約束の夏 14 夢
あの方に、お逢いしたのは一族の約定をはたす為でございました
ほんとうに、それだけ
そのはずだったのでございます
―――だあれ?だれ、だろう、…
しろいくもに、浮かぶみたいに
あ、そうか。ねむってるんだ、わたし
いつも、みていました
勝手ながら、当代のみこどのを、―――うつらうつらとねむりながら、
たのしく、…―――わたくしにはできぬことを、なさっておられる
いつから、ご一緒させていただいておりましたものか、
わたくしにもわかりませんのですけれど
――ううん?とうだいって、だれ?
ま、いいか…ゆめ?
ゆめだよね?
はい、これはゆめでございます
わたくしにとり、あなたさまのことをちかくに拝見させていただいておりましたのは、それはとても、たのしく得難い体験でございました
―――ふうん?いつもいっしょにいたの?
はい、そなたさまが、生まれられましてから、おそらく
わたくしも、ねむりながらでございますので、あまりはっきりとはしないのですけれど
わたくしは、病に伏せがちでございましたゆえ、そなたのように思い切り駆けたり、そんないろいろなことが、ほんとうに拝見していてとてもたのしゅうございました
―――うん、たのしかったんだ?ならいいか。
それで、あなたはだれ?
失礼いたしました。あなたのあかごのころより、こうしておらせていただきましたゆえ、かってに名乗っておりましたような気がしておりました
わたくしのなは―――さきのみこでございます
――さきのみこさん?あ、ちがうか、…。
先のみこ、…巫女さん?
はい、あなたの前の時代の巫女となります
あの御方にお仕えする為に、選ばれてお仕えし、―――
これまで御守りさせていただいておりました
――わたし?わたしのまえのひと???
さようでございます、当代の巫女どの
―――みこなんだ、わたし?
はい、まだ御自覚がないようではございますけれど
そっと、微笑むような声のあたたかな気配がとってもやさしい、とおもった。
その声の
――うん、自覚は、ない!
はい、そのようでございますね。
すこし、鈴のように微笑う声が聞こえた気がした
とても澄んで温かくきれいな声
とても、その声があたたかった。なぜだろう?
いつも見守ってくれているような
わたくしは、あなたにおねがいがあってまいりました
こうして、ゆめでお話させていただくのははじめてとなるのですけれど
―――うん?なに?
はい、―――あの御方を、御守りいただきたいと願いにまいりました
―――あの御方?…――くろき、さん?
なんでだろう?このひとがいうのが、くろきさんだって、わかるのは?
あの御方は、永い刻を此の世を護り続けてこられました
唯御一人、―――御守りいただきたいのです
貴女は当代の巫女、あの御方が唯一人、傷付き血を流されるのを
――ああ、あれはとっても腹が立った!だってね?傷なんてついたら痛いでしょう?だのに、平気そうな顔をして!ひとりで全然平気みたいに!
くすくす、微笑う声が
はい、さようでございますね、…あの御方のわるい処でございます
御味方はおられても、御自身ですべて背負おうとなされる
それが役目とおもっておいででございます
―――そーいうのはさ?えらいかもしれなけど!
ひとりじゃだめだよ!ぜったい!
わたしが怒っているのに、声が微笑む気配がして
さようでございます、ですから、―――当代の巫女どの
あの御方を、御守りください。
お願いいたします
―――別に、お願いされなくても
そうですか?
――うん、…わたしは普通の女子高生だし、なんにも取柄なんかないし、家族はスパダリみたいな剣士の姉に、聖女の妹と、―――母さんまで勇者だなんて、…。
とうさんと一緒に、わたしは人類最弱だけどさ?
はい、―――?
わたしのいうことに、すこしくびをかしげるような気配がして。
それから
よろしくお願いいたします、―――
あの御方を、御守りください。
とても綺麗で静かな声がした
そっと花がほころぶように、しずかにとても綺麗に微笑む気配がつたわってきた
儚げな花の咲く、白くやわらかなけはいの
それは、なんだか朝に清らかに咲き初めて、
何故か宵にはもう儚くなっていそうで――――
なぜだか、すごくかなしくなった
ああ、もう此処にはいない、と。
白い雲みたいな、ゆったりした霧みたいななにかにつつまれて、そうおもった。
このゆめは、…――――
多分、わすれちゃいけない夢だ、と。そうおもった。
儚げな白い花のようなひとが、だれかをみあげている。
そのひとは、床についていて、―――。
誰かが、その手を押し頂いて。
まるで、なにか誓うみたいにして額をつける。
そのひとがだれなのか。
黒髪だけがみえて、苦しいように誓うひとがだれなのかは。
きいていないけど、わかった。
…―――ああ、ゆめがおわる、――――
そうか、とおもった。
あのとき、声が出ないわたしのかわりにさけんでくれたのは、彼女だと。
先の巫女がたすけてくれたんだ、とわかった、――――
白い霧に、溶けていくみたいに
朝がきて、わたしは目を醒ました。
そして、なぜか。
かのじょが、いわかなった記憶が、…―――。
ああ、そうか、とおもう。
浜辺で、わたしは姉と両親と歩いていて。
まだ妹が生まれる前で。
なぜか、とてもかなしかったことを思い出した。
…あれが、彼女の記憶だと、…――――。
夢、と。
浜辺をあるく、かのじょのゆめ。
わたしが急に泣き出して、父があわてていたのを思い出す。
―――歩きたい、と。ねがった…。
たったそれだけの、叶わなかった、ゆめ。
白い砂浜を、海の側を。
あの御方と、あるいてみたい、――――。
「約束を、しよう、―――」
ともに歩こう、と。
その声が、彼女の手を取り真っ直ぐに見つめて。
――行こう、と。
しずかに、穏やかな声で。
ともにあるこう、と。
歩こうと、約束の夏を。
その約束は――――。




