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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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 降り立ったホムラに対し、先に舞台にいた女は優雅な態度で声をかける。


「久しぶりね。その様子じゃ、精霊科でも上手くやれてないんだ」


 ウェーブのかかった紫色の長髪に、同色の瞳と片眼鏡。

 手に持つ杖には蝶の刻印と、杖の形状をなぞるような蔓が彫られている。


「サンタリア家。中央では歴史ある蝶魔法の一族ね」

「あっ、それ聞いたことある?確か源流は応用科、だったよね?」


 チョコの言葉にサレンがそう反応し、ライネが興味深そうに耳を傾ける。


「蝶の瞬きによって竜巻が起こる。元々は単なる慣用句だったそれを、魔法的に再現しようとしたのがサンタリア家よ。とはいえ、今じゃ事象よりも蝶そのものの研究が盛んなんだけど」


 バタフライ効果。

 それは些細な出来事が大きな変化を起こすという、物の例えの一つであり。

 本来なら力学的な分野に発展する代物なのだが、サンタリア家は早々にそれを放棄。


 むしろそう例えられる蝶そのものに活路を見出し、遺伝子操作に近い品種改良に力を入れることで発展。

 現代では無数の蝶を使役することで、意図的に魔力の流れを操る方向へと研究を進めてるとされている。


「やってることは呪詛科と同じ人を殺すことに先鋭化された魔法。魔法統括局じゃなくて、魔法防衛局に親族が集まってる時点で察して余りあるってわけ」


 そんな話をしているが、実際のところ相手は強敵だ。

 

 学士の四回生ともなれば、己に根ざした魔法の理解と強化は終わっている者が殆ど。

 加えてサンタリア家の人間は、幼少期から対人戦への備えを徹底していると噂される一族だ。


 必然、この手の催し事にも精通しているうえ。

 扱う魔法の性質的に、明らかに闘争向きに調整されている。


「話の感じだと、動物科の卒業生って魔法統括局に行く人が多いの?」

「多いっていうか、ほぼ全員ね」


 あっけらかんとチョコにそう言われ、サレンは思わずこう呟いていた。


「なにそれズルじゃん」

「仕方ないわよ。元々、自然派の旧組織が魔法統括局だもの。直系も直系、自然派ってだけで出世安泰コースは間違いないんだから」


 世の中は不公平である。

 

 サレンは分かり切ったことを今更思い、そしてふとライネの方を見た。


「ライネさん、落ち着いてますね」

「ひゃっ、わっ、えっと!?」

「あぁごめんなさい。なんていうか、もっと心配しそうだなって思って」


 考え無しに話を振ったからか、ライネは驚くばかりで次の言葉が出てこなかった。

 

 急に話しかけたサレンは、次から目が合ってから声をかけようと考えると。


「ホムラちゃんは、すっごく強いので。だから、誰が相手でも平気って思うだけです」

「…………チョコ先輩に聞くけど、ホムラさんってそんな強いの?私よりも?」

「強いわね」


 即答だった。


 少なくとも先ほどの圧倒劇を見せたあとだというのに、チョコの言葉に躊躇いはなかった。


「はっきり言って、精霊ありでもサレンよりホムラのが強いわ。あの子の魔法は理屈はシンプルだけど、だからこそ隙も欠点もない。アタシの知る限りじゃ、学士を含めてもホムラが一番強いんじゃないかな」


 つらつらと語るチョコの言葉に嘘はなく、過度な誇張も大袈裟な表現もなかった。

 例えるなら機械の取扱説明書を読むくらいの感覚で、ホムラの凄さを端的に説明する。


 するとライネは恥ずかしそうに頬を指先で掻くと。


「ホムラちゃんが学士にならないのは、実はウチのせいなんです。ウチはその、訳があって学士をもってはいるんですけど、それがウチの望んだものじゃないって知ってるから。だから、ホムラちゃんは遠慮してるんだと思います」

「彼女なりの哲学ってところよ。ぶっちゃけ、アタシも理解できてないわ」


 サレンは素直に、とりわけ深く考えずこう思った。


(羨ましいな。学士が欲しくないのも、取れるけど自発的に断ってるのも)


 単なる嫉妬だと指摘されれば、サレンはそうだと思い肯定したかもしれない。

 

 でも、その内側は少し違う。


(…………私には、理解できないし。したいとも思わないけど)


 感じたのは、理解できないことへの不気味さと、そこから湧いてきた懼れだった。


 サレンはライネを小柄で可愛い少女だと思い、ホムラも当たりは厳しいが学友になりたいと思った。

 それは二人とも魔法学校の生徒で、魔法を究めたいという志を共にする同類だと考えたからだ。


 でも、実際はそんなことなくて。

 サレンが喉から手が出るほど欲しいものは、何も価値がないと思える程度のもので。

 そしてそれに、少なくともライネは疑問に思っていない。


「…………そういうものか」


 遠い。


 理解できたと思ったものは、実はただの勘違いで。

 サレンはまだ、誰一人として本心を知らずにいる。


 そしてそれに、今になって気づいている自分自身さえ遠くに思えた。


「でも、応援はしてあげてほしいんです」

「…………えっ?」


 今度はサレンが驚かされ、そしてライネは小さくはにかんだ。


「ホムラちゃん、あぁ見えて実は寂しがり屋なところがあるので。負けるとは思わなくても、応援されないことを内心で気にしちゃうんです」

「アタシが言えた義理じゃないけど、それ言っていいわけ?ホムラ、絶対に嫌がるでしょ」

「大丈夫です!応援されて嫌な人はいないですから!」

 

 そしてお願いしますと頭を下げるライネに対し、サレンは握っていた拳を緩やかに解く。


「…………そうね。そう言うんだったら、今は素直に応援しようかな」

「…………っ!はい!ウチも頑張って声援を送りますから、よろしくお願いします!」


 サレンを手伝いたいと言ったのは、ライネである。


 数日前にホムラから伝えられた言葉を思い出し、そして張り切るライネの横顔を見て静かに思う。


 分からないことは多くあっても。

 彼女らの好意と行動だけは、紛れもなく本当なのだと。


 そして。


「来るわよ」

「へっ?」


 呆けた声の後。


 熱が、サレンを呑み込んだ。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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