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人体科は、クライドラ王国の軍部が主導し生まれた魔法組織である。
行動目標は魔法を軍事利用すること。
つまりは、戦闘の手段の一つとして魔法を習得する組織、と表現すれば理解は早い。
彼らの多くは魔法防衛局に属する一族が殆どだ。
稀に素養を見込まれ入学の許可を得られる者もいるが、その大半は魔法防衛局が保有する魔法教育機関で学習を終えてしまう。
彼らにとっては重要度の低い魔法を、敢えて魔法体系の総本山で学ぶこと。
それは勤勉だからではなく、主に政治的な思惑が絡んでくる。
良くも悪くも、魔法学校は閉鎖的な環境下にある。
表向きは生徒の安全のために外敵を遮断する結界が張られ、強引に入り込んだとしても即座に索敵魔法が発動する仕組みになっている。
加えて魔法使いたちは、徒党を組めば大勢を殺害できるだけの力を持っている。
便利で万能に映るそれは、使い方を変えれば簡単に凶器に変貌する。
つまり魔法使いとは、国益を齎すと同時に危険因子でもあるのだ。
「シュラ、何してたのよ?もう第三試合が終わったわよ」
魔法組合抗争仲裁委員会、通称『鵂』は魔法教会と呼ばれる組織から派遣された監視組織であるのに対し。
人体科とは、クライドラ王国の一組織が設立した監視集団だといえる。
「次の相手は人体科か」
「なんだ、もう知ってたのね。誰かが話してるでも聞いたわけ?」
「奴らは、サレン殿を殺すつもりでいる」
気軽な調子で話しかけるチョコへ、シュラは静かにそう口にした。
場所は精霊科の観客席。
そこには偶然サレンがいなかったことが、シュラの言葉に繋がった。
「手段は分からないが、奴らは外部から専門家を雇い入れ、この試合に投入するつもりだ。しかもその備えは昨日今日ではない」
「元々、適当な場所で始めるつもりだったんでしょ」
シュラの言葉にホムラが心底くだらなそうに言うと。
「わたしら精霊科は学科対抗戦には参加しない。理由はなんであれ、参加人数を集められない程度に結束力がないことを証明してる。だったら、学科対抗戦で盛り上がってる間に、一人でいるところを急襲しようと思ってたんじゃないの?」
具体的かつ、的確な指摘だった。
少なくとも精霊科に全体での結束力はないし、こうして五人も集まってること自体が初めてに近い。
とりわけ険悪な関係ではないが、それでも他者を助ける目的で力を合わせるなんてことは絶対にしない。
「逆によかったのかもね」
「なんで?」
チョコの呟きに、ホムラがそう尋ねる。
「アタシは常に検索魔法を発動させて学校内のあらゆる情報を拾ってる。でも、そこにそんな情報が一つも出てこなかったわ。つまりは、連中にとってもアタシらの参戦は予定調和じゃないのよ」
「…………計画を前倒しにしたのか」
「ホムラの言ってた学科対抗戦の間に急襲する計画が、本当にあったかは分からないわ。でも、連中はそれを辞めて、学科対抗戦に参加して合法的にサレンを狙うことに切り替えた」
今回だけはインキュリア王国での一件で、チョコが疲弊し魔法を解除したのも大きい。
もし仮に発動させたまま、情報を掻い潜ったとすれば、この議論は根底からひっくり返ってしまう。
逆に言えば、解除した後で計画を立てたと判断さえすれば、そこで長々と議論する必要はなくなる。
今、重要なのは人体科との学科対抗戦であって、いつどこで計画が企てられたのか、ではない。
「どうするの?」
「一戦目は拙者が出る。どのみち、向こうの狙いが分からん以上は、地質科ですら共犯者である可能性は捨てきれない」
学科対抗戦は毎年交代制で一つの学科が進行を行う。
今年の担当は地質科なので、学科対抗戦には運営として関わっている形だ。
「自然派でも地質科は中立的な立場だ。ありえないとは思うが、念には念を入れておきたい」
「いいんじゃない?だったら、二戦目はわたしが出るわ」
ホムラは納得した様子で一つ頷き、軽く頭を揺らした
そして包んだ布から妖刀を取り出したシュラは、チョコに視線を向けこう提案した。
「人体科との魔法戦の間だけで構わない。会場全体に魔法による探知を仕掛けることは可能か?」
「もうやってるわ。万全じゃないから長続きはしないけど、サレンが今無事なのは確認済。トイレが激混みで暫くはかかりそうね」
どうでもいい情報にシュラは小さく笑い、そしてライネへと視線を映した。
「場合によっては、ライネ殿に戦ってもらうことになる。ただ…………」
「だ、大丈夫です!」
上ずった声にライネ自身が顔を赤くしつつも、チラリと横にいるホムラを見てから。
「ウチは、最初からそのつもりだったので。ホムラちゃんが嫌がってるのは分かってますけど、それでもウチも精霊科の一人ですから」
胸元に縫われた精霊科のシンボルがキラリと光り、ライネは力強く両の拳を握った。
「大丈夫です。ウチ、これでも強いですから」
「承知した。ホムラ殿もそれで構わないな?」
「…………なんでわたしに許可を取るのか理解できないけど。ライネがそういうなら何もないわよ」
どこか突き放すように言い方にライネは少しだけ慌てるが、それが本心じゃないのは全員が分かることだった。
そして見計らったかのように試合開始の合図がなり、精霊科と人体科の出場選手の招集が始まる。
「サレン殿は?」
「まだトイレね。列けっこう長いし、しばらくは来ないんじゃない?」
「言伝は任せる」
「了解。ちゃちゃっと勝ってきなさいよ」
相手は人体科。
魔法戦に限らず、あらゆる戦闘に精通したプロである。
それを相手にするとは微塵も思えない、余りに緩み切った口調にシュラは口元を緩めると。
「無論だ。ゆるりと待っていてくれ」
降り立ったシュラは一足飛びで舞台へと上がり。
薄青髪の青年、レゾルテアの前で足を止めるのだった。




