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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第3章 学科対抗戦

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7

 ザナードと名乗った男は、サレンを引っ張って近くのベンチまで誘導した。


「ほれ、さっき売店で買ったんだ。極東の銘品で、たい焼きってんだ。中々に上手いぞ」


 渡されたそれは魚の姿を模した焼き菓子だった。

 

 香ばしい匂いから察するに毒物ではないのだろうが、得体の知れない相手から渡されたのもあってか警戒を解くことはできない。


「そう睨まなくても毒は盛らねぇし、第一それはオレが食おうとしてたやつだぜ?それに、話が聞きたいって言っておいて、こんな大勢の前で毒殺するやつがいるかよ?」

「…………」


 ザナードの言い分は尤もなのだが、大前提としてサレンと話がしたいというだけで充分に変なのだ。

 

 数秒経っても口へ運ばないのを見てから、ザナードは「仕方ねぇか」と呟くと。


「そんで、何かあったのか?すんげぇ顰め面しながら早足で歩いてたんだ。なにか相当に嫌なことがあったんだろ?」

「…………話を聞きたいんじゃないの?」

「聞いてください、って顔してる奴にせがむほどガキじゃないんでね」


 カラカラと笑いながら、ザナードは紙袋に入っているたい焼きを一つ口に放り込む。


「本校の地質科(ボヴァン)って、何を学ぶの?」

「主に王国全土の測量や地層調査、地面から採取される鉱石物の分析と、埋蔵量の計算なんかもしてるな。大概は敷地の外で作業するから、専有区域が全学科で一番狭かったりする」


 想像以上の回答だった。


 思わず唖然とするサレンに、ザナードはニヤリと片眉を上げると。


「意外だろ?こんな見た目だが、そこそこ博識なのさ。いわゆるギャップ萌えってやつだ」

「それ、使い方間違ってない?」

「さぁな。適当に言っただけだ」


 ザナードはそう言うと、サレンの様子をチラリと一瞥し。


自然派(ナチュナル)は基本的に精霊に対して排他的だ。必然的に、その精霊を使役する人間は目の敵にされる」

「理由を教えて」

「連中は、魔法は人間のためにあるものだって証明したいんだよ」


 訝しむサレンへ、ザナードは次のたい焼きを口へ運ぶと。


「そもそも、魔法学校ってのは精霊の力を人間が扱うことを目的に創設させた機関だ。大いなる存在、自然と共にある精霊を深く知ろうとすれば、自ずと分野は限定される」

「…………だから、動物と植物と、地質なのね」

「そういうこった。んで、一応の正史では精霊は人間に魔法を譲ったことになってる。つまりは、魔法の所有権は人間にあるってのが現代魔法の考え方だ」


 たった二口でたい焼きを完食したザナードは、指についたカスを軽く舐めとると。


「王国はそれを、単なる学問以上の用途で使おうと考えた。その結果が、地方に設置された分校による魔法習得率の劇的な向上と、魔法を運用することに特化した学科だ」

人体科(ムトン)とか?」

「いんや、懐古派(ヒストリア)の三学科と、瞑央派(クリフォト)の三学科の計六学科だ。こいつらは魔法の中ではマイナーに分類される学科だったんだが、軍事運用を前提とした大規模投資で生まれ変わったのさ。結果として、二つに割らないといけないほどに力を持っちまった」


 サレンが聞いているのは、この国の魔法学校の、裏側の歴史だった。


 魔法の歴史、特に魔法学校が整備されていく過程については分校でも学習する。

 そのうえ筆記試験でも出題しやすいことから、サレンは重点的に学習を行い満点を取り続けていた。


 だからこそ、サレンは分かる。

 ザナードの話す内容は、一般に流通する全ての書籍に記載されていないと。


「元々は人体科、基礎科(サングリエ)応用科(シヤン)が王国の軍部直轄の学科だったらしいが。そこまでの話はオレも知らん。ただ一つ言えることは、人体科を中心とした魔法防衛局の連中は、精霊を使うことで利益を得られるなら使うべきだと思ってるってことだ」

「…………あの、さ」

「ん?どうした?」


 思わず止めたのは、聞いたことのない話を聞かされているからではない。


「ザナード、さん、は。なんでこんな詳しいの?いくら四回生だからって、こんなことまで普通知らないと思うけど」

「ザナードでいい。詳しい理由は、オレの専門にある」

「確か、暗号と符丁、だっけ?」


 記憶を辿るようにサレンが呟くと、ザナードは感心した様子で口笛を吹き。


「よく覚えてたな。もっと言えば、文学科と歴史科(オワゾ)も設立当初は軍部直轄の組織だったのさ。今じゃ魔法防衛局とは違う、王国の文化管理局ってとこの預りになってるが」

「だから詳しい、一般には知られてない歴史も知ってるのね」

「ついでに、このレベルの話なら四回生なら大体は黙認してんのさ。いちいち突っ込んでたらキリがねぇし、変に揉めて実家に迷惑でもかけたら大変だからな」


 その点で言えば、オレは心配ないとザナードは笑うと。


「何が言いたいかっていうと、学科によって精霊に対する認識は違う。ただ、一番嫌ってる自然派の区域には近づかないほうが懸命だぜ。あそこは他の派閥とも仲が悪いってんで、実はここじゃ浮いてるのさ」


 それにと、ザナードは最後のたい焼きを咥え、入っていた紙袋を丸めると。


精霊科(シャト)には一人、自然派が絶対に認められない魔法使いがいるって噂だ。なんでも、才能がありすぎるせいで、入学初日で精霊科に飛ばされたって噂があるらしい」

「それ…………って」


 自分と同じだ。 

 サレンは思わずそう言いかけ、咄嗟に口を閉ざす。


 そんな様子がおかしかったのか、ザナードは小さく笑みを浮かべると。


「言っとくが、精霊使いとは別だぞ?というよりも、あの『導師(ロワレ)』が出張っただけでも大事件なのに、よりにもよって植物科の『導師』が庇ったんだ。オレじゃなくても噂は耳にするぜ」


 そう言ってから、ザナードは少し声色を落としこう続ける。


「当代の植物科の『導師』は、『薔薇』の『原典』をえらく気に入っていて。同じ分校出身の友達という理由で庇いだてした。それは、自然派全体に対する一種の背信行為なのではないか?って具合でな」

「…………」


 少し考えれば分かることだった。


 サレンとシルフィは同じ分校出身の親友で、シルフィは地方とはいえ貴族の生まれ。

 早い段階で本校への進学が決まっていたのだから、『導師』と連絡を取る機会はいくらでもあったはずだ。


 もしかすれば、初めて本校へ赴く際、父親に連絡すると告げて離席した時も。

 裏で植物科の『導師』と交渉し、万が一の時は助けて貰うようにお願いしてたのかもしれない。


「まぁ、それはオレには興味がないし心底どうでもいが。オレが今一番聞きたいのは、精霊とのコミュニケーション方法なんだ」


 グイッと体を近づけたザナードは、覗き込むようにサレンの顔に自らの顔を近づけると。


「精霊は人と話すのか。そもそも対話できるのか。動物みたいに、仕草と表情から感情を察するのか。なにぶん過去に記録もねぇんだ。こんな機会は二度とねぇだろ?」

「そんなに知りたいこと?先に言うけど、割と普通でガッカリしない?」

「しないね。仮にそうなら、世の中にある情報交換は全て解読できる証明になる。それはそれで、オレの魔法研究にとって大きな進歩を意味することだ」


 話ながらザナードはサレンの空いた手を強く掴む。

 思わずたじろぐサレンだが、肝心のザナードは瞳を爛々と輝かせて一歩も引きさがらない。


(こうなったら、ロアの姿を見せて納得させないと納得しなそう)


 サレンはそう諦め、掴まれた手をそっと振り払うと。


「ロア。この人にだけ姿を見せてあげて」

「『承知した』」


 次の瞬間、ベンチに腰掛ける二人より倍以上大きなロアが姿を見せる。


「おぉ…………デカいことにも驚いたが、まさか普通に話せるのか?」

「『左様。とはいえ、あくまで契約者の意向がある場合のみだ』」

「なるほどな…………いや、いくつか推測してたんだが、やっぱり魔力を媒介にする方法だったか」


 満足したのか、あるいは更に別の疑問点を思いついたのか。

 ザナードはサレンが手に持ったままのたい焼きを、サレンの手から咥え取ると。


「ありがとな。実に有意義な時間だった」


 ひらひらと掌を振り、褐色の肌と赤髪が人混みの中へと消えてしまう。


 その後ろ姿が去った辺りを暫く眺めていたサレンは、ロアにそっと尋ねる。


「ロアさ…………」

「『どうした?』」

「後で話、聞いてくれる?少し考えたことがあるんだけど」


 サレンの話はロアと大いに驚かせるものだったのだが。


 多くの者がそれを知ることになるのは、学科対抗戦の当日になるのだった。

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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