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鼓動 ――約束の夏――  作者: 御厨つかさ


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約束の夏 5 邂逅



 闇の零れ落ちる雫。



 二閃の白刃により両断され、滅しようとした闇が零れる中に触手に似た闇を溢れさせる。

「―――…樋口」

黒城海将補が低い声で呼び、その陰のようにしていつのまにか樋口が地に降りていたことに気付き、本多密は眉を寄せた。

 ――まったく、気配が読めなかった、…――。

同じ自衛官としての矜持もあるが。それよりも、その気配の薄さと、…――何か、に眉を寄せる。

 黒城が向ける視線に、まるで目線だけで会話が成り立つようにして、樋口が庭の奥へと駆けていく。

「なにが?黒城海将補」

「本多密殿、…―――扉が開く。御存知かとおもうが」

「はい」

宙から溢れ来たる闇の伸ばす手を、その歪みを見据えて密がいう。

 それは、自明の事でしかない。

「古より、本多家は封を司り、―――武を持って此の世を護る為にお仕えしてきました。―――これは、単に約定の刻が近づき、破れが広がっているというだけのこと。貴方の身を御守りし、あらたに次の世までの世界を保護するのが、わたくしの役割です」

黒鞘に収めてある白刃を、黒漆の艶ある柄に手をおいていう。

「世を滅ぼす、…――――魔の鼓動を、留めることがわたくしの役目」

「密殿」

揺れ、消えかけ、いまだ完全でないとみているものに理解させる宙の破れ。

「これは、其処から此の世を目指す闇の手もまた、破れから出ようと足掻くだけのもの。…――封印を再度完全とし、御身を御守りする前に」

密が黒柄に白い優雅なゆびさきをおく。

「いまは、滅してもらおう。あらためてのち、封印を施すその前に」

密が闇に告げ、抜刀する。

 その瞬閃、…――――白の美しい優雅が、空を斬る。

 ゆらめく水輪を残し、闇の欠片が宙から消える。

 かるく音を立てて、密の手に刃が黒鞘のもとに帰る。

 此度こそ、完全に宙から失われた闇の残滓に。

 僅かに安堵して密が息を吐いたその刻だった。

「…――――!」

 密が、驚愕した視線を送る。

 それは、森の奥―――密達家族が住む古い家の建つ方角から。

「…―――由樹乃!」

 叫んで、密が疾る。森と見まごうほどに深い本多家の庭を包む樹々の奥から。

 その悲鳴は届いていた。

 少女の悲鳴が、…――――。


 既に、黒城海将補も先を走っている。

 手には金朱の鞘もつ刃。

 同じく黒鞘の刃を手に、密は焦りを憶えながら走っていた。


 

 少女の悲鳴が響いた庭に。

 それを、みた。


 絶望に近い想いが密を蝕む。

 それは、闇の雫。

 いや、異界よりの魔の雫が。

 空をあらたに宙より割れ、破れ、がひろがり。

 闇の手を、垂らしてある。


 恐怖に目を見はり、動けずにいる少女。

 本多由樹乃の身を攫おうとでもいうかのように、―――ー。


 闇の雫、が。

 魔が、落ちる。

 由樹乃に、…―――――。






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