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鼓動 ――約束の夏――  作者: 御厨つかさ


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2 転入届

「おまたせ!これで転入届の登録が済んで、パスが出来たわよ!」

「ありがとう、御園さん」

黒髪の緩やかなウェーブが制服に似合う華やかな美少女、御園百合香。

生徒会役員でもある彼女が、三人のパスをもって入ってくる。

「あ、ありがと!百合香!」

「おまたせ、由樹乃。それにしても、西河学園の有名コンビがまさかうちの学園に来るとはおもわなかった!よろしくね、これから」

百合香が、藤沢紀志と篠原守にそれぞれ学園パスを渡す。

「こちらこそ、よろしく頼む」

「よろしくおねがいしまーす!御園さん!」

しずかに冷静に藤沢紀志がいい、にぎやかに篠原守が礼をいう。

それに、御園百合香がにっこり微笑む。

「こちらこそ、よろしくね?藤沢さん、篠原くん!」

そして、由樹乃を向いて。

「それにしても、由樹乃のおじいさんが外国に暮らしていたのは知ってるけど、先方で暮らしてた知り合いのこどもさんを学園で学ばせてほしいなんて、―――」

「篠原くんとは知り合いだから、心強い」

微笑む黒城に、御園百合香がほう、と溜息を吐く。

そして、由樹乃の手を引いて、少し離れた壁際へ。

「由樹乃、…どうして、こういう隠し球をもってたこといわなかったの?」

「ええと、…?」

ちら、と百合香が黒城をみて、溜息を吐く。

「とんでもない美形、…しかも、由樹乃にべったりだし」

「…――そ、それはその、…事情が、」

「でも、眼福だからいいわ。じゃ、これ渡しておいてね?」

「え?百合香?」

手許に学園パスを残して、御園百合香がさっと教室を後にする。

「じゃね!明日また!何かわからないことがあったら、生徒会にきいてね!」

「ゆ、百合香?」

あわてて追いかけようとするが、既に廊下には姿がみえない。

「…――――ええと、その、…」

ともかく、パスを渡さないと、と由樹乃が教室を振り返る。

相変わらず、行儀悪く机に腰掛けて長い脚をあまらせている黒城海将補。

黒髪に穏やかな黒眸、白皙の美貌は黒い学生服に映える。

 ―――ええと、…いけない、直視しちゃった、…。

「由樹乃どの?」

首をかしげて、不思議そうにみつめる黒城の姿を、気合いをいれて見つめ直す。

 ――これ、学園に一緒にいる以上は、慣れておかないとっ。

「あ、その、…ともかく、これっ、…学園に入るには必要だから!」

「学園パスとかいうものだな。…不審者が立ち入らないようにしているときくが」

「そ、そうなの。この学園に勝手に誰も入れないように、このパスがいるの、―――それで、待たせてごめんなさいね」

放課後にかれらだけが待っていたのは、この学園パス作成の為だ。

 由樹乃が謝るのに、藤沢紀志が首を振る。

「いや、合理的だ。外部で不正な方法でパスを作れないように、学園に許可を得て入り、そこで作成登録をしなければ、入退館する為のパスを作成できないようにしているというのは、安全面で堅い方法だとおもう」

少し感心したようにいう藤沢紀志に、由樹乃が訊ねる。

「そうなんだ?ええと、…西河学園ではどうしてたの?」

「あちらは、公立だからな。こちらのようにエスカレーター式の私立ではない。一応、学園自体に出入りを監視する門はあるのだが、こうしたパスは使っていないんだ」

「ええ?それは、…―――こわくない?」

驚いてみる由樹乃に、黒城海将補が補足する。

「それも、此方に御二人を呼ぶことになった理由の一つだ。此方の学園の方がセキュリティが堅い。その為、申し訳ないが御二人には此方に来て頂いた」

「もーまんたいです。黒城さん!ボクとしては、受験生としての本分をまっとうする為にも、黒城さんに協力して、その闇とか魔とかいう連中を退治して、無事本願を遂げたいですからね?…それにしても、ボクの法力がちゃんと使えましたらね、…」

最後の方で、残念そうにいう篠原守に、そういえば?と由樹乃が思い出す。

「そういえば、篠原くん、…何か力がすごいってきいたけど?応仁の乱がどうとかって、…」

「ああ、それか」

「黒城さん?」

由樹乃の疑問に残念そうな溜息と共に黒城がいうから、うっかり振り向いて。

 憂いを帯びた美形とか、…凶悪すぎるっ、…!

衝撃を受けている由樹乃をまったくしらず、本当に残念そうにして黒城海将補が告げているのは。

「きみの力は強いからな、…篠原くん」

「ええっと、―――そうですかね?っていいいますか、ざんねんむねんなことに、ぼくの御力をお借りする為の力が未熟と申しますか」

「…それ以上修行はしなくていい。だがしかし、な、…」

「ええと?」

三人をみまわす由樹乃に、黒城海将補が深い溜息を吐いて。

「私もあれで闇や魔を完全に処分できればと考えはしたのだが」

「…やめてください、…。これにあの力をあのまま振るわせていたら、大変なことになります」

藤沢紀志の深刻な表情に由樹乃が心配になってみる。

「あの、それって?」

「つまり、…――。確かに、闇を払い魔を退ける力はあるのだが」

「ぼくの力じゃ無くて、大日如来菩薩様の御力ですけどね?」

藤沢紀志の慨嘆に、こそっ、と背後から篠原守が付け足している。

「はい?あの、…?」

戸惑っている由樹乃に、深く藤沢紀志が頷く。

「たとえば、これにあのまま力をつかわせていたら、」

「――――闇や魔が浄化されるのはいいが、…。総ての煩悩もまた浄化され、生命活動というものがすべて転生の輪から外れ、解脱してしまうからな、…」

「げ、解脱って?それって一体?」

続く黒城海将補の言葉に、由樹乃が訊ねる。

それに、藤沢紀志が淡々と応える。

「文字通りの意味だ。このばかは力に制限なんて出来ないからな、…。御仏の御力をお借りするのはいいが、その力で囲んだ場所は、すべての欲が浄化されてしまい、つまりは最後には生命活動自体がすべてなくなって浄化して、更地になる」

「さ、更地、…――?」

「そうだ。土や何かでさえ生命だろう。そして、形を保つのもまた煩悩といえる。そうしたすべてを御仏の御力は浄化してしまうからな、…。人にみえる形としては、更地となってしまう。無に還るというわけだな」

真剣にいう藤沢紀志に言葉をうしなう。

「…―――欲って、…浄化しすぎてもいけないんだ、…?」

由樹乃の言葉に、深く藤沢紀志がうなずいて。

「その通りだな。生命活動というものは、ある種の欲だ。それがすべてなくなれば、」

「転生の輪から生命が外れ、浄化し解脱する。…目標ではあるが」

黒城海将補の慨嘆に、溜息をついて藤沢紀志がいう。

「宗教的にはな?だが、こいつが無制限に力を使ってみろ。地球くらいは簡単に総て浄化されてしまうぞ?」

「…―――御仏の御力ですからね、…」

しみじみと篠原守がいうのに、由樹乃が言葉をなくしていると。

「だから、多用するなというんだ。…生命そのものがなくなってみろ。受験は絶対にできないぞ?」

「…反省してます、ふっちゃん、…」

がくり、とうなだれてみせる篠原守に、冷たい視線を送る藤沢紀志。

 ―――い、良いコンビだよね、…じゃなくて。

「つ、つまり、…―――そんななんだ、…篠原くんの力って?」

「はい、緊急事態とかで、一時的に闇を祓う為にとか使用する程度なら、ちょっ、と心が浄化されたくらいですむんですけど。悪事とか、犯罪発生率が落ちたりとかする程度ですむんですけど」

目をとじてうんうん、とうなずきながらいう篠原守はなにをみているのだろう?

「できれば、おまえは動くな、…、といっても、闇とやらの攻勢が強まるのでは、私がどれだけ祓っても限界はあるからな、…。おまえに、一時的にでも守護してもらうしかない場合もあるか、…」

腕組みをして真剣に考えている藤沢紀志。

 それに、篠原守があかるくいう。

「でもさ!由樹乃さんに、ちゃんと破魔の剣、手に入れてもらえば僕らも西河学園に戻れるでしょ?それまでの話だよ!」

「…多分な、だが、―――」

「え?わたしが、…剣?」

おどろいてみている由樹乃と、黒城海将補を見比べてかるく藤沢紀志が美しい眉を寄せる。

「貴君、…――。過保護なのはいいが、最低限の必要に関して、すでに学園入りを果たされる前に話しておかれてあったのではないのか?」

何処か微かにあきれた風に黒城に向けていう美少女に、その肩に手を置いて篠原守が深くうなずく。

「無理ですって、ふっちゃん。黒城さんは、重度の過保護ですよ?それはもう、先程まで話題になっていた、ぼくの御仏の御力を借りて行なう浄化と封印の守護に関して、わかっているのに、この学園で御力が発現するのも理解なされた上でぼくらを此処へ呼んでるんですよ?」

うむうむ、と重厚にうなずいてみせる篠原守を藤沢紀志が冷たい目でみる。

「確かにな、…。若人の意欲も浄化されかねない」

「ひ、ひどいっ、…ふっちゃん!その冷たい視線っ、…!」

よよよ、とくちもとに手をあててよろけてみせる篠原守を一顧だにせず、藤沢紀志が溜息をついて由樹乃と黒城海将補を見比べる。

「由樹乃さん」

「は、…はい」

そして、黒城に何かいうのをあきらめたようにして、藤沢紀志がいった。

「一度、これの寺で合宿をしましょう。私が、必要なことを説明します。…簡単にいえば、あなたは、本多の巫女として力を制御する為に、護りの剣を手に入れる必要がある」

「護りの、…剣」

深く藤沢紀志がうなずいて。

「その程度のことは、此処へ来る前に話しておられるとおもったが」

沈黙している黒城に、かるく首を振って。

「ともあれ、由樹乃さん」

「は、はい?」

ちら、と藤沢紀志が責めるように黒城海将補をみて。

あきらめて、視線を由樹乃に据える。

「多分、とても大変だ。西河へ戻るまでは、私達がサポートする。それから、あなたの剣に関してだが」

「はい」

真剣に見返す由樹乃に、淡々と。

「破魔の剣とも、護りの剣ともいわれるが、…―――あなたの剣には名前が無い。正確にいうなら、剣の名も、そのある場所も本多の巫女しかしらないと伝わる」

「…―――それは、…わたししかしらない、…?」

「そうだ」

 深くうなずいて。

 真剣にみていう藤沢紀志に。

 それっ、て…。

「もしかして、見つける方法も、…わたし?」

「その通りだ」

冷静な藤沢紀志におもわず言葉につまる。

「そんな、…それって、かなり無茶なんじゃ、…」

「確かにな」

そして、責めるように黒城海将補をみる藤沢紀志。

何故か大あくびして、のびをしている篠原守。

そして、元凶というべきか。

涼しげに微笑んで、由樹乃をその穏やかな黒眸で見つめて。

「確かに困難はつきまとうが。…私のすべてにかえて、必ず御身を御守りする。

――由樹乃どの」

しずかに黒眸で由樹乃を護ると告げてみつめる黒城が。

 そっと、その手をとり、押し頂く。

 眸を閉じ、由樹乃の手をいただいて、額に。

「――あなたを必ず護る、…由樹乃どの」

そっと微笑んで、視線をあわせる。

その黒眸に声が出せなくて、由樹乃は見詰め返して。

 ―――だ、だから、ハンサムって卑怯っ、…!

精一杯、なんとかそれだけおもって。

それから。

 ―――もしかして、これからとっても大変なんじゃ?学校生活、…!

ハンサムすぎる美形の黒城に。にぎやかな篠原守と、鉄面皮の美少女、藤沢紀志。

この面子だけでも濃いけれど。

 ――く、くろきさん、…こういう不意打ちはっ、…。

美形好きな母譲りの血筋がにくい、と。

 ど、どうしたらいいんだろう、これ、…?

 と、困っている由樹乃がいるのだった。

 そして、そんな由樹乃に構わず始まる学園生活。



 闇と魔と闘い、封呪の巫女として世界を護る為に。

 巫女の剣を手に入れることがどうやら第一目標。

 そんな波乱の学園生活が開始される。――――



 




 



 


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