもう地下洞窟だ。自然の鍾乳石ではなく、人工的に造られた広場。その中央に——


「あ」


ノエルが息を呑む。


水晶だった。巨大な、紫色に輝く水晶体だ。星脈濃度が、レインの脈路を強烈に刺激する。体が震える。こんなに高い濃度は、学院の修行室でも経験していない。


「これが——」


「星脈の増幅装置か」


ゼノン教授からの説明を思い出す。古い時代の人間たちが造った、星脈そのものを操作する機構。その核が、この結晶だったのだ。


「危険です。近づかない方が——」


その時だった。装置の各所が、淡く点灯し始めた。古い防衛魔法が起動する。


「伏せろ!」


ノエルが叫ぶ。地相を使って、前面に土壁を構築する。同時に、ルーン状の光が装置から放たれた。


「術式トラップです!」


アリシアが呼ぶ。識相で感知して、その軌道を予測している。


「左、二体目が来ます——そこ!」


指示に従って、レインたちは身を投げる。光の奔流が、彼らが立っていた場所を通り過ぎた。焦げた硫黄臭がする。


「攻撃ですか!」


リュカが懐中石を高く掲げた。吸収能力が、散乱する星脈エネルギーを、必死に吸引する。緑色に輝く光が、彼の手から放たれた。トラップの起動がわずかに遅れた。


「パターンがあります!」


レインは古い刻印をたどった。この装置を守る為の機構。その動作原理は、ここに刻まれている。


「五つの防衛ポイント——北、南、東、西、中央。中央は——」


頭が働く。昔の知識ではなく、純粋な推論だ。この装置がどう動いているのか、その仕組みを読む。


「アリシア、識相で北の壁を見てください。水晶が埋まっていますか?」


「ええ、あります——三つ」


「そこが起動源です。それらを同時に破壊すれば、トラップは停止します」


ノエルが了解した。深く地相に沈んで、足元から土を操作する。北の壁へ、急速に土槍を貫いた。轟音。一つ目の水晶が砕ける。光が弱まった。


「二つ目——」


リュカが走った。身軽さは、漁師の息子らしい。懐中石を投げつけて、光の放射を一時的に遮断する。その隙に、ノエルの地脈が、次の水晶を粉砕した。


「最後だ!」


だがここで、装置全体の輝きが変わった。赤紫色に変わり、震動が増す。


「危ない——」


レインが警告する。最後の防衛水晶は、単なるトラップではない。もっと深い場所へ——装置そのものへの、応急防護だ。


「全員、中央から離れてください!」


光が、真上から降り注いだ。アリシアの識相が最大出力で、その軌道を感知した。四人は四方に散開する。光の奔流が、彼らが立っていた床を焦がした。


「もう一つ!」


ノエルが叫ぶ。第四の光源が起動している。だがここで——


「待てよ。パターンを見ろ」


リュカが呟いた。彼の直感型の思考だ。光の放射タイミングを見つめる。


「四つ目の光源、起動から四呼吸で放射される。その間に——」


「分かりました。ノエル、今です!」


レインと、ノエルが同時に動いた。ノエルの炎相が爆発的に盛り上がる。火の流れが、西の壁の水晶へ。激突。最後の光源が砕ける。


装置は、一気に沈黙した。


すべての光が消える。懐中石だけが、かすかに輝く。


「大丈夫ですか」


アリシアが問う。皆、息を整えている。


「あぶねえ。もっと深いのかと思った」


ノエルが地面に膝をつく。


「それは——」


レインが中央の結晶を見つめた。赤紫色の輝きは消えたが、その内側で、微かに光が脈動している。


「これから、もっと危険になります」


彼の脈路が、異常な反応を示しているのだ。星脈濃度が、さらに上昇している。


「装置は再起動の準備段階に入っていますな」


低い声が、奥から響いた。それは、マルクスの声ではなかった。


レインは振り返った。奥の暗闇から、人影が現れる。青白く光る眼差し——研究着を纏った、見知らぬ人物だ。


「貴様たちか。学院の学生だな」


「誰ですか」


アリシアが警戒する。その人物は、ゆっくりと結晶へ近づいていく。


「私は装置の管理者だ。いや——正確には、その役割を与えられていた者だ。古い時代には、な」


それは、ありえない言葉だった。古い時代。それは、千年以上前の話だ。


「あなた――」


レインの脈路が、何かを感知した。その人物の周囲に張られた、古い脈路の層。人間のものではない。そういうものではなく、星脈そのものが、かつてここに定着させられた、痕跡だ。


「星脈の意思――ですか」


「そう、ついに気づいたか。上等だ。それならば、この装置の真の目的を理解するのも、早いだろう」


人影は、結晶へ手を触れた。瞬間、強烈な脈動が走った。


「この装置は、制御装置ではない。牢獄だ。星脈そのものを、制御下に置こうとした者たちへの、天罰の枷だ。大崩落の時——全ての者たちが、その真意を理解する間もなく、崩落に呑まれた」


レインは、壁の銘文を思い出した。『汝は失敗するだろう』『心定まらぬ者は進むべからず』


「マルクスは、その操作を試みたのですか」


「そうだ。学院地下に古い装置があると知ったその子は、父親の命で、この力を奪おうとした。だが、その子一人では、この装置を制御することはできない。装置は、制御者を拒否したのだ」


人影は、薄く笑った。


「そして今、貴様たちがやって来た。四人が揃った。その均衡が、装置を次なる段階へと押し進めるのだ。貴様たちは、知らず知らずのうちに、星脈そのものを目覚めさせた」


「何を――」


「この装置を停止させたいのなら、その奥へ進むがよい。中央の結晶室で、星脈そのものと向き合うことになるだろう。勝つも負けるも――全ては、その時の決断によって定まる」


人影は、消えた。星脈そのものが、その姿を解放したのだ。


レインの背中が、冷たい汗で濡れていた。


「行きます」


彼は前に進んだ。仲間たちは、黙って従った。


懐中石の光は、さらに進む奥の道を照らす。見えるのは、無限に続く螺旋の階段。その先に、何があるのか。


レインの脈路が、激しく震えていた。


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