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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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「こちら側、ですか?」


 天体科第一席。

 

 シルフィはその顔に覚えはなかったが、しかしその肩書を聞けば相手が誰なのかは容易に理解できる。


「そう警戒しないでほしいかな。僕としても、君と事を構えるつもりはないからね」


 不思議な人物だと、シルフィは率直に思う。

 柔和な笑みと人当たりの良さそうな口調は、完璧であるが故に違和感を覚え。

 どういうわけか、シルフィの脳内に不信と警告が並び消えない。


「今はまだ、君には用事はないんだ。今日ここに来たのは、別の理由があってのことでね。君への挨拶はそのついで、というわけなんだ」

「…………」

「やはり、何を語っても意味がないか。予め分かっていたことではあるけれど、いざ実感すると少しばかり堪えるね」


 ユダは小さく肩を竦め、そして視線をシルフィから外した。


「わざわざ駆け付けるなんて。よほど僕は嫌われているみたいだね」

「そうね。その自覚があることだけは嬉しく思うわ」


 振り向いた先にいた人物に、シルフィは見覚えがあった。


「…………精霊科の?」

「ホムラ・ドラグニル。本物の龍に育てられた、今の魔法からは逸脱した存在の一つさ」

「その、ドラグニルってのは辞めてくれる?そういうのは必要ないから」


 強い視線で睨むホムラへ、ユダは口調を変えずこう返す。


「例え君がそう思っていたとしても、周囲の評判はそうはならない。人間の世界に生きるっていうことは、少なからず評価という枠組みに囚われることを意味するからね」

「どうでもいいわ。わたしは、その名で呼ぶなって言っただけ」

「僕は構わないが、周囲はそうではないというだけの話さ。近いうち、君の名は世間に大きく知られることになるからね」

「どういう意味?」


 意味深な態度に痺れを切らしたのか、体表に熱を帯びながらホムラは問う。


「難しい話ではないよ。そうなるだろうと、僕が確信しているだけだからね」


 途端、跳ね上がるような歓声が三人の足元を等しく揺らした。


 シルフィが咄嗟に視線を会場へ向ける隙に、ユダは音もなく姿を消しており。


「…………気に食わない奴ね。ほんとに」


 ホムラもまた、逃げられた事実に対し苛立ちを込めてそう呟き立ち去ろうとする。


「あ、あのっ!」


 こんな機会、二度とない。

 シルフィはそう決意すると、背中を向けたホムラを大声で呼び止める。


「私、植物科一回生のシルフィ・アルクメネといいます。その、精霊科のホムラ様、ですよね?サレンちゃんと同じ…………」

「あぁ、あなたが噂の『原典』か。道理でユダが興味を持つわけだわ」


 ホムラの中で気になることがあったのか、どこか理解した様子でそう呟くと。


「諦めることね。この国で偉くなるってことは、未来永劫あいつと付き合っていくことだから」

「…………ホムラ様は、その、どうしてこちらに?」

「別に、たまたまよ」


 最初から本当のことを伝えるつもりがないのか、ホムラの口調は先ほどとは別人だった。

 どこか空を掴むように、放った言葉にも受け取った言葉にも熱量がない。


「お礼はいいわ。それじゃね」

「サレンちゃん、どうですか?」

「知らないわ。わたし、彼女とは殆ど話をしてないから」

「インキュリア王国に向かったのは本当なんですか?」

「さぁ。本人に聞いたら?友達なんでしょ?」

「ホムラ様は違うのですか?」

「そうね。違うわ」


 会話が続かない。

 むしろ今、言葉の応酬を維持するので精いっぱいだった。


(このままだと、サレンちゃんのこと何も知れない…………それだけは…………!)


 シルフィにとって、精霊科の人と話をする機会なんて滅多にない。

 まして二人きりで、少なくともサレンを知っている人と会うなんて、これから先あるとは思えない。


 シルフィはきっかけが欲しくて焦っていた。

 このままいけば、サレンと交わる道は完全に途絶えると思ったから。


「そんなに会いたいのなら、直接会いにいけばいいんじゃないの?」

  

 だからこそ。


 ホムラの何気なく告げた一言が、シルフィにとっては致命的に重すぎるものだった。


「植物科は精霊科と関与することを禁じてるのは知ってるけど、あなたが本気ならそれくらいは破れる立場にいるんじゃないの?なにしろ、植物科のなかでは最も早く、魔法統括局から学士授与が予定されてる天才なんでしょ?」


 期待の新人。

 将来が待望されている魔法使い。


 鳴り物入りで入学したシルフィは、同期の生徒らの中でも一番早く。

 恐らく席を狙えるほどの期待を込められ、その出世コースの先頭を走っている。


「わたしは興味ないけど、サレンはそれがほしいみたい。だとしたら、あなたほど手本に適してる人っていないと思うけど」

「…………それは」

「精霊科と関わることを上級生に禁じられてる。それ、よくあることだから一々気にしないでいいと思うけどね」


 シルフィはその期待に応えたいと思っている。

 応えたうえで、よりよい結果を手に入れたいとも思っている。


 だからこそ、シルフィは本校の慣例に逆らえずにいた。

 個人の欲求のためだけにそれを破ったことで、周囲にどれだけの迷惑がかかるのか想像できないから。

 仮にそうなった際、どうすれば償えるのかシルフィは分からなかった。


「だけど、席を持ってる連中を倒せれば、それくらいは黙認してもらえる」

「…………ぇ?」

「こっから先は単なる独り言だけど、ユダは天体科の一人として学科対抗戦に参加するみたい。狙いは、精霊科のサレンと戦うこと」


 どうしてそれを知っているのかと。

 シルフィは思わず尋ねそうになり、そして伝えられている意図を瞬時に理解した。


「もしあなたがユダを倒せれば、勝ち上がった先で精霊科と対決することになる。そこできっかけを作れば、あとはどうにでもなるんじゃないの?」

「どうして、それを私に?」


 手助けするにしても、この方法は些か遠回りにシルフィは思えた。

 なにより、外見の印象と発言がなんとなく一致していない。

 あくまで勝手な感想だが、シルフィはホムラはこういうことをしないと感覚的に思えてしまった。


 すると、ホムラは僅かに色の変わった頬を隠すように舌打ちをすると。


「わたしらが勝ち上がるのに、ユダが邪魔なだけ。それ以外の理由はないわ」


 これ以上は話すことはないと言わんばかりに、早足でシルフィの前から立ち去ってしまう。

 残されたシルフィは、つかつかと歩くホムラの後ろ姿を眺めて思う。


(もしかして、こうなるのを予見して助けに来てくれた…………?)


 何一つとして分からないが、それでもシルフィにとっては利のある会話だった。

 特に、学科対抗戦で勝ち上がる理由ができた点については。


「…………頑張らないと」


 シルフィは小さく拳を握ると、はぐれてしまった先輩を探すべく場を後にする。

 その後ろ姿が建物の奥に消えるのを、ホムラは静かに眺めているのだった。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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