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───────ウチはきっと、最初から魔法使いに向いてなかったんだと思う。
ウチにとって魔法は、大人たちが見栄を張るための道具でしかなくて。
あの人は凄いとか、あの人は大したことないとか。
そういった、何も楽しくない会話に使われてたから。
だからウチは、魔法をできるだけ遠ざけようとした。
上のお兄ちゃんやお姉ちゃんが、誕生日プレゼントで魔法に関する物を貰ってたけど。
それには興味がない、欲しくないって、駄々をこねるようにウチは主張し続けた。
この子供ながらの我が儘は上手くいっていたと思う。
魔法が全ての世界で、魔法を断固として拒絶する。
それは、テストで赤点を取るよりもずっと、落第の象徴として分かりやすいから。
加えてウチは、性格が明るいわけでも、お話が上手なわけでもなくて。
とりわけ秀でた部分も、目に見えて分かるような長所もなかった。
愚鈍で、人見知りで、話すのが遅く、動きもトロい。
出来のいい姉が二人いれば、ウチへの関心が損なわれるのは当然のことだった。
「…………えへへ」
だけど、それがウチには心地よかった。
「ターくんだけですよ。あぁえっと、マーちゃんもですからね!」
周囲の評価は、ウチからすれば逆だった。
機敏で、躊躇なく相手へ踏み込み、詠唱でもするかのように話し、何かに追われているようにせわしない。
ウチにとって世界は早すぎて、同時に訳が分からないほど怖いものだった。
そんなウチにとって、誰も近づいてこないのは逆に心地よくて。
無理についていかなきゃと、変に焦る必要もなくて。
穏やかに流れる時間だけは、ウチを受け入れてくれる。
広々とした自室の一角。
クローゼットの奥に作った、ちょっとした秘密基地だけがウチの安全地帯で。
夜な夜な作った、小さな友達がウチの唯一の話し相手で。
それさえあれば、他は何も必要ないと。
疑うことなく信じられるほど、ウチの生活は平和に包まれていた。
「…………なんだ、それは」
だけど、そんな平和は長くは続かなかった。
元より子供のつく嘘なんて、本人がどれだけ完璧だと思っていてもバレる日が来る。
だからウチが作った友達も、小さなきっかけで忽ち暴かれてしまって。
「…………そんな…………こんなこと」
バレたらもう、あの早すぎる世界に戻らないといけなくて。
「……………………これは、魔法なのか?」
才能という。
捨てることもできない呪いが、魔法という形でウチに宿ってしまった。
「どうする?こんなこと、他の家でも見たことがないぞ?」
「方式も不明。過去のどの記録を見ても類似する記述がない」
「なにより、本人にその覚えがまるでないとなると…………」
「まさか…………『終典』?」
「馬鹿なっ!?それは、そんなふざけたことがあるわけないだろう!?」
「だがしかし、それ以外でどう説明すれば…………」
そこからはもう、ウチに逃げ場はなかった。
羨望と畏怖、幽霊でも見ているかのような視線を向けてくる大人と。
嫉妬と憎悪、親の仇でも見ているかのような視線を向ける家族と。
まるで商品を眺めるような視線を向ける、見たこともない他人に晒され続ける日々。
ウチは嵐に晒される若木のように、ただジッと座って過ぎるのを待ち続けた。
そうすれば、また同じような日々が戻ってくると。
誰もウチに見向きもしない、するわけもない。
こんな痛く、苦しい日々から逃れられると。
「……………………ぇ?」
「荷物をまとめろ。近いうちに魔法統括局がここに来る。そしてお前は、魔法学校の本校へと入学するんだ」
「…………んで」
「簡単な話だ。お前のそれは、そうなるだけの才能に満ちている。あるいは、そうさせてしまうと言うべきか」
嫌だ。
ウチはずっと、ここにいられると。
誰にも関わらず、ただ静かに暮らしていけると。
「我が儘を言うな」
だけど。
そんな子供じみた我が儘を、わざわざ聞いてくれるほど大人は優しくない。
「お前が単に凡愚なら、永遠にこの部屋で暮らしていくのも悪くはなかった。元より、お前を我が子供と思うこと自体が不愉快だったからな。人様に晒すくらいなら、ここにずっといるほうが遥かにマシなのは事実だ」
大人は、ウチに語った。
「だが、お前には魔法の才能があった。それも我が一族でも飛び抜けた代物、もしかすれば本校でも例がないかもしれないと思うほどの代物だ」
お前には、興味がないと。
「何も役に立たないと呆れ果てていたが、まさかこのような形で役に立つとは思わなかったが。なんにしても、お手柄だと褒めるしかないな。こんな気色悪い魔法を、最も役に立たないお前が発現してくれるとは」
必要なのは、お前の魔法で。
「おかげで、先の一族が被害を受けることはなくなったわけだ。とはいえ、魔法という奇跡を完璧に把握している人間はいない。もしかすれば、ということもあるかもしれない」
それを、とても恥ずかしいと思っていると。
「だからライネ。お前は本校できちんと検査を受け、そして必ず仕組みを解明してきなさい。そのための費用はどうにでもなる。これから先、お前みたいな欠陥品が現れないようにな」
そして流されるまま、ウチは生まれ育った家を離れ。
辿り着いた学び舎でも、やはり異端として爪はじきにされ。
「だから何?それ、必要なこと?」
行き場を失ったウチは、そこで遂に出会ったのだ。
「よく分かんないけど、気味が悪いからって嫌う理由なくない?」
それがどうした、と。
ありのままの、ウチを受け入れてくれる相手を。
「なんでもいいけど、ここで暮らすからには色々知らないと不便でしょ。荷物も持ったままだし、部屋の位置とかも聞いてないんじゃないの?」
「…………ぁ、はぃ」
「なら、まずはそっから案内するから」
だから、ウチにとって彼女は救世主で。
「ついてきて。困ってる人を放っておけるほど、まだ人間辞めてないから」
いつの日か、こんな風になりたいと。
この時初めて、ウチの魔法は意味を持ったのだ。




