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「八大名家?」
「シュラの生まれは極東って呼ばれる地域で、その一帯を支配する家々を総称してそう呼ぶのよ。正式な呼び名は柳生修羅って言って、一応シュラはそこの跡取りになるみたい」
三戦目。
とりわけ何か起こることなく、軽やかな足取りで壇上へと向かうシュラを眺めながら、サレンはチョコの説明に耳を傾けていた。
「八大名家は一つの家だけで国家規模の政治力を有してて、それらが周辺一帯の治安維持と他国への牽制を目的に結成したのが八大名家の起源らしいわ」
「らしい?」
「本人がそう説明したのよ。ぶっちゃけアタシも全然詳しくないし」
「地理的な関係で、極東に関する情報は殆ど手に入らないですからね…………」
少しだけ慣れてきたのか、あるいは休憩と告げてホムラが場にいないからか。
ライネは自然な流れで会話に加わり、自らの考えを二人に伝える。
「ウチもチョコさまと同じくらいしか極東のことは知らないのですが、八大名家の殆どが一つの武芸を極めているんだそうです」
「私たちでいう魔法みたいなもの?」
サレンの問いに、ライネは曖昧な返事のあとでこう続けた。
「それが難しいところでして…………それらの家には代々継承される流派があって、幼少期からそれを叩きこまれるみたいなんです」
「ライネ、アンタなんでそんな詳しいの?」
恐らく純粋な疑問だったのだろう。
だが、ライネは少し怯えた反応を示したあと、おずおずとこう口を開いた。
「えっと、その、ウチもシュラさまのことが気になったっていうか…………あまり学士を持ったまま精霊科に来られる人は珍しいというか…………」
「ま、それは否定できないわね。ホムラでさえ学士は持ってないわけだし」
あれだけの惨劇を起こせるだけの強さを持っていながら、ホムラは一度も学士の打診を受けたことがないらしい。
ライネ曰く、本人にその気が全くないらしいのだが。
サレンからすれば、それでも学士を受け取ったライネの心境のほうが遥かに気になる。
(シュラさんの強さは理解してるけど、言ったら単純に強いだけ。魔法使いとして、どう凄いのかは正直よく分かってないし、それはライネに関してもそう)
対峙したからこそ、改めて思う。
学士に選ばれるような魔法使いは、各々が唯一と表現していい個性があった。
それは単なる魔法でしかないが、サレンからすれば精霊の力に近しいものに感じる。
(…………気にならない、なんて言ったら嘘にしかならないか)
選ばれたからには、何かしらの理由がある。
そしてそれが何なのか、サレンは心の底から興味があった。
「この話の流れで、ウチが言うのも可笑しな話なんですけど」
そんな考えを他所に、ライネはおずおずと二人にこう問いかける。
「シュラさまは、具体的にどう凄いのですか?」
聞かれてから、サレンは反射的に口を開いていた。
「…………どう?」
「あっ、えっと、ウチが調べて分かったことは、シュラさまが極東の八大名家の跡取りで。人体科に配属されたのは、極東の武芸を伝授すると同時に、クライドラ王国の武術を習うためってことでして」
「確か、チョコ先輩が王族の末裔だって言ってたよね?」
「言ったわね。まぁ厳密に言うなら、八大名家を王族って表現するのは少し間違ってるけど」
それでも極東一帯を支配しているのなら、王族という表現は間違っていないだろう。
するとチョコは、一瞬だけ周囲に視線を巡らせると。
「これは、できるならシュラには伝えないでほしいんだけど」
そう前置くと、チョコは静かにこう口にした。
「シュラは、先天的に魔力を持たないで生まれた人間なのよ」
思わず。
本当に、サレンは心の底から叫びそうになった。
「…………これはイグニアから聞いた話で、きっとペラペラ話すことじゃないと思うから。だから、ここでする話は三人だけの秘密にしてほしい」
「わ、分かりました」
ライネもまた、事の重大さを理解しているのだろう。
ただでさえ小さな声を更に小さくし、チョコの言葉をじっと待ち構える。
「シュラが人体科で学士を貰ったのは、どちらかというとシュラが携帯してる刀が理由なの」
「確か、妖刀なんだっけ?」
入学課題の折に、精霊ロアがそう尋ねていたのを思い出す。
するとチョコは一つ頷き、そしてこう続けた。
「あれは、極東地域で伝わる魔法具の一種で、呪詛科の連中が何百年かけても解呪できない呪いが込められてる。呪いってのは、いわゆる魔法的な副作用だと思ってくれて構わないわ」
「それを、シュラさんが解呪したってこと?」
「ううん、むしろその逆よ」
おもむろに会場が沸き立つ。
慌てて視線を向けると、そこには人ならざる怪獣が姿を現していた。
「なにあれ!?使い魔の一種!?」
「獣化魔法。魔獣の類を体に宿すことで、一時的に人ならざる力を扱えるようにするための魔法よ。メリットは人の思考を備えたまま、宿した獣の能力を使える点。デメリットは、程度を誤ると人格を乗っ取られる点ね」
「あ、あの…………シュラさまの話ですが」
サレンと違いライネが落ち着いているのは、ひとえに本校で過ごした年数の違いだろう。
会場が沸き立ったのは、とりわけ珍しい魔法が見られたことによる興奮ではなく。
発動された魔法が、その魔法使いにとっての切り札だと知っているだけの話。
「結論だけ言うと、シュラは魔力を持たない体で、呪われた刀を扱うことができた唯一の例なの。それは、世界中に存在する呪いを放つ魔法具を、解呪できないまま扱える可能性を秘めてることを意味してる」
なによりと、チョコはどこか口惜しそうにこう口にした。
「これがシュラ固有の魔法によるものなら、ほぼ間違いなく席を奪えるだけの功績になっていた。だけどそうじゃなく、本当に魔法では説明ができなかったから、シュラは精霊科に追放されたのよ」




