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鼓動 ――約束の夏――  作者: 御厨つかさ


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18/23

学園編 1 波乱の学園生活開始



「しかしやりますねえ、…。本多さんちの巨大権力を実感したのは本当に久し振りですよ」

「なんか、…ごめん」

 東河学園の教室。

そこで、周囲を珍しそうに見回しながらいう篠原守に、ちょっとうつむいて謝っているのは本多由樹乃。

 ちなみにいまは放課後で、処は学園――由樹乃が通う東河学園高等部の教室。

 放課後の教室には、由樹乃達数名だけがいる。

 そう数名、つまり。

「由樹乃どのが謝ることはない。これは私の我儘だ」

「…―――えっと、その」

低い美声がいうと、微笑んで隣にいる由樹乃をみる。

 そう、なんということか。

できるだけ、いま由樹乃は隣をみないようにしているのだが。

長い脚がちらりと視線に入る。行儀悪く由樹乃の隣にある教室の机に腰掛けている長身美形でしかも制服を着たハンサムは、―――。

「えーでも、黒城さんー。ぼく、篠原守としてはですね?一応、受験生という戦に挑む立場からしましてはね?一応、受験せんそーをあまくみるなー!とか、シュプレヒコールをあげておきたいわけですよ?」

軽い口調で文句なのか何なのか謎な言葉を連ねている篠原守に、黒城海将補が苦笑する。

 そう、つまりは。

「だから、文句は私にいうといい。彼女を護りたいが為に、こうして同道できるように、位置を細工してもらっているのだから」

柔らかく微笑んで云う長身のハンサム――黒城海将補の。

 美形の破壊力が凄い。

 ―――ちょ、直視できない、…っ。

由樹乃が思うのはそれだ。何というか、多分、制服が似合うのだろう、黒城海将補は。そもそも、自衛隊にいるのだし。

 しかし、自衛官としての制服姿で黒城海将補としていた姿を由樹乃はみたことがないのだが。

「えー?ですからねー?」

「篠原くん」

困ったように微笑んでいる黒城海将補――いや、いまかれが着ている制服はだから。

「あ、あのだから、それは、…―――」

うっかり、篠原と黒城の会話を止めようとして振り向いてしまった由樹乃は。

「…――――」

おもわずも絶句していた。

「由樹乃どの?」

少し首を傾げて、淡い微笑を刷いて、黒城海将補が由樹乃をみつめる。

 黒髪が白い額に落ち、涼やかな黒眸に鋭さとだが穏やかに包み込むような気配がある。長身に美形、すらりとした肢体をいま包むのは学生服だ。

 黒い単純な学生服が、どうしてこうも似合うのかと。

 ―――だめ、やっぱり正視できない、…。

 正視できない破壊力。

 単純な黒い学生服が黒城に掛かると、――もう危険だとおもう。

 何が危険とかよくわからないけど。

「どうされた?」

やさしくしずかに訊ねてくる声がまた美声だ。

 ―――…わたし、かあさんが美形に弱いって思ってたけど、…。血筋なのかも?

母から先日改めてきいてしまった父(とんでもない美形だ…)とのなれそめに対して、母が危険人物だとおもった由樹乃だが。

 いま、自身の反応からして、母を批難できるとは到底思えない。

 ――ごめん、かあさん、…。

そんなことを思ってから、気力を振り絞って振り返る。

「…っ、ええと、だから、――篠原くんのいうのはまちがってないよ、…。その黒城さんの希望を入れる為に、家が我儘をいっていれてもらってて、…しかも」

何とか一瞬、黒城をみてから、高速で篠原達に視線を向ける。

「ごめん、本当に。受験生なのに、…――交換留学になんてものに巻き込むなんて」

頭を下げて謝る由樹乃に、篠原守が困った顔で天井をあおぐ。

「由樹乃さんには別にいいんですけどねー。無茶を通されたのは本多の御本家ですから、…分家でしょ?まだ由樹乃さん家は?」

「まあ、そうなんだけど、…」

篠原守がいうのに困っていると。

さらに、うなずきながら篠原守が続けている。

「なら、仕方ないですよ。由樹乃さんはわるくありません。問題なのは、この黒城さんです。かれが我儘を通して、本多の御本家が動いちゃったんですから。本家に逆らえる分家なんてありません!ぼくが文句をいってる先は黒城さんで、もーまんたい!です」

「そうはいうが、それだけ目の前で文句をいえば、由樹乃さんが気にするのは当然だろう。すまないな、由樹乃さん。これがうるさくて」

「あ、はいあの、…紀志さん」

途中で篠原守の頭をかるくはたいて、冷静に無表情でいってくれるのは、藤沢紀志。鉄面皮の美少女だ。美しい黒髪の美少女だが、その冷静さと冷徹、そして騒がしい篠原守とのコンビでよくしられている。

 そう、他校であるここ東河学園でもしられているほどだ。

「まあ、この時期に東河学園と西河学園での交換留学生制度を蒸し返して、実施させるほどだとは思わなかったが。―――…別の学校というのも新鮮なものだ」

わずかに微笑んでいる美少女――藤沢紀志に、由樹乃が少しだけほっとして息を吐く。

「でも、本当にごめんなさい。…こんなことになるなんて思ってもいなかった」

「私も確かに予測はしていなかったな。西河学園高等部二年に所属して、そのまま卒業まで学ぶものだと思っていたが。人生には、面白いことがあるものだ」

「…はい、その、そうおもっていただけると」

 額に手を当ててついうつむく。

 そう、この美少女、藤沢紀志と賑やかな篠原守。

 二人は、交換留学生として、それまで通っていた西河学園から、由樹乃が通う東河学園へと交換留学させられてしまったのだから。

「いいんです。ボクは医学生として学ぶ場を得る為に、受験戦士として戦っているのですから!この程度の障害でぼくはめげませんっ!…――まっていてください!滝岡先生!ぼくは、…―――必ず、この受験戦争を勝ち抜き!医学生として学び!その後、かならず!滝岡総合病院での研修医としての地位を獲得してみせますっ、…!まっていてください!滝岡先生!」

「…――別にまってはいないとおもうがな。それに、あそこは本当に研修医としての競争率が高いぞ、…―――。人気があるからな、滝岡先生は」

「そうなんですっ、…!医学生としての門を潜るのも大変ですが!…確かに滝岡先生は医学を目指すものなら誰もが目指す峰!…ぼくも、初心を忘れずその峰を目指してっ、…!」

何故か、由樹乃達に背を向けて拳を握りひとり力説してなにかを誓っている篠原守に、由樹乃が目を瞠る。

「ええと、あの、…?」

その篠原守を背に、藤沢紀志が一度うなずく。

「おとなしくなったな。由樹乃さんはまだ知らないとおもうが、これは重度の滝岡先生フリークでな?いまのように話を向ければ、絶対にそれまでの話から思考がそれて、滝岡先生に勝手に誓いをしだすから、少しおとなしくさせたいときには、こうして話を振るといい」

「え、あの?」

おとなしくは、…?と思わずおもいながら壁に向かって拳をにぎり何事か誓っている?篠原守を思わずみる由樹乃に。

 藤沢紀志もまたそちらをみて。

「確かに音声は伴うが、そこは妥協だろう。後は方角を把握しておくことだ」

「…方角?」

藤沢紀志がおもむろに頷く。腕組みをして、深くひとつ。

「いまあいつが向いているのは、滝岡総合病院がある方角だ。つまりは、憧れの滝岡先生が勤務している病院だな」

「…向きまで、…いま、篠原くん、本当にわかってやってるの?」

「そうだ。いつどこにいても、方角がわかるようにしているらしい」

にぎやかで残念な天才篠原守についてはいろいろ他校にいてもきくことはあるのだけれど。その残念伝説にまたひとつ加わったよね、とおもってしまう由樹乃は間違ってはいないだろう。

 ――篠原くんって、本当に、…。

ひょろっとした長身で、にぎやかしい篠原守。成績は良くて、医学生志望で勉強は出来て明るくて、――それだけなら、女子人気もあっておかしくないのだけれど。

 ―――うん、…。

本当に色々と。

そして、常に行動を共にしている美少女、藤沢紀志。

二人のコンビは、本当に有名なのだが。

「それにしても、学校、――勉強とかあるのに、ごめんね」

 まさか、こんなことになるなんて。

 それは、本当に予測できないことだったから。

 十九才の姿に何故か戻ってしまっていて、「偽装」ができないままらしい黒城海将補。そのままの姿では、自衛官として勤務を続けるのはどう考えても難しく。

 だから、しばらく本多の御本家預かりとして、庭の一角にある四阿に住んでいたのだが。

「本当に、なんで、…こんなことに」

「すまない。私の力では由樹乃どのの近くにいて守護するのでなくては、…――篠原くんのようには護れないのでな。私の力不足だ」

少しばかり憂えるようにして微かに笑むと、黒城海将補が由樹乃に謝るのに。

「ええっと、いえ、その、…――黒城さんはわるくは?」

 あれ、えっと?と思っている処に、篠原守が復帰してきた。

 思い切り、医学生となることか、研修医として席を確保することとか、誓い倒した後だからだろうか?少しばかりすっきりした笑顔で、篠原守がいつのまにか由樹乃達の近くに戻り、拳をにぎって力説する。

「そうです!ぼくは闘いますよ?何といったって、黒城さんの云うとおり、ここであったが百年目、闇とか魔とかが出て来てしまわれては、…――――」

「し、…篠原くん、…?」

ぐっ、と篠原守がこぶしをにぎっている。

冷静にその隣で篠原守をみる藤沢紀志。

「闇とかそーいうものが出てこられて、…――!」

黒城海将補も興味深げに篠原守の挙動をみている。

「世界が破滅なんかしてしまわれたらっ、…!受験ができなくなりますからねっ、…!」

由樹乃が思わず絶句する。

「…篠原くん、…そこが目的?」

「当然だな、こいつは医学生になるのが当面の目標だ」

「ふむ、…受験というときまでには、始末をつけておきたい処だな」

しばし何とか何とか由樹乃がくちにすると。

藤沢紀志が大きく腕組みをしたまま頷き。

黒城海将補が、十九才の姿でうなずいている。

 その三人に向けて。

「黒城さん!その言質いただきましたっ!ぼくは、かならず!受験生となり、…!医学生としての狭き門を潜ってみせますっ、…!交換留学で学校がかわったくらいなんです、…!その程度の障害では、ぼくのこの情熱をさますことはできません!…闇なんて、―――受験戦争の邪魔になるというのなら、蹴散らしてみせます、…!」

力説している篠原守を思わずながめてしまっている由樹乃と。

感心したようにして篠原守をみている黒城。

 そして、いついかなるときも冷静な美少女藤沢紀志が、放課後の教室へと届いた足音に視線を向けていた。


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