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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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「第一戦、私に行かせてほしい」


 時間は一度、動物科の出場者が舞台に姿を見せたところまで戻る。


 事態を理解した精霊科の先輩がたへ、サレンはそう提案した。


「わたしは別に構わないわ。どのみち、勝ってくれないと困るわけだし」

「ならば拙者から言うこともない」


 ホムラとシュラはあっさりと快諾し、ライネは少し落ち着かない様子で視線をチョコの方へと向けた。


「…………分かった。その様子じゃ、何か策があるみたいね」

「策っていうか、解決案はあるよってだけ。でも、二度使えるかは微妙だから…………」

「向こうの思惑を崩すことで、問題の矛先をそっちに向けるってことね。いいわ、そういうことならアタシも賛成」

「でっ、でしたら!ウチも賛成なのです!」


 やや上ずった声でライネが賛同したことで、サレンは観客席から飛び降り舞台へと向かう。


「で、実際どうなの?」


 サレンが舞台に上がった頃合いで、ホムラがチョコにそう尋ねた。


「アンタのことだから、ある程度の見込みはついてるんでしょ?」

「…………普通の生徒だったら、普通にやれば勝算はあると思う」


 先ほどの自信ありげな言葉は陰すらなく。

 中央へと向かうサレンの背中を目で追うチョコは、弱々しい口調でこう吐き捨てた。


「でも、今回ばかりは相手が悪すぎる。よりにもよって、動物科の中でも戦える連中を集めてきてるから」

「それが分からんほど、サレン殿は愚かではないと思うが?」


 シュラの疑問に、チョコは一瞬だけ躊躇うように口ごもると。


「精霊の力が使えるなら、当然サレンが勝つわ。でも、連中は絶対にそれを禁止事項にしてくるはず。なにせ、そのルールで損するのはサレンだけだからね」

「それが分かってて、あなたサレンを送り出したわけ?」

「どのみち、サレンがここで勝てないならアタシらの敗北は確実。それが分かってないわけがないと、そう信じるしかなかっただけよ」


 そして追加ルールが発表され、壇上にはサレンと対戦相手だけが残された。


「鮫に類似した魔獣を使役する魔法使い。確か中央でもそこそこ名の通った家だっけ?」

「魔法統括局で行われる魔法戦でも、上位に入れる一族の後継者だからね。まず間違いなく、戦える側だわ」


 闘争には向き不向きがある。

 それは本人の潜在的な性格でもあり、魔法よりかは分かりにくい明確な才能の差だ。


 ある程度は訓練で鍛えることはできるが、それでも持っているか否かは能力に多大な影響を与える。

 しかもそれは、普通に生きている中では分かりずらい部類。

 特に魔法使いにおいては、とりわけ重視されることでもない場面が多い。


 でも、この魔法戦では違う。

 

 優れた魔法使いであっても、戦いの才がなければ遥か格下の相手にすら余裕で負けるし。

 その逆もまた、この魔法戦においては当然のように起こる。


 そういった経緯もあって、基本的に学士以上の魔法使いは参戦することはない。

 彼らが評価されている部分と関係ないところで、無駄に評判を下げる意味はないからだ。


「少なくとも、サレン殿は動ける側ではあるがな」

「それは間違いなくそうね。インキュリア王国でも、真っ先に王宮に駆け付けてたっぽいし」


 二人の評価を聞いたホムラは、少しだけ感心した素振りを見せた後で口を開く。


「話は変わるけど、精霊って常に契約者の傍にいるの?」

「…………いるはず、だけど」

「仮にいなかったとて、拙者らに認知する術がないからな」

「確か精霊から力を借りて、それで戦うのよね。それって、貸し借りの距離に制限とかあるわけ?」

「なに?ホムラって精霊にそんな興味あったわけ?」


 やけに食いついてくる態度に驚いたのか、チョコはやや反射的にそう尋ねてしまう。

 

 するとホムラは一瞬バツが悪そうな表情を浮かべると。


「…………別に。負けてもらったら困るだけ」

「サレン殿は、追加ルールには驚いていないようだな」


 話の流れを真っ二つに切り裂くように。

 やや間延びした口調で、シュラは自らの感想を口にした。


 どこか居心地が悪そうに視線を背けるホムラを宥めつつ、ライネはおずおずとこう尋ねてみる。


「シュラさまから見て、サレンさまはどう見えますか?」

「特にはないな。強いていえば、先ほどの言葉が気になるくらいか」

「あぁ。さっきの一度きりのアイデアがーってやつ?言われてみれば、確かに気になるわね」

「サレン殿はとりわけ優秀な魔法使いではないが。だからといって勝算も無しに口走るほど軽率でもない」


 そう語るシュラは。


 開始の合図が鳴る直前に、サレンの用意した策に気が付いた。


「ロア殿ではない、別の魔力供給元を用意しているのか」


 そして、サレンもまた始まりの合図を待たずして既に準備を始めていた。


(『あー、もしもしー?クレア聞こえてるー?』)

(『あっ!はい!こちらクレアです!お姉さまも聞こえてますか?』)

(『オッケー聞こえた。ごめんね、こんな個人的なことで頼っちゃって』)

(『構わないのです。それに、お姉さまの御力になれるのであれば、クレアは何でもしますので』)


 ザナードと話をしたあと。

 サレンはロアと相談し、あることを決めていた。


「ごめんロア。次の学科対抗戦、ロアの力は使えないと思う」

「『…………どういうことだ?』」


 サレンは人気のない建物裏を歩きながら、実体化したロアにこう説明する。


「きっと向こうが入学課題の時みたいにしてくるなら、確実にロアの力は禁止されると思う。だって提案を断って、それで学科対抗戦そのものが中止になったら。それ自体が思惑通りになっちゃうから」

「『連中は精霊科にとって不利益な事実を作りたい。であれば、精霊科が規則を守らなかった事実でも問題はないということか』」

「だとしたら、私がそれを断ることはできないと思う。ううん、むしろ私以外が困らないんだから断れるわけがない」


 動物科が真正面から戦って、精霊科を叩き潰しに来たのは想定外だったが。


「だから、私はクレアを経由してパンサラサの力を借りようと思う」


 ロアの魔力を禁じることは、サレンであっても容易に想像できることだった。


「『…………その提案を否定するつもりはないが』」


 だけど、サレンの提案はロアの想定とは少し異なっていた。

 厳密に言うのなら、意味のない提案に聞こえた。


「『小生には疑問なのだが、精霊の力を禁じられている以上。あ奴の力も使えないのではないか?』」

「それが精霊の力だって分かる奴がいれば、だけどね」


 サレンの返答に、ロアは大きく目を見開き、そして唸った。


「『…………そうか。今の時代、精霊の加護がどのようなものか詳しく知る者は少ない。であれば、盟友が小生以外の力を振るったとて、それが精霊由来かは判別できない』」

「ま、仮にいたとしても一戦だけなら余裕でしょ。そんでもって、指摘されたって無視すればいいだけだし」


 サレンは別に、水の精霊序列二位であるパンサラサとは契約していない。


 だが、サレンはその契約者であるクレアと戦った際、一時的にだがその力を行使してみせた。

 クレアが協力してくれれば、恐らくパンサラサが拒絶することはしないだろうし。


 なにより、遥か遠くからの魔力を受け渡しに関しては。

 昨日行った魔法具による通信で、それが成立すると知っている。


「クレアには今から説明するとして。ロアには先に謝っておこうと思って」

「『何故だ?』」

「何故って…………そりゃ」


 どうして分からないのかと言わんばかりに。

 サレンは躊躇いがちに視線を泳がせ、そして白状する。


「一応、私はロアの契約者なわけだし。他の精霊の力を借りるのは、なんか、違うかなって」


 殊更、そこから何かあったわけではない。

 

 それでも両者の関係が、ほんのちょっとだけ変化したのは間違いなくて。

 なによりも、サレンの考えは実現可能として協力まで漕ぎつけた。


「───────先に謝っとくぜ、クソエリートども」


 サレンは青く迸る魔力に身を委ねながら、鮫の顎を両腕で抑えながら嘯いた。


「先輩がたの手前、情けない姿は見せられねぇんだよ」

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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