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第29話「星脈の暴走」

---


地下から戻ったその翌朝、異常は始まった。


学園全体を揺らす、微かな振動。それは地震ではなく、より根源的な——星脈そのものの激動だった。


午前の基礎実習の途中、複数の学生が同時に苦悶の表情を見せた。星脈感覚を持つ者たちが、全員、一つの違和感を感知したのだ。


「何かおかしい」


リュカは隣にいるノエルに声をかけた。


「星脈の流れが乱れてる。いや、破裂してるみたいな」


イレーヌは即座に講師控え室に連絡した。数分後、学園全体に通知が流れた。


「全学生は各自の寮室に待機せよ。星脈異常が検出されている。講師たちは対応室に集合」


その数時間後には、より深刻な通知が出された。


「本日より、全講義を中止する。星脈異常の原因究明まで、学園は臨時休講となる」


学園の広場には、不安げな顔をした学生たちが集まっていた。一週間以上続くかもしれない休講。星脈術師たちが感知しているその異常が、どのような規模のものなのか、誰にもわかっていなかった。


レインはゼノンの研究室に向かった。


研究室の中では、複数の星脈図が広げられていた。ゼノンが単独で、あるいは年配の講師たちと一緒に、異常の原因を追跡していたのだ。


「やはりそうだ」


ゼノンはレインを見た。その表情は、深刻だが同時に落ち着いていた。


「地下の装置が暴走している。昨夜の我々の訪問で、何らかの変化が起きたのだろう。そして——」


ゼノンは星脈図を指差した。


「マルクスたちが地下で何かをした。装置に触れた。あるいは、父親からの指示で、装置を起動しようとした」


「つまり、マルクスが暴走の原因だ」


「おそらくは。だが問題は、今この瞬間にある。装置の暴走は、既に制御不能に陥っている。古代の技術で造られた増幅機構は、勝手に自己増幅を続けている。星脈の流れが、幾何級数的に増加している」


レインはその意味を理解した。


「つまり、放置すれば」


「時間の問題で、大陸全体に致命的な星脈干渉が及ぶ。学園だけではない。近隣の村々も。最終的には、数百人、あるいは数千人の星脈術師たちの修行に悪影響をもたらす。そして、その星脈干渉が最大に達すれば——」


ゼノンは言葉を区切った。


「大陸崩落と同等の災害が起こる」


講師室に集まった導師たちからは、有効な対策案が出ていなかった。古代の技術に関する知識が、あまりに不足していたからだ。


イレーヌはレインに声をかけた。


「お前は何か知っているはずだ。昨夜、地下に向かっていたのではないか」


隠す意味はない。むしろ、全て明かすべきだ——その判断をレインは瞬時に下した。


「はい。地下に古代の星脈増幅装置があります。昨夜、私たちとマルクスの一団が同時に発見しました。装置は既に七百年間、制御されずに稼働していた。そして昨夜、マルクスたちが何かを触れた。それが今の暴走を引き起こしたのです」


その報告に、講師たちは震撼した。


「装置の位置はわかるか」


学園長が問いかけた。


「私の星脈地図から、正確に特定できます」


レインはヴァルターから受け取った地図を取り出した。


「ここです。学園の南東、地下七層の中央。複合的な星脈構造を持つ古代の遺構です」


学園長は即座に決定を下した。


「装置を停止させるか、少なくともその暴走を抑制する必要がある。しかし、古代の技術を現代の方法で扱うことは危険だ」


「私が向かいます」


ゼノンが申し出た。


「古代の星脈術式に関しては、学園の誰よりも私が詳しい。危険を承知で、装置の構造を分析し、その暴走の原因と対策を見つけ出します」


「自殺行為だ」


学園長は否定した。


「星脈異常が極大化している地下に向かえば、通常の星脈術師では防御も困難だ」


「それでも——」


「待て」


レインが声を上げた。


全員がレインを見た。


「ゼノン先生は、装置の理論的な分析ができる。だが、装置を止めるためには、現地での判断が必要です。星脈の流れを読み、その異常を感知し、対策を判断する——それは、今この学園の中で、最も星脈感覚が優れた者が必要です」


「つまり、お前ということか」


学園長の声は厳しかった。


「はい。私の星脈地図が、装置の位置を特定します。そして、私の感覚が、装置の状態をリアルタイムで分析します。ゼノン先生の理論知識と、私の感覚能力を組み合わせることで、初めて解決策が見える」


イレーヌは反対した。


「十歳の少年を、こんな危機的状況に向かわせることはできない」


「ですが」


レインは静かに言った。


「向かわなければ、この危機は解決しません。向かったとしても、成功の保証はありません。ですが——」


レインはゼノンを見つめた。


「ゼノン先生なら、必ず何かを見つけてくれます。その最後の部分を、私が担当する。それだけです」


沈黙の時間が流れた。


やがて、学園長が決定を下した。


「危険な任務だ。だが、学園全体のためには、やらねばならない。行け」


レインはゼノンと共に、地下への通路に向かった。


後ろから、リュカ、ノエル、アリシアが追いかけてきた。


「待て」


レインは彼らを止めた。


「これは俺の責任だ。お前たちを巻き込むことはできない」


「馬鹿言うな」


リュカが言った。


「俺たちは何度も言ったじゃん。一緒にいるって」


「星脈異常が起きている地下は危険だ。吸収能力の高いお前らだからこそ、その危険性は高い。星脈に支配されるリスクがある」


「それを承知でも」


ノエルが続いた。


「お前一人に任せられるわけねぇ」


アリシアは無言で、自分の識相の準備を整えていた。


「識相で、星脈の流れを補助します。装置の状態をより詳細に感知できます」


レインは彼らを拒む言葉を失った。いや、拒むことはできなかった。彼らがいなければ、この任務は成功しないのだから。


---


地下は、既に異常な状態に陥っていた。


星脈の流れが、あちこちで噴出し、弾ける。空間全体が、微かに揺らいでいる。古い石造りの建造物も、その振動で着実に崩落しはじめていた。


装置の中央部では、複合的な光が漆黒とも言える色合いで渦巻いていた。それは美しくもあり、恐怖に満ちてもいた。


「構造が見える」


ゼノンが声を上げた。


「装置の中核は、吸収→変換→構築の三段階ガイドで構成されている。吸収段階では、大陸全体の星脈を吸い込む。変換段階では、それを一種の破壊力に変形させる。構築段階では——」


「その破壊力を集中させて、放出する」


レインがゼノンの言葉を継いだ。


「つまり、大陸全体の力を一点に集中させるための装置だ」


「その通りです。そして現在、吸収段階が極大化している。変換段階が過負荷となり、構築段階に到達しようとしている」


「つまり、あと数分で——」


「装置は完全に暴走し、その放出エネルギーは制御不能になる」


ゼノンはレインを見つめた。


「お前の星脈感覚を使って、吸収段階の流れを逆転させるしかない。星脈の吸い込みを停止させれば、変換段階の過負荷も軽減される」


「吸収段階の逆転」


レインは装置に近づいた。周囲の星脈異常が、彼の意識を揺らがそうとしていた。だが、彼は自分の感覚を研ぎ澄ました。


地相の安定。水相の静寂。風相の流動性。それら全てを組み合わせて、自分の星脈を装置に投影する。


その瞬間——


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