黒衣の死神誕生秘話 ーお嬢様、私に拾わせていただけませんかSSー
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「どうみても、嬢ちゃんのだよな。
というか、え?なんで俺なの?」
届いた荷物を開け、冒険者ギルドグレディ支部ギルド長エルヴィスは、頭を抱えて困惑する。
そこには真っ黒なフード付きマントが入っていた。
広げたサイズは女性もの。
薬物関連や行方不明者の事後処理で、オルド王国とのやり取りが頻繁に行われていた。
中身はそれだと思い込んで、包みを開けてしまった。
開けて後悔する。開けなければ間違いだと送りなおせたはずだ。
「あら、それミルティちゃんの?」
ギルド長室前を通りかかった縦長の耳がひょこんと揺れる。
ギルド長の手に持つ物に、ギルド長補佐で獣人のドリィが目ざとく気づいた。
「やっぱ、これそうだよなー?」
「オルドから届く私物なんて、それしかないでしょぉ?」
何を今さらと当然のように言われた。それもそうかと納得することにした。
したけれど、しかし。
「Dランク昇格の祝いか?
いや、それにしたら時期が変だろー?
アイツに限って、タイムラグなんかねぇだろうし」
ミルティの父は、オルド王国宰相、シグラズル公爵だ。
そして、一般的に知られてはいないが、SSの冒険者でもある。
要するに超有能なのだ。
「直接渡せば、良くねぇか?」
やはり、首を傾げてしまう。
「直接渡すような周りを慮る性格していたら、自然災害なんてあだ名、つきませんよぉ。
娘との距離感おかしいじゃないですか、最初から」
「……あぁ、まぁそうだな」
そう言えば、わざわざ秘匿回線で娘のフォローをしたり、壊れた魔道具の代替え品を寄越してきたりしていた。しかも、ここに。
ーーいや、だからなんで俺が間に入るの?
「……誕生日、だったりしてぇ」
「マジか?」
「だって。ミルティちゃんここに来てからわりと経ちません?」
言われてから、思い当たる。空白期間はあるけれど、一年は経っているはずだ。
「……普通、メッセージカードとかつけねぇ?」
「だから、あの人に普通を求めてはいけませんよぉ」
察するには限度が無いだろうか?間違っている可能性は?
なぜ普通の包みに入ってるのか、ラッピングやカードなどが無いのだろうか。
そう言えば魔道具を送ってきた時についていたメッセージカードは、脅しのような文面だったことを思い出す。
「間違ってないのは、父から娘への贈り物ってところだけか」
「公爵家には親子とも、まともに帰ってなさそうですから。
ここなら、依頼を受けにミルティちゃんは絶対に来ますしねぇ」
「……あのとりつく島もない、反抗期真っ只中みたいな拗らせ嬢ちゃんに、俺が渡すのか?」
集団失踪からかなり経ち顔を再び見るようになってから、何があったのか口数が減り、可愛げがなくなってしまった。
すっかり尖ってしまった、小柄なソロの冒険者を思い浮かべる。
辞めた酒を無性に呑みたい、天井を仰いでそう思った。
「嬢ちゃん、ちょっと上に顔かしてくれ」
数日後、ギルドに現れたミルティにそう声をかけた。
しかめっ面しつつ、それでも執務室まで来てくれるのは正直ありがたい。
が、まだどう切り出そうか、ギルド長は内心モヤモヤを抱えたままだった。
「預かりもんだ。なにも言わずに受け取ってくれ」
「……なに?」
「受け取ってくれ」
「……」
「聞くな。聞かれても俺も困る」
間があった。口を開いたミルティより先にギルド長が言いきる。
ミルティは刺すような視線を投げるが、ギルド長はそれに目をそらした。
ミルティは諦めて包みを開け、黒い布地を取り出すと広げた。ふわりと広がるそれは明らかに生地が高級品だと分かる。
「……マント」
「ところで、いくつになったんだ?」
まじまじとマントを見つめているミルティに、ギルド長は訊ねた。
「16歳。……違う、この間17歳になった、はず?」
呟きは後半は独り言だったが、無意識だろう、ミルティは普通に声に出していた。
ーーやっぱ誕生日だったのか。
口振りから、ドリィの目論見通り誕生日プレゼントの線が濃厚そうだ。
執務室の机、その引き出しをガラリと開け中から、リボンでラッピングされた可愛い小箱を取り出す。
「誕生日おめでとう。中身は菓子だ」
ミルティが手に持ったマントの上にボスっと小箱を置いた。
拒否される前に、そのまま部屋の出入口へとギルド長は歩く。
「んじゃ俺は見回り行ってくるからー」
逃げるが勝ち、だ。そう廊下を早足に進んだ。
後日、人目を避けるように黒フードをかぶる冒険者が現れ、いつしか二つ名がついた。
"黒衣の死神"と。
人前でフードは被るなと説明すればよかった、と逃げたことを後悔して、ギルド長は再び頭を抱えることになるーー。
◇◆◇◆◇◆◇
「チチチ……」
シグラズル領の山の山頂で、エインは自分に向かって飛んできた小鳥へと手を伸ばす。
「今年はどうするかと思ったら、ギルド長に丸投げしたんですか」
エインは笑いを隠しもせず、小鳥の報告を聞く。
毎年毎年、誕生日プレゼントは忘れずに用意するが、自分で手渡すことはしない上司だ。
今までは娘の執事へと預けていた。
今、その執事は彼女の側にいない。
エインが渡すことになるのも想定していたが、ギルド長の方へいったようだ。
「それにしても……マント」
色が黒なのは、魔道具としての術式を隠蔽するためだろう。
年頃の娘へのプレゼントとしてはどうかと思うが、冒険者へのプレゼントであれば最適だろう。
過保護な上司の、考えそうなところだ。
「昨年は、ネックレスに細工してましたねぇ。毒無効、魅了耐性、害意反転だったかな」
悪意を持って誰かが近寄れば、それが身に降りかかる前に反転する仕組みを組んだ魔道具。
デビュタントを迎えた娘に贈った、父お手製の社交界用の守り。
結果として社交界では表向き、好意しか寄せられず、その外見から水晶姫と名を馳せることになった。
「マントをこの目で見るのが、楽しみですねー」
きっとこれでもかというくらい、術式が組まれているに違いない。
防具としての性能だけでなく、認識阻害ーー装備者の顔が分からないーーくらいはついてそうだ。
手渡ししていれば、親子間の溝が生まれることもなかっただろうに……。
後日広まった二つ名は、誰も訂正せず定着してしまうことになった。




