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1章

今朝早く、国家財政総監が私の机に香草湯を置きながら告げた。

「会議が明日に変更になった。議題は例の……“蒸気”だよ」


私は息を詰まらせた。議案名は「地下出土物処理規定」。掘り出された異様な構造をもつ塊を、燃費改善に回すか、兵器へ転用するか、使えなければ廃棄する。その選別を行う審議である。


夜更けまで文書館に篭もり、冶金工房団の議事録を紐解いた。

「圧力を生む仕掛けは実現不可能であり、ローマの威厳を損なう恐れあり」。即時却下。

否定されたはずの技術が、今になって甦ろうとしている。


翌日、中央庁舎。大円卓には各代表が列席していた。

普段なら穀倉地帯の分配表にしか興味を示さぬ者たちが揃う異様さに、薄暗い廊下は緊張で満ちていた。

私が地図上の座標点を示すたび、貴族たちは眉をひそめる。


「現在の国庫支出は昨年比一二五%超。無駄遣いの余地はない」

宰相代理の指摘に、私は静かに返した。

「無駄かどうかは稼働率次第です。煉瓦窯は枯渇しています」


沈黙の中、財務次官が円卓を叩いた。

「……蒸気機関が動けば、新たな納税地が生まれる」


その一言で流れは変わった。

私は羊皮紙の地図を掲げ、トラキア内陸の空白を示す。

「未評価地区です。賦役法典第十七編に基づき、開拓が実証されれば正式な徴税区域となる」


「軍事転用の危険は?」

軍務財務官の問いに、私は条文を示した。

「第九款――非武装設備、民間営農目的に限定されています」


「燃料はどうする」

「《災害復旧特例法》第五項を適用します。石炭の無償供給が可能です。ただし、効率測定後の『徴税規模予想』を速やかに提出すること。」


最初に反応したのは国家財政総監だった。

「議事録には?」

「《暫定》の二文字を添え、特例措置として記載を」


「責任を先送りする保険か」

「事実を記すだけです」


その時、伝令が南部戦線の火薬庫損壊を告げた。

「石炭無償輸送路の確保を臨時措置として追記してください。同一予算枠で処理可能です」


会計監査官が帳簿に朱線を引いた。正式採択だった。


――議事録にはこう残る。

「一四三二年、非常会議において地下出土品調査および試験運用に係る特例措置を可決」


簡潔で淡泊な文章だ。

だが五十年後、これが読まれたとき、“蒸気機関”が偶然の成功と見なされるか、あるいは巨大な罠の第一歩と断じられるか――すべては、この語彙の選択一つに懸かっている。


私は蜜蝋板に修正案を書き込んだ。

溶ける蝋の感触は、この国の未来そのものだった。


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