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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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 そこから一回戦は、特に大きく荒れることなく順当に進行した。


 二戦目。

 基礎科と呪詛科の対戦は、基礎科が勝利。


 三戦目。

 応用科と歴史科の対戦は、歴史科が勝利。


 四戦目。

 造形科と人体科の対戦は、人体科が勝利。


 一試合あたり五分もかからず、しかもほぼ全ての対戦が三戦全勝だったのもあり。


「これ、中断しなかったら半日で終わってたわね」


 半分くらい呆れが混じったチョコの感想に、サレンだけでなく全員が同じことを思ったころ。


「それで、残ったのはどこ?」

「植物科と文学科。ま、ここは普通に考えて植物科でしょうね」

「なんで?」


 植物科、という単語を聞いたサレンは、ドキリと心臓が脈打つのを感じる。


「今の植物科の『導師』はどちらかというと実戦派。この手の模擬戦だと、確か中央でもそこそこの勝率を叩き出してるのよ」

「一つ問うが、文学科は戦えるのか?」


 シュラの問いにサレンは内心で同意しつつ、チョコの返答をジッと待った。

 するとチョコは、少しだけ間を置くと。


「戦える、はずよ」

「曖昧ね」

「仕方ないでしょ。文学科は元は人体科と同じ魔法防衛局の管轄だったけど、今じゃ王政側に強く偏った組織よ?はっきり言って、この学科ほど得体が知れない学科はないのよ」

「それに…………ウチらが知ってる文学科の人、クアムさま、くらいですからね」


 サレンは一度しか会ったことがなく。

 否定するまでもなく、ライネの言い分は全く以てその通りである。


「あの人は例外っていうか、あれは文学科の基準とは違うと思うんだけど」


 そこでふと、会場の歓声が一気に跳ね上がる。


「なに?そんな騒ぐほどの人が出てきたわけ?」


 驚くホムラに、チョコは感心した様子で口笛を吹き。

 サレンはただ、目を見開き言葉が出ずにいた。


「シルフィ・アルクメネ。今年の新入生のなかで唯一の『原典』保有者にして、植物科では歴代最速で学士授与が予定されている天才。恐らくだけど、この学校で最も有名な生徒の一人ね」


 緋色の髪に、気品さの溢れる佇まい。

 ただそこにいるだけで、まるで一輪の花を連想させるほどに美しい姿。


 それを見たサレンは、これまでずっと感じていた悩みが余りにも馬鹿らしく思えた。

 

(なんだ。私、ただ会えなくて寂しかっただけじゃん)


 そして同時に、シルフィが持ち合わせている魔力の質と量を初めて理解する。


「…………強いな」

「『原典』は保有しているだけで学士は楽勝。席すら狙えるだけの特大の才能だもの。本来なら、分校にいちゃいけないくらい凄い代物なのよ」


 納得した様子で頷くシュラと、やや早口でシルフィの凄さを語るチョコ。

 どちらも尊敬できる先輩だからこそ、サレンは二人の賞賛が自分のことのように嬉しかった。


「サレンさ…………ちゃん。なんだか嬉しそう」


 ライネにそう言われ、サレンは思わず頬を赤く染めると。


「そりゃ、嬉しいよ。だってシルフィは、私の一番の親友だからね」

「よく考えたら、サレンとシルフィは同じ分校出身なのよね」

「チョコ先輩にはいなかったの?私とシルフィみたいな人とか?」

「…………残念だけど、アタシはそういうのは無縁だったわ」


 一瞬、チョコの雰囲気が変わったことに驚き、サレンは己の発言が失敗だったかと勘繰ってしまう。

 ホムラはその様子を見て一つ息を吐き、そして視線を舞台へと向ける。


「ホムラちゃん?」


 時間にしても数秒程度だったはずだ。

 それでもライネは気づき、咄嗟にホムラは適当にはぐらかす。


「始まるわよ」


 チョコの言葉のあと、開始の音が会場に響いた。


「『綻べ、赤薔薇』」


 一瞬だった。


 文字通り、会場にいる誰かが合図と同時に瞬きをし、それを終えた直後。

 時間にしても、一秒にも満たない刹那の瞬間。


「……………………え?」


 舞台の上に、無数の赤薔薇が咲き誇った。

 それは鮮やかすぎる赤色で、埋め尽くす光景はどこかグロテスクにすら見えた。


「終わり、ね」


 遅れるようにして終了の音が鳴り響き、空中にシルフィの勝利を知らせる文字が描かれる。


 まさに、あっという間の出来事。

 一方的過ぎる結末に、沸いていた観客たちも一斉に押し黙ったままだった。


「ま、これぐらいはできるでしょうね」

「…………そう、なの?」


 あまりに圧巻すぎるせいか、あるいはこんなシルフィを見たことがなかったから。

 開いた口が閉まらないまま、サレンはチョコにそう尋ねてしまう。


「相手は文学科の三回生。全体で見れば中の上くらいの魔法使いだもの。はっきり言って、『原典』相手によーいドンで勝負するほうが悪いわ」

「念のため聞くけど、シルフィはまだ学士を持ってないんだよね?」

「時間の問題なだけよ。相性だけならホムラは得意だろうけど、アンタでも真正面から戦ったら勝てるか分からないわよね?」

「…………」


 ホムラは肯定することはしなかったが、それでも否定することもしなかった。


 つまりは、彼女とて明言できないくらいにシルフィは強いのだ。

 サレンでは、もはや何がどうなっているのか分かっていないほどに。


(あれこれ考えてたけど、やっぱり大きくは間違ってなかった感じ?)


 本当に魔法のことを何も知らなかったんだなぁと、サレンはしみじみとそう思うのだが。


(…………今のを見て平然としてる時点で、サレンも十分にそっち側だけどね)


 チョコは能天気に物思いに耽るサレンの横顔を眺めつつ、掌で二の腕をそっと撫でた。


(今の魔法、肌が逆立つほど敵意が剥き出しだった。あれは相手を制圧するためとか、威圧して怯ませるとか。そんな目先の理由じゃない。もっと広く、それこそ会場全体に向けての意思表示に近い)


 咄嗟に防御魔法を取った者は多くいたはずだ。

 だがそれは、シルフィという魔法使いが魔法を発動させた、あと。

 

 彼女の魔力隆起を探知できず、続けて放たれた意思に反応できたから発動しただけの、余りにも手遅れな作業だった。


(誰が相手だろうと、容赦はするつもりはない。その相手が気になるところだけど、今のアタシじゃ目をつけられたら即死しかねないし…………)


 チョコの感じ取った印象は正しかったのか、シュラは妖刀に手をかざし、ホムラは僅かに焔を体表に帯びている。

 ライネは気づいていない様子だったが、彼女の場合は気づかないことが正解だったりする。


 つまりは、先ほどの魔力隆起に全く気付いていないのは、精霊科の中ではサレンだけ。


(この学校で最も有名な生徒の一人。そこにはサレンも含まれてるってこと、果たして気づいてるのかしらね…………)


 なにやらウンウン唸っているが、どう見ても先ほどの意思表示ではないのは確かだろう。

 ある意味で頼もしい後輩の姿に、チョコはフッと小さく笑うのだった。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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