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鼓動 ――約束の夏――  作者: 御厨つかさ


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4 寺合宿 2


「はい!つまりは、まず溢れ出る闇を封じ込めるのが目標ですのね?」

元気よく、そして行儀良く右手をかるくあげていうのは御園百合香。

完全に肩から上にあげる挙手ではなく、かるく肘を身体に寄せたまま掌をあげていう形の挙手である。それに、篠原守がうなずいていう。

「その通りです!流石は御園嬢!御家が政治家なだけのことはありますね!」

「関係ないわ、それは。ともかく、人の世が闇に溢れて困るほどになったら、その闇を封印しなおす必要があるというのはわかったけど」

「…わかるんだ、百合香…」

しみじみという由樹乃に、不思議そうに御園百合香がみる。

「由樹乃さん、おわかりになりませんの?それに、封印は貴女がなさるのでしょう?」

大丈夫ですの?ときく御園百合香に、由樹乃がこたえる。

「全然、大丈夫じゃない、…――百合香がきてくれるときいたときには、普通枠が二人になると思ってたのになあ…」

がっくり、と座卓にうなだれていう由樹乃に、百合香が不思議そうにいう。

「――わたくしを、普通枠にいれてくださりましたの?」

「入れてたの!…――百合香も全然普通じゃ無いなんて、…」

座卓にへたりながらいう由樹乃に百合香が首を振る。

「まったく、見方があまいですわね。由樹乃さん、篠原さんと藤沢さん達が普通ではないのは当然ですけど」

「…異議ありですー!ぼくとふっちゃんはふつうわくですー!」

篠原守の抜けた声を無視して、御園百合香が続ける。

「本多家に類するというだけでも、普通ではございませんのに。これほど御自覚がありませんのは、本当に教育を受けて来られなかったのですね?」

「…教育っていうか、普通に生きてきました、…――闇とか魔とか、戦うとか封印とか、―――そんなの、全然、まったく、縁がなかったんだってば、百合香!」

「…縁がない処か、縁だらけかとおもいますけど」

「――――本当だもん。密ねえは自衛官で、弓香はアイドルだけど、真ん中の私は本当に普通で取柄もないし、本当に普通でこれからも生きていくっておもってたんだよ?」

へたり、と座卓になついてみあげていう由樹乃に、百合香が微笑う。

「それでも、過去形ですのね?」

微笑む百合香に、由樹乃が天井をみて。

「うん。―――…」

そして、ちら、と黒城が途中で出ていった引き戸をみる。

 ――それでは、先に休ませてもらうが、構わないだろうか?

といって、黒城は先に部屋を出てやすみに行ったのだ。だからこその、この由樹乃の気が抜けた様子なのだが。

 淡々と藤沢紀志がいう。

「それでは、わたしたちももう休むか。由樹乃さんも、慣れない用語が出る話をきいて疲れただろう。明日、おさらいと今後の工程に関して詳しい話をしようとおもうが、それでいいだろうか?」

「はい、賛成です、藤沢さん、―――ていうか、ありがとう、…」

がっくりと座卓に頭を落として目を閉じて云う由樹乃に、藤沢紀志が苦笑する。

「いや、これも役目だからな。…御園嬢、布団で寝ることはできますか?」

「あら、わたくしを誰だとおもって?寝台がなくとも、夜営はできましてよ?」

「頼もしい限りだ。篠原、おまえは黒城さんの処へでもいっていろ」

「いやでーす!ぼくは、ひとりさみしくねますから!それじゃ、おやすみー!」

手を振ると、篠原守が部屋を出て行く。その背を見送って。

「それでは、御園嬢、由樹乃さん。布団を敷くぞ」

座卓をそのままにしても余裕のある広い和室に、布団を敷いて。

「それにしても、御園嬢が布団を敷けるとはおもわなかった」

「あら?わたくしを甘く見ない方がよろしくてよ?布団ごとき、わたくしにかかればこんなものです」

自慢気に御園百合香がいうと、既に夜着に着替えて、かるく縛っている黒髪をほどいてくしで梳く。

 同じく合宿用のジャージに着替えて布団にへたっている由樹乃。

 藤沢紀志が微かに笑んで、同じく灰色のジャージで柔軟を。

 それに、へたったまま由樹乃が。

「なにか、ほんとうに合宿みたいだよね?」

「本当も何も、合宿ですわ」

「そうだな。合宿だ」

二人の言葉に由樹乃が布団に顔を埋めたまま、うーんとうなる。

「どうした?」

「どうしました?」

二人に、ちら、と視線だけあげて。

「うん、…―――本多の巫女とか、闇とか封印とかさ?」

「ああ?」

「はい?」

お日様の匂いがする布団に顔を伏せて。

「もう全然、理解の外だなーとおもって、…。なんでそんな風に飲み込めるの?二人とも」

御園百合香が首を傾げる。黒髪を梳る手を止めて。

「そうですわね、…わたくしは、幼いころから、お祖父様や他の方々に世の裏に闇がどれだけ潜むものかを、その背に習ってきておりましたから、でしょうかしら」

考えるようにしていう百合香に、由樹乃がじっとみつめる。

「そうなんだ?」

「ええ、…ですから、由樹乃のような普通にあかるくて、何も物事の裏を考えないような方は珍しくて、お友達をさせて頂いておりましたの」

「…そうなんだ、…わたしって、やっぱりふつうだよね?」

「はい。本当に不思議なくらいに普通ですわ。本多の御家は、一筋縄ではいかないくらい世の裏に通じる御家でございますのにね」

沈黙して由樹乃が天井をそっとみる。

「わたしは、単に神子の家系だからかな。家は神主の家系でね。わたしも神子として祝詞を小さい頃から習ってきた」

「そうかー、…要は、こどものころからの習い?小さい頃から教わってきたんだ」

そっか、と肩を落とす由樹乃に、藤沢紀志がきく。

「ひとつ不思議なのだが。…黒城殿はともかく、本多の御本家もきみの両親も、何故なにもきみに教えてこなかったんだ?」

藤沢紀志の疑問に由樹乃が答える。

「それは、この間謝られた、…。普通の子として育ってほしかったんだって、…かあさんに」

「大事にされてきたのだな」

藤沢紀志が何処かやさしいようにしずかにいうのを。

 そして、御園百合香が。

「そういうことですわね。政治家なんて一家に住んでおりましたら、嫌でも物事の裏を知ることになりますけど。…そんな闇を物事の裏を、平気で当然のようにこどもにみせる大人ばかりでないということを知って、すこしうらやましいですわ」

「…――百合香」

しずかに、そっと御園百合香が微笑むと、黒髪をゆるく結んだ。

「そろそろ寝ましょうか?明日は朝何時ですの?」

「寺だからな。朝は五時半だ」

「―――それをはやくいって!もう寝ないと!起きられないっ」

朝が弱い自覚がある由樹乃があわてて布団にもぐる。それをみて、藤沢紀志が少し微笑って。

「確かに、おやすみ」

「そうね、おやすみなさい」

御園百合香が美容の為にはきちんと睡眠をとらないといけませんのよ?とかいうのがきこえて。

 それから、本多由樹乃はあっというまに眠りに就いていた。

 ちょっとばかり、色々なことを詰め込みすぎて意識がはやく途切れたのかも?とか思ったりしながら。



 そして、―――――。


 由樹乃は、夢をみていた。

 白く淡く光るような世界のなかで。

 なんだか、わかっていたように。



 そのひとの声が、きこえるのが。



 ―――由樹乃さん。




 微笑むやわらかくやさしい声が、するのが、…―――――。






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