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鼓動 ――約束の夏――  作者: 御厨つかさ


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20/23

3 寺合宿 1


 篠原守の実家は寺である。

 処はその篠原家実家である寺。

「合宿にわたしも呼んでもらってよかったの?ありがとう!」

「…あの、本当に百合香も呼んでよかった?」

本多の巫女として必要になる知識を、黒城海将補が殆どまったく由樹乃に伝えていないことが発覚して。

「勿論だ。急な話だったが、そちらの家は大丈夫だったか?」

無表情なまま、御園百合香と由樹乃の疑問に答えているのは藤沢紀志である。

「まさか、ふっちゃんがそこまで緊急だといわれるとはおもってませんでしたよー。御園さん?でしたよね?さっきの今夜というのに来てくださって、ありがとうございます。ボクの家なら、もともと寺ですから、急に本山からお坊様が来られて泊まられるとか、結構あるので大丈夫ですよー。女性陣もふっちゃん、それに由樹乃さんに御園さんとくれば、鉄壁の布陣ですし!」

「何が鉄壁かは謎だけど、なにか楽しそうだから混ぜてもらってうれしいわ」

にぎやかな篠原守に、にっこり御園百合香が正面から見返していう。

黒髪に緩やかなウェーブが美しい制服姿の御園百合香に、思い切り篠原守が頷いている。

「いえいえー、だって、東河学園の生徒会副会長の御園百合香といえば!東河学園を代表する女傑!生徒会会長を譲っているのは、策略をするには裏で動くことのできる副会長の方が、矢面に立つ会長よりも動きやすいとおもわれたからと、もっぱらの評判ですよ!」

「あら、別に策略なんてしてないわよ?会長の方が副会長より面倒そうだなーとおもったのは本当だけど」

「あらあら、そうなんですか?きいている評判ですと、東河学園生徒会は御園様が仕切っておられるとうかがっておりましたよ?」

篠原守の言葉に、御園百合香がにっこりと美しい笑顔になる。

「あら、そんな評判が?」

「はい」

にこにこにこと、篠原守が見返して。

笑顔同士で向き合っているのが、なんだかとても寒くおもえて、由樹乃が声を掛ける。

「あの、…ともかくさ、はじめない?」

「あ、そうですね。ボクとしたことが。由樹乃さんにレクチャーするのがこの合宿の目的でしたよね?」

「疑問を持つな、それが目的だ。…御園嬢、これがこれで申し訳ない。いまの処は流してもらえるだろうか?」

篠原守がいうのに、あきれたまなざしを送り藤沢紀志が御園をみる。

 それに、にこやかに。

「もちろんですわ。わたくしは、むしろ乱入させてもらった方ですもの。篠原さんが警戒なさっても仕方ないことかと」

「そういってもらえると助かる」

「…――篠原くん、警戒してたの?百合香を?」

驚いてみる由樹乃に、篠原守があかるくかるーくこたえる。

「いいえー?別に警戒なんてしてませんよー?」

「ウソくさいからやめておけ、ばかもの。さて、黒城さんも、御園嬢が同席するのに特に異論はないのですね?」

確認ですが、と藤沢紀志が視線を送る先には、黒城海将補。

いまは私服に着替えて、篠原家の茶の間で、―――。

 手に湯呑みをもって、視線をかるく藤沢紀志に向けている。

「構わない」

淡々という黒城に、今度は由樹乃が心配になってきく。

「あの、…その、いろんな話をすることになるとおもうんだけど、…――それ、百合香にきかれても大丈夫なの?ていうか、関係無い人がきいてもいいの?」

心配そうにいう由樹乃に、黒城海将補が視線を向ける。

優しい視線に、柔らかく微笑み由樹乃をみつめるさまに。

「黒城さん?」

「いや、…別に構わない。関係者でないとはいうが、きみの同級生だろう?それに、喩え外でこれから聞いた話をした処で、正気を疑われるだけになるだろうからね。此処で聞いた話を外でされても、他の反応はそんなものだ。それをわかっていて、あえて外で話をするような真似をされるとは思わないが」

「…く、黒城さん、…それって、…」

さらり、といっている黒城につい由樹乃がすこし絶句する。

「…黒城さん?あなた、結構えぐいわね、…」

御園百合香も少しばかり残念なものをみるようにして黒城をみていうのに。

「そうかな?だが、これから話されるような内容を外で話してみても、世間の反応というのはそんなものだ。そして、それほど愚かではないだろう?」

由樹乃に向けたやわらかな視線とはまったく異なり、冷淡とさえみえる表情で淡々という黒城に、御園百合香が溜息を吐く。

「いいんだけど。確か、由樹乃の婚約者になるのよね?ならまあ、一途枠という辺りで処理できるわ」

「…――なにを処理っ、…て、百合香?!どうして、わたしが婚約したことを知ってるの?」

実際は契約結婚だが、実質は伴わない為、対外的には婚約として通すことになっている――そして、実際に戸籍等では結婚はしていない――のだが。

 まだその事実を学園では誰にも話していない由樹乃が、驚いて百合香をみると。

 あっさり、御園百合香が。

「あら、一応わたくしの祖父は御園玄大なのよ。総理大臣歴任五回。派閥と政治の化物といわれた御園玄大の孫ですからね?そのくらいの情報網はもっていましてよ?」

「…――――百合香、…」

本当に絶句している由樹乃に、視線をあわせて肩をぽんぽん、と叩いて。

「しっかりして?勿論、今回は急な話でしたけど、情報を得る為には是非参加させて頂かなくては、と思いましたのよ?外の世界、では話したりはいたしませんけど、今夜もらいました情報は、我が家の幾人かには話すことになるかと思いますわ。ですから、遠慮無く話してくださいましね?」

「…――――百合香、…普通の友達だとおもってたのに、…」

「あら、由樹乃。そもそも、東河学園は幼稚園から持ち上がりで、派閥や財閥や政治にどっぷり浸かった家の方達しかいない処ですわよ?ですから、昔、庶民との交流を目指して、公立の西河学園との間で交換留学生をという制度ができたのですわ。一時的でも、庶民の学生と交流することで学ぶ為に出来た制度でしょう?といいましても、最近は希望者がいなくて制度は利用されておりませんでしたけど」

「…そうだったんだ?」

驚いている由樹乃に、御園百合香がためいきを吐く。

「本当に、由樹乃は心配になる方ですよねえ。…いずれ本多の御本家を継ぐのは貴女でしょう?ですのに、まったく御自覚がないのですものねえ…」

優雅に頬に手をあてていう百合香に、由樹乃が驚いて見返す。

「え?違うよ?うちは唯の分家で、…――っていうか、父さんは絶対に本家を継がないっていってるし」

「それを鵜呑みにしているんですものね、…。そもそも、御父様の御希望はともかくも、御長男は既に家を出ておいででしょう?」

「お、おじさんは確かに家を出て学問してるけど、…どうしてそんなこと知ってるの?」

本気でびっくりしている由樹乃をみて、そっと視線を御園百合香が篠原守に向ける。

 無言でみる御園に、篠原守が肩を竦める。

「そりゃ、昔から友達ですけど、ボクはふっちゃん一筋ですからね?由樹乃さんの教育はそもそも御家でなさるものなのでは?」

「…―――放任主義というか、…どうも、由樹乃さんは感覚などが庶民すぎて不思議とは思っておりましたけど」

ほう、と溜息を優雅に吐いて御園百合香が心配そうに由樹乃をみる。

「本多の御本家は、どう考えても貴女の御父様が次代でしょう?そうすると、密さんも弓香さんも他に役目をお持ちですから、必然的にその次を継がれるのは由樹乃さんでしょうに」

「…やくめ、って?」

おどろいたままの由樹乃に、あら、と御園百合香が首を傾げる。

「勿論、勇者のお仕事を密さんは継がれるでしょうし、弓香さんも聖女なのでしょう?あちらの世界で大事なお役目がありますから、こちらでお家を継がれる訳にはいかないでしょうから、…違いますの?」

さらり、と百合香のくちから出た勇者とか聖女とかの発言に。

びっくりなんてものではなく由樹乃が言葉をなくしていて。

「あら、どうしました?由樹乃さん?」

首をかしげてみる御園百合香。

そして、無言で藤沢紀志が同情に堪えないという視線で由樹乃をみて肩に手をおく。

「…――ふ、藤沢さん?」

ようやく少し起動して由樹乃がいうのに。

ひとつうなずいて、藤沢紀志がいっていた。

「わかった。黒城さんだけが過保護なわけではないんだな、…。本多家全体も、きみに過保護なんだろう。…だからといって、あなたが話をしなくてよかったわけではありませんよ?黒城さん」

藤沢紀志がしみじみ同情するように由樹乃にいってから、厳しい視線を黒城に向ける。それに、湯呑みを手に特に反応しない黒城海将補。

「と、いうことはしかし、…予想以上に話は最初からしないといけませんかねえ…。合宿にしてよかったね?ふっちゃん」

「明日が土曜日で学校がないのが有難いな。…二日で収まってくれればいいが」

「え?その?二日も?」

「由樹乃さん」

驚いている由樹乃に、しずかに視線をおいて藤沢紀志がいう。

「本当に基礎から話すことになるようだからな」

「…そうなんだ、…」

無言でうなずくと、藤沢紀志が卓に一枚の紙をおく。

「それは?」

「工程表だ」

 淡々と藤沢紀志がいうと座卓にひろげた工程表―――白地に縦軸と横軸があり、時系列でなにやら書かれている表をみて。

 ―――どうして、ここで工程表?そもそも工程表って、なに?

と、疑問だらけになってしまった由樹乃がいるのだった。

「あら、用意がいいわね」

そして、それに疑問をもっていないようにしかみえない御園百合香。

「ふむ、わかりやすいな」

そして、湯呑みを手に表をみていう黒城。

「お茶おもちしましたよーん!」

いつのまに席を外していたのか、台所からお盆に新しいお茶と煎餅の入った菓子入れを盆に乗せて運んで来た篠原守。

「…せんべいか」

「黒城さん、おせんべい好きです?」

黒ごまの入った小ぶりな煎餅をみて、すこしうれしそうな黒城に、篠原守がきく。それに、うれしそうに手を伸ばして。

「好きだ。これはおもしろい」

「おもしろいんですかー。それはよかった、お好きなだけどうぞ!」

「ありがとう、篠原くん」

「堅焼きですのね?」

御園百合香が訊ねると。

「はい、伝統の堅焼きせんべい、実はこの寺の名物なんですよー!檀家さんとかにもおわけするのに、お土産用としても売りに出してるんですー!参道のお菓子屋さんに頼んで作ってもらってるんですよ!」

 どうぞどうぞ、という篠原守に。

 うれしそうに黒城が手を伸ばし、一枚確保してうれしそうにかじる。

 本当にうれしそうに食べ始める黒城に、由樹乃が瞬いて。

 ――か、かわいい、…黒城さん、…。

 本当に、醤油の香ばしい堅焼きせんべいをうれしそうに食べている黒城海将補が。

 ――いけない、わたし、何しにここに来てるんだったろう?

ついおもわず自身が何の為にこの寺に合宿に来たのかわからなくなって。

「さて、本題だが。要は闇とか魔とかいう連中と一戦交えて撃退するというのが目標になる。その為に必要な工程を表にしたものがこれだ」

「…―――」

藤沢紀志のいついかなるときも冷静な声が引き戻してくれるのに感謝して、由樹乃は何故か工程表となってしまっている闇とか魔との闘いに次に必要だと書かれている箇所をみて、沈黙していた。





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