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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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 レゾルテアの兵科は狙撃手。

 一般人が想像するような、単独で隠密行動をするものではなく、部隊に属し仲間を援護する狙撃兵である。


 若く学生に見える容姿だが、その実年齢は三十を折り返しており。

 南部戦線や北部紛争区域において、数多の功績を挙げている。


(…………さて。ここまでは想定内と見るべきでしょうが)


 そのため、彼の扱う狙撃銃は遠距離ではなく中距離を想定したもの。

 有効射程は三百メートルほどで、連射性能と整備の容易さを伸ばした特注品である。


(先の攻撃で傷一つ負わせられないのは、流石に想定外でしたね)


 銃火器は、その扱いやすさに反して故障が多い。

 それは魔法による強化や改善があっても、道具そのものが備えてしまった先天的な欠陥である。

 故にレゾルテアは、もう一丁組み立てられるだけの予備のパーツを携帯し、万が一の際にはすぐに交換できるようにしている。


(こちらの弾丸が十二発のマガジンが四つに、小型の拳銃が一丁。こちらはマガジンがありませんので、可能ならば使用は避けたいところですが)


 必要のないリロード、ボルトアクション式の外見、腰に下げたサーベル。

 これら全ては、相手に考慮させる要素を増やすためにある。


(剣術では明確に相手が上。加えて、不意をついた連射でさえ弾く角度を間違えないのを見るに、直撃させるには相手の想定を上回る必要がありますね)


 レゾルテアには、魔法の技術はない。

 

 身体能力の強化は軍服に施された魔方陣で行い、銃火器での攻撃は全て武器の機構と技量で成立させているだけで。

 シュラの困惑と躊躇いもまた、治安維持部隊としての技術の一つでしかない。


(こちらにある奥の手を、どのタイミングで切るか。判断に困りますね)


 それでも、魔法学校に潜入している以上は、そこに適した装備は用意されている。

 ここまで使ってこなかったのは、全ての盤面で効果的に機能するわけではないため。

 

 だからこそ、レゾルテアは推し測っていた。

 遅すぎても効果を損ねる奥の手を、いつどのタイミングで使うのかを。


 そしてそれは、シュラも同じく考えていた。


(動かない、か。想像するに、連射数は八よりも上。それみよがしな装填と排莢は、こちらの認識を誤認させるためと見るべきだろう)


 単なる人体科の生徒ならば、まず想定せずに済む可能性。

 レゾルテアのやっているそれは、相応の実力がある相手を単独で倒すための工夫である。


 必然的に、シュラは警戒心を更に上げる必要があった。

 これができる人間が、いいところの家で生まれ育てられた御曹司なわけがない。

 偽名を使い強者を騙っている可能性は、ここまでで見せられた技術を見れば疑う余地もない。


(以前、チョコ殿に言われたな。魔法使いとの戦いは、いかに相手の切り札を予見できるかにあると)


 いわゆる、奥の手。

 

 たった数回の攻防で枯れるほど、お互いに持ち合わせている手札は少なくない。

 

 ましてシュラの場合、その一点においては絶対の自信があった。


(…………皮肉なものだな。よりにもよって、これに寄り掛かることになるとは)


 ただしそれは、本人からすれば決して歓迎できない自信だったのだが。

 少なくとも、レゾルテアを倒すという点においては有効なのは事実。


「───────さて」


 向けられた銃口は沈黙を保ち、靴底の擦れる音だけが会場に聞こえる。

 

 緊張と、静寂。

 観戦する魔法使いたちは、普段の研究ですら意識していない唾の音さえ煩く思うほど。


 濃密すぎる殺気の競り合いは、シュラがレゾルテアの周りを半周する手前で一気に解き放たれた。


 すなわち、シュラが一気に接近を試みたのである。


(…………速い)


 先ほどよりも素早く、そのうえで躊躇がない。

 こちらの動作を盗まれたと錯覚するほど、シュラの初動はレゾルテアの注意を掻い潜っていた。


「ですが、やや遠い」


 しかし、それはレゾルテアの迎撃網を全て掻い潜るほどではなかった。


 一射にて十発。

 シュラが難なく妖刀で弾いた時には、既にレゾルテアは再装填を終えていた。


「元々、早打ちには自信がありますので」


 まさに電光石火の早業である。

  

 レゾルテアの銃火器は連射するために改造されているが、排莢の機構だけはボルトアクション式を採用していた。

 つまりは排莢を行うには、レバーを動かすという物理的な動作が必要になる。


 無論、全てを自動で行う銃火器は魔法防衛局の中にも存在する。

 だがレゾルテアは、敢えてそれを扱うことはしなかった。

 外見での誤認を狙う目的以上に、彼は一連の動作に絶対の自信があったからだ。


「で、あろうな」


 しかし、それはシュラとて同じこと。

 彼も彼で、レゾルテアと同様に絶対の自信を持つ技術があった。


 尤も、それを技術と呼んでいいのかは個人の判断によるものだったが。


「っ、!?」

「元より、単発式の銃火器を愛用しているのだ。それくらいはできると想像がつく」


 思わず怯んだのは、レゾルテアへ目掛けて飛来する物体があったから。

 

 それは、レゾルテアが投げ捨てた空のマガジン。


「だが、悪いな」


 シュラがやったことは単純明快。

 落ちているマガジンを、鞘で打ち放っただけ。


 さながらゴルフボールのように飛翔するそれは、直撃すれば致命的な隙になることは確かであり。

 少なくともレゾルテアは、シュラがそれを利用するという可能性を完全に失念していた。


(───────ここだ!)


 故に、レゾルテアは防御と回避を放棄する。


 奥の手。

 追い詰められた今だからこそ、選んだのは相打ち上等にしか思えない特攻。


「『鉄よ、翻れ』!」


 妖刀の間合いだ。 

 手元にサーベルがないはずの相手は、あろうことか詠唱と共に引き金を引いた。


 距離は二メートルほど。

 近いが当然、シュラは弾く。

 

「…………」


 一瞬の沈黙。

 放たれた三発の弾丸は、定めらた通りに対象へと直撃した。


「……………………なっ!?」

「悪いが」


 直撃したのは、シュラの妖刀と、その鞘だった。


「それくらいであれば、拙者には当たらない」


 銃火器から放たれた弾丸は、まるで鏡に反射するように、空中で軌道を変えたのだ。


 レゾルテアの奥の手は、一定距離で垂直に軌道変更する弾丸。

 本来の用途は回避した相手の、無防備な背中に叩きこむための代物。

 

 そしてそれは、弾かれた場合でも問題なく発動し。

 あろうことか、シュラは視線すら向けず完璧に対処してみせた。


「…………な、ぜ?」


 奥の手が防がれた、ことだけでなく。

 銃火器の銃身さえ切断されていることに、思わず驚愕の声が漏れたのだ。


「そう難しくない」


 対して、シュラは告げる。


「防げたのは、単なる勘だ」


 言い終えるより早く。

 首にかけていたネックレスの魔石が、一筋の傷により粉々に砕けるのだった。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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