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「…………ふざけた強さですね。ここにきて、こちらに手心まで与える余裕があるとは」
「生憎だが、拙者には人体科と揉める道理がない」
妖刀を納めたシュラは、そこで第一戦の決着を告げる合図に視線を向けた。
(薄々思っていたが、祭りにしては些か盛り上がりに欠いているな)
対してレゾルテアは斬られた銃身を拾い上げると、互いに怪我一つないことへ皮肉を並べる。
「その気になれば斬ることも容易にできたはずです。なにより、このまま放置すれば目標に危険が及びますよ?」
「それはないな」
「何故?」
納得がいかないのか、あるいは無傷だからこそなのか。
撤収の指示を無視したまm、レゾルテアはシュラに食い下がった。
「…………簡単な理由だ。前提として、貴殿らの隠密行動能力はここ魔法学校でも通用するほどに高い水準にある。そのつもりになれば、敷地に仕掛けられた魔方陣の詳細まで調べられるだろう」
億劫そうに喋るシュラは、訝しそうにこちらを見つめるサレンの姿を視界の端に捉えると。
「そんな貴殿らが、敢えて学科対抗戦を利用するという目立つ方法を選ぶ意味がない。チョコ殿は合法的に攻撃できるからと語っていたが、そんな良識に付き合う理由がないからな」
「…………」
「加えて、サレン殿が単独で歩いている間、貴殿らが行動を起こすことはなかった。つまりは、貴殿らの標的は別にいると考えるのが自然だ」
これ以上は話すつもりはないと、シュラは言い終えるより先に踵を返す。
「『山桜』が動きました」
ピタリ、と。
その足が、文字通り石のように固まり止まる。
「こちらとしても、学科対抗戦で精霊科の生徒と戦え、という追加の命令が下され困っていたところでしたので。意図を汲み、無傷で終わらせていただいた御礼だと思ってください」
そう告げてから、レゾルテアは深々と頭を下げ舞台裏へと姿を消していく。
残されたシュラは一度息を吐くと、再び歩き出し精霊科の客席へと跳んで戻った。
「おつかれ。最後、なに話してたわけ?」
「…………大したことではない。最後の一撃を、どう勘づいたのかと問われただけだ」
「私、全然見れてなかったんですけど、シュラさんの相手って軍人さんなんですか?あれって、魔法防衛局の軍服ですよね?」
「それは…………チョコ殿に聞いてくれ」
「こらシュラ、急に話すのを面倒くさがらないでくれる?むしろアタシも聞きたいんだけど」
「ま、まぁ、凄い戦いでしたから。疲れるのは当然だと思いますよ?」
「ライネ甘いわね。シュラのこれは単なる気紛れ。どうせそんな疲れてないわよ」
「…………ぐてー」
「シュラさん、口で表現しても説得力ないですよ。傷一つないし」
勝利したシュラを労うよう盛り上がる中、一人離れた位置にいるホムラは思案の内側にいた。
(さっきの言葉。聞き間違いじゃなければ、間違いなく『ヤマザクラ』って言ってた。確かサクラ、はシュラの故郷に咲く樹木の花で、八大名家の中にも桜を肖る家があるのは聞いてる)
龍の血を継いでいるホムラは、その五感を自発的に操作し強化することができる。
故に先ほど舞台でしていた会話の内容も、ホムラは冒頭の僅かな部分を除き完璧に聞き取れていた。
とはいえ、ホムラは他人に興味がない。
仮にあるのは、シュラがレゾルテアから聞いた内容を、今ここで明かさないことだけ。
(因縁か、故郷を離れた原因か。ライネが時々話してたから知ってるだけで、わたしもこれ以上のことは知らないけど)
どちらにしても、今ここで考えたとて分かるわけのない話である。
ホムラは一人であれこれ考える方ではあるが、だからといって特別好んでいるわけでもない。
(サレンが狙われてない。こっちのほうが意味があったかもね)
そこで思考を打ち切り、ホムラは何も言わず観客席から飛び降りた。
数メートルの高さはあるそれを、ホムラは小さな階段を一つ下るくらいの気軽さで楽々と降りてしまう。
ただし、シュラもサレンも似たことを難なくやっているので、他の魔法使いは正規の通路を使っていることにホムラは気づいていない。
「お前が次の相手か」
対戦相手は先に着いていた。
とは言ったものの数秒程度の差でしかなく、少なくともホムラが客席から飛び降りる前には確実にいなかった人物である。
その人物、浅黒い肌の恰幅のいい男はホムラを見下ろすと。
「降参しろ。そうすれば悪いようにはしない」
「…………は?」
意味が分からない。
少なくともホムラはそのつもりで返事をしたが、相手は聞きそびれたと思い込んだのか流暢に言葉を並べ始めた。
「レゾルテアが負けたのは想定外だったが、元より部外者の素人。魔法戦において遅れを取るのは仕方のないことではある」
「…………」
「だが、この俺は違う。俺はバッディーノ家の長男にして、古今東西あらゆる魔法を習得した生粋の魔法使い。加えて、魔法防衛局への入局を前提とした訓練を積んでいる。貴様の魔法、あの炎は確かに脅威だが、手も足も出ないほどではない」
まるで流れるように出てくる言葉を前に、ホムラは即座に勘づいた。
(どこの組織が出てきたのか知らないけど、『鵂』と同じものを探してる?)
この男は、単なる捨て石だ。
魔法使いとしての練度も低く、軍人としても半人前もいいところ。
相手の力量を正確に測ることすらできない、ただ無知なだけの雑魚。
(レゾルテアを招いた以上は、少なくとも三人以上は刺客がいたはず。それを出してこないってことは、さっきシュラに話してた言葉は本当だったってことか)
バッディーノ家の魔法使いは止まることなく吹聴していたが、ホムラの意識は完全に別の方向へと向いていた。
(…………あぁ、めんどくさい。こんなことになるならライネに付き合わなければよかったかも)
中途半端に首を突っ込んだせいで、薄っすらと思惑と動向が見えている今。
それら全てを避け続けてきたホムラは、うんざりした様子で青空を見上げるのだった。




