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鼓動 ――約束の夏――  作者: 御厨つかさ


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17/19

約束の夏 番外編 「デート準備はつつがなく」





 よく晴れた朝。

 その準備の為に呼び出された関は、呼び出した鷹城に文句をいおうとして、――――。

 言葉をなくしていた。


 


「黒城…さん?」

思わず茫然と相手を正面から見つめてしまっていうのは、関。

 処は、本多家の無駄に広い庭。一角にはこの呼出しの為だろう、白い丸テーブルに椅子まで用意されているが誰も座ってはいない。

 関もまた、呼び出した相手になにかをいう前に茫然と向き合う相手を見詰めていた。

 関は、黒いスーツに強面の――それなりにハンサムといえないことはないが――刑事だ。長身の痩せ形、一歩間違うと険相にもみえかねないほど、その相手を眉を寄せて見つめてしまっているのはある意味当然だったろう。

 関が見詰めてしまっている相手。

 つまりは、―――。

 十九才くらいにしかみえない黒城海将補、…。

 黒髪に鋭い美貌の青年を前に、関が突然、隣りにいた人物を振り向く。

「おまえのせいか?」

 訊く相手は、これまた美貌という意味では、人外といっていいくらいに美しい美青年――年齢不詳の、白い美貌に柔らかな微笑みを湛えた鷹城秀一を関が睨む。

 それに、にっこりと鷹城が。

「いやだな、僕のせいじゃないよ?そんな疑いをかけなくても」

「…誰のせいだ、…この近辺で起こっている妙なことには、大抵おまえがかんでいるだろうが。…しかし、あなたは、―――黒城海将補?」

 以前逢ったことのある黒城海将補を思い起こして関が沈黙する。

 その際は、確かに地位に相応しいある程度の年齢――といっても、かなり若い印象はあったが――に、穏やかで、―――。

 少なくとも、十九才なんて見た目にはみえなかった、と。

 困惑している関を前に、少し黒城が微笑む。

「すまないな、…。しかし、見分けがつくものなのだね?私がこの外見になっては、他人のそら似や、或いは若い親戚くらいに理解されるものだとおもっていたが?」

すこし首を傾げて、鷹城に問う黒城に。

「それは、関が規格外なんです。一応、刑事ですしね?顔の分析とか、得意なんじゃないかな?ね、関」

「そうなのか」

黒城と鷹城、二人に視線を向けられて関が眉を寄せる。

「それはともかく、…おれを呼んでどうしたいんだ?この人にあわせて」

難しい顔でいう関に、鷹城がにっこり笑う。

 大変、麗しい微笑である。

「それはね?関。きみに、この人の護衛をしてほしいとおもうんだ、―――デートの間だけでいいからね?」

「…―――護衛?」

驚いて関が黒城をみる。

「必要ですか?」

思わず率直に声が出た関に、黒城が苦笑していう。

「私には必要ないのだが、…いや、ある意味いるのかな?」

「御自覚ください。必要です」

黒城の疑問に、きっぱりと鷹城がいう。

「いや、そもそもおれを何故呼ぶ?そちらの問題だろう?おれは刑事だぞ?そもそも警備じゃない。それに、自衛隊の幹部を護衛するなんて、管轄外だ。縄張り争いを激化させたいのか、おまえは」

「ええ?そういうつもりはないですってば。単に関が優秀だから、つかえるものはなんでも使えってやつ?」

にっこり微笑む鷹城を関が睨む。

「使うな、人を。そもそもだから、警備なんて」

抗議を続ける関に、あっさりと鷹城がいう。

「あ、私用だから」

「…――それは?デートとかいってたが?」

「そうそう、デートね?それに自衛隊から、相手がいくら幹部でも護衛を私用に付けるわけにはいかないでしょ?」

「どうしてだ。幹部でしかも海将補クラスなら、普段から日常生活に護衛がついていてもおかしくないだろう。プライベートは保証されないだろうが」

「まあそうなんだけどね?…ほら、いまは黒城さん、この外観だし」

「…言葉を選べ、外観だと建物かなにかだろう、…。しかし、外見?そもそもなんで、こうなってるんです?」

黒城に向け訊ねる関に、苦笑して応える。

「いや、わざとではないんだが、…以前から、この姿ではまずいので偽装していたのだが。それが解けてしまっていてね。それを何とか、もとに戻す必要があるのだが」

「…偽装?こちらが本体で、あなたの以前の姿は偽装だったってことですか?」

「わかりがはやいのはたすかる。そういうことだな」

穏やかに微笑む黒城には以前と同じ泰然とした雰囲気がある。

 それに、関が困惑しながら溜息を吐いて。

「だからといって、…おれになにが?この人を護衛なんて、するだけ無駄だろう?」

「まあ確かにね。そうなんだけど、…今回は相手がいるから」

「デートか?…本人だけで十二分に足りるだろう?」

「私の実力を評価して頂けているのはうれしいのだが、今回は万が一を防ぎたくてね。本多の封呪の巫女を伴って歩くことになるから、その間の護衛が周辺に必要になるんだ」

穏やかに微笑んでいう黒城に、関がうろんな表情になる。

 それから、鷹城を向いて。

「おまえか?また、よくわからない異界とか、なんとかいう謎な物件におれを放り込もうとうのは?おれは、現実に普通に犯罪者を取り締まっている刑事で、おまえの関わっているような異界担当とかいう奴じゃない!」

「いい加減、もう異界担当を受理しない?異界部門担当刑事でいいじゃない?その方が、僕もたすかるし、ね?」

「…―――なんでおれがおまえの都合に合わせなくちゃいけないんだ!」

「関だから」

「…―――おまえな?」

「そういうわけで、横浜から、―――そうだな、茅ヶ崎か?一応、横須賀方面までの一帯を警備下におきたいのだが」

「…いきなりなんですか。スケールがでかすぎます、無理です!」

言い合いをしている鷹城と関の会話に、すらりと言葉を挟んできた黒城に関が叫ぶ。

「どうしてそうなるんですか、…!それはもう、一刑事に頼むような案件じゃないでしょう。おれは、普通の刑事ですからね?警備畑でもなければ。そもそも、そのスケールで要望するとしたら、…もっと上に頼んで人員を出してもらわなきゃむりでしょうが」

あきれていう関に、黒城が首を傾げる。

「そうかな?…昔は、術者などに頼めば一帯の管理などしてくれたのだが」

「その術者って何です、昔って?…いや、その話はいいですから」

説明しようとする黒城を関が遮る。

「ききたくありません。おれは、普通の刑事ですから」

「そうかね?」

十九才の外見で、不思議そうに黒城が首を傾げる。

「なにを聞かされておられるかは知りませんが、おれは普通です。そういう、術式とかは無理ですよ、本当に管轄外ですから」

何故か必死にいってしまう関に、ふむ、と黒城が鷹城をみる。

「きみの連れはこのようにいっているが、…どうしたらいいだろうか?」

「ええ、関には勿論、一般的な警護の方法とか、警備に際しての盲点、或いはデートコースを点検してもらって、事前の危険物排除、敵性よりターゲットにされそうになるだろう箇所のクリーン化への指摘と指示を出してもらいます」

「…そういうのなら、――って、か。最初からいえ!」

怒る関に、肩を竦めて。

「だって、きかなかったじゃない。実際の警備は他の人にしてもらう手配はもう出来てるから、それの前に打ち合わせと警備に必要な警戒地点とかの盲点を洗い出してほしいんだよ、関には」

「それを先にいえ、先に、…しかし、範囲広いな?」

どこから何処を歩く予定なんです?と真剣に机に広げられた地図を見始める関に、

黒城が無言で鷹城をみる。

「いえ、すみません。こういう奴です」

「それはまあ、わかるが。…きみの言い方も最初がわるいとおもうぞ?」

「はい、…反省します」

それまで、立ち話をしていたのだが。

 テーブルにおかれた地図に、無造作に幾つも丸をしていきながら、ぶつぶつ呟いている関を黒城がみて。

「それでは、かれに盲点を洗い出してもらって、実際に警備してくれるのは誰になるのかな?」

訊ねる黒城に、鷹城がにっこりと微笑む。

「はい、この際ですから、最善を手配させていただきました。こちらで御用意できる最強の手札ともいいます」

「そうか」

穏やかにいう黒城に、きっぱりと自信ありげに鷹城がうなずく。

「ええ、もちろん。これ以上ない手札です」

 あ、きましたね、と。

 この待ち合わせ場所に、向こうから手を振ってあらわれた人物は。


 本多家の無駄に広い庭。

 その一角に、設けられたテーブルと椅子。

 そこへ元気よく駆けよって来るのは。



「おまたせしましたー!呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ――ん!みなさまの篠原守、篠原守がやってまいりました!!こんにちわー!」

お邪魔します、と笑顔でテーブル前まできて、にこにこというのは細身の制服を着た高校生、篠原守。

 黒城に向かい、思い切り礼をする。

「はじめましてー!篠原守です!よろしくお願いします!」

体育会系?な挨拶をするにぎやかなひょろっとした高校生の隣で、あきれた視線を送るのは。

「はじめまして、ではない。…お久し振りです、黒城海将補」

しずかに黒髪の美しい美少女が淡々と表情を変えずにいう。篠原守と同じ高校の制服を着た彼女の名は。

「確か、藤沢家のお嬢さんだったか?」

「はい、紀志といいます。これがぽんこつですみません」

篠原守をしめしていう藤沢紀志に、黒城が微笑む。

「いや、構わない。紀志くん、それではきみが今回の担当かね?破邪の巫女といわれるきみが」

「…破邪の巫女はともかくとして、…今回は、これです」

顔を振り向ける藤沢紀志に、篠原守がわかっていない顔をする。

「え?ぼくがどーかしました?」

「…――こんなのだが、今回はこれが働く。中身がどうであれ、効果は確かにあるから」

「え?え?この篠原守、頼まれたことは絶対、とはいえませんけど、ぼくにできる限りでしたらやりとげますけど?難しいことはムリですよ?」

「…まあ、こういうのだが、…」

微妙な表情になる藤沢紀志に。わかっていない顔でみまわす篠原守。ちなみに、地図を点検している関は、藤沢紀志にも篠原守にも一顧だにあたえていない。

 そして。

「関さんがきめてくれた範囲をチェックして?」

「そうだ、そして、おまえに頼みたい」

「ええと、つまり、…――その女の子とデートするのに、安全にしたいってこと?」

疑問に黒城と鷹城を見比べる篠原守に、黒城が頷く。

「その通りだ。手数を掛けるが」

「ええと?まあ、…女の子とデートするのに、相手の無事は確かに優先しないとね?ちゃんと守ってあげないと、―――ふむ?関さん?」

こぶしをくちもとにあててなにか考えると、テーブルで地図を睨んでいる関のもとへいく。

 それから、しげしげと地図をながめて。

 何やら、関が地図にしている印をじっとみて。

 ううん?とかいってから。

不意に顔をあげて、ひょろっとした身体を起こすと、いっていた。

「つまりは、デートが浜辺なんだ?だとしたら、…―――うん、たしかに面倒だよね?警備とか、…――」

何事かぶつぶつ呟き始めた篠原守に、わるい予感をおぼえて藤沢紀志が留めようとする。

「おい、なにをするつもりだ?」

「…なにって、ふっちゃん、―――――…デートで彼女の安全は守らなきゃだし、…ここは、思い切って大日如来菩薩の御力をお借りして、――――」

「やめろ!おい!」

藤沢紀志の制止は間に合わなかった。

 突然、光が――――――。

 篠原守を中心に、円がひろがるようにして眩い光が。

 一円を護るようにして、ドーム状に透明な半球の加護がひろがるのを。

「…おまえな、…――」

肩を落とし、額に手をおいて藤沢紀志がいうのに。

不思議そうに篠原守が見返して。

「どうしたの?ふっちゃん?面倒だから、大日如来様にお願いして、地図にかいてある守護しなくちゃいけない一帯を覆っちゃった」

ダメだった?ときょとん、としている篠原守の肩に藤沢紀志が手を置く。

「おまえな、…」

見事な光のドームが上空に広がっているのに藤沢紀志が肩を落とす。

「やりすぎた?」

「ああ、…これはいいんじゃないか?」

みあげて関がいうのに、鷹城が苦笑する。

「ちょっと、スケールがおおきいけどね」

「ふむ」

そして、黒城が確認するように上空を眺めて。

 青空に白い雲、そして透明なドームはそれといわれなくてはわからないほどのものだが。硬質ななにか、がその一円においたものを護るのが理屈ではなく理解できる。

「外敵がどのように外から攻撃しようとも、破れず。そして、うちから侵そうにも」

「大日如来様のありがたーい御力ですからね?内側だって、それで満たしてますから、これを解くまでは、どんな闇でも侵入はできません!百人のっても大丈夫!」

謎なフレーズを持ち出す篠原守にも、黒城が真面目にうなずいて。

「凄いな、これは。これと同じものが昔あれば、―――」

懐かしいように青空を目を細めてみて、黒城がいうのに鷹城が好奇心で訊ねる。

「それって?昔これがあれば?」

それに、黒城が感心したようにして透明なドームを振り仰いだままで応える。

「ああ、応仁の乱は起きなかっただろうな」

「…―――そのスケールですか、…」

思わず、聞いてしまってから驚いて見返している鷹城に。

 藤沢紀志がしみじみと謝る。

「すまないな、これが非常識で」

「いえ、…まあそれだけの御力で御守り頂ければ、こちらとしてはたすかります。しかし、お身体とか大丈夫ですか?力を」

つかいすぎたりは、―――と。

 そう聞こうとした鷹城に、淡々と藤沢紀志が応える。

「いや、その心配だけはない」

「え?ぼくのこと?だいじょーぶ!百人乗ってもだいじょーぶですよ?それに、ぼくは大日如来様の御力をお借りしているだけで、ぼく個人の力じゃありませんからね!」

にこにこにっこり、いいきる篠原守に、藤沢紀志がためいきを。

「つまり、こういうことだ」

「…そうなんですね?まあ、…大丈夫なんでしたら」

元気いっぱいな篠原守に、鷹城も視線をちょっとそらす。

 つまりは。

「感謝する。これで、鎌倉から茅ヶ崎、横須賀までの一帯は貴君の力で安全になった。得難い力だ。ありがとう、篠原くん」

「いえいえー、てれちゃうなー。ね、ふっちゃん!」

にこにこにっこり、えへ、とてれてれになっていう篠原守に藤沢紀志が額に手を当てる。

 そして。

「やはり、医者にするのは勿体ない。坊主になるべきだろう、おまえは」

「えええっ、…!ふっちゃん、おうぼう!ぼくは、絶対医者になるんですー!滝岡先生みたいに、すっごく立派なお医者さんはムリでも!その高き峰をめざし!ぼくは!医学生になる為に、まずは受験生として闘う!その一心で生きております!

ぜったい、坊主なんてならないんだからねー!」

篠原守の主張に、藤沢紀志がかるく眉をよせていう。

「しかし、大日如来を呼びつけられるというのに、坊主にならなくてどうするんだ」

「えええっ、だから、ぼくはね?それに、別に呼びつけてません!ちゃんと、お頼みしてその御力をちょーっと、すこしだけお借りしただけですっ!」

騒がしい高校生二人を前に。

 くすり、と黒城が微笑んだ。

「どうされました?」

「いや、賑やかだとおもってな?」

これがきみの最強の手札かね?と問う黒城に、鷹城が応える。

「はい。正確にいいますと、手札ではありませんが。僕の手札というより、にいさんのですね」

「ああ、滝岡くんか。かれは、人脈が広いからな、あれで」

「はい。今回も、にいさんのサインで釣れましたからね、…」

にいさん、ごめん、と。内心、勝手に兄、滝岡のサインというか、無断で撮影した写真をプリントアウトして。その後に、騙してサインをさせたのだ。…

 それをエサに、医師としての滝岡に憧れている高校生篠原守を釣ったのである。

 そして、最強の坊主、もとい、坊主にはならないと宣言している、どうみても御祓いとかに向いたにぎやかな高校生は、医者になるんです、と抗議していたりとするが。

 鷹城がテーブルで再度地図を見直している関の処に行き。藤沢紀志もまた、其処に呼ばれていくのを背に。



「それで、…――あなたは「誰」です?」

不意に、それまでのにぎやかさが嘘のようにして。

真剣に透き通る眸で、篠原守は黒城を見据えていた。


対した黒城が目を細める。

「そうか、…――きみは、「見える」のだな」

穏やかに篠原守がその問いに困ったような微笑みをみせて。

「ふっちゃんは神子さんですけど、こういうのは疎いですからね。―――封呪の巫女を御守りになるなら、大きな代償が必要になるでしょうけど、いいんですか?」

黒城もまた困ったように苦笑して篠原守を見返していた。

「きみのその賑やかななのは煙幕か」

「そうともいいます。単に、賑やかしくしてるのは好きなんですけどね?それで、貴方は、これからどうなさるんですか?」

訊ねる篠原守に。

 何処か、底冷えのするような何かを飼う高校生に。

 ふと、優しいように微笑んで黒城が。

「私は、役目を果たすだけのことだが、…唯、今回だけは、これで最期となるのではないかと期待している」

「…そうですか」

厳しいものを隠さず篠原守がいう。

「それなら、ぼくも。――――…ひとつだけ」

黒城が無言で篠原守に訊ねる。

それに、俯いてかるく息を吐いて。

「黒城さん。ぼくは、…――ふっちゃんを護ります。

貴方が、あなたの巫女を護るように。それが」

視線をあげて正面から見据えて。

「僕の役目ですから」

顔をあげてひるまずにいう篠原守に、黒城が苦笑する。

「役目が互いに違う方向をみないでいられることを祈ろう」

「…僕も祈ります」

そういうと、普段のちゃらけた雰囲気に突然戻って云う。

「あれ?だとすると、ぼくと黒城さんは、普段は別に敵でないのでは?」

「今回も協力してもらったしな?」

あざやかに皮肉に笑む黒城に、よよよ、と突然、篠原守がくちもとに手をあてていう。

「なにそれっ、ひきょうっ、…――ちょっとかっこういいんですけどー!」

「なにをいってるんだ、おまえ」

その篠原守を後から藤沢紀志がはたく。

「何してるんだ?こっちへ来い。おまえのシールドで護られている半円の中で、対物理的に何が必要か検討する」

「えええっ、ふっちゃん、ぼくは真面目にこの黒城さんと親睦をですね?」

襟首をつかまれてひっぱられていく、悲愴な表情の篠原守を黒城が見送る。

「ふむ、…にぎやかで面白い少年だ」

ひょろりとした篠原守と、鉄面皮の美少女藤沢紀志。

二人のコンビを見送り、それから。

 天を仰ぐ。

「まったくな、…」

透明な半円は厳かな光を地に降らせている。それはみえないが、この効果で地上の争いなどは一時的に止んでしまうだろう。

 浄化の光が満ちている。

この能力の持ち主が、過去にいたら?それは、つい考えてしまうことではあるが。

 いま、この刻であるからこそ、生まれているといえるのかもしれないと。

 ――確かに、この力の持ち主がいれば、応仁の乱は起きなかっただろうな、…。

 微苦笑を零して天を仰ぐ。

 古の京を護る祈祷は幾重にも幾多の僧を動員して行なわれてきたものだが。

 それも、あの戦を起こさずに治める力は持たなかった。

 だが、この力であれば。

 

 ―――大日如来の力をいとも簡単に引き出し守護の円として。

 いくらも力を消耗さえしていない、とは。


 これは、恐ろしいほどの力だな、と。

 そして、本当にこの守護の力の持ち主が、坊主にならずに医者を目指しているというのは。

「もったいないな?」

 苦笑して、視線を騒いでいる高校生に戻す。

 騒がしい高校生篠原守と冷静な高校生、藤沢紀志。

 そして、美貌の鷹城に、難しい顔をして地図を示している刑事の関。

 かれらのおかげで、どうやら無事に、本多由樹乃のリクエストには応えられそうだ、と。

 そう微笑んで佇む黒城海将補がいるのだった。



 デート準備はつつがなく。

 そして、何ものにも邪魔されず浜辺を歩くことができそうである。―――








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