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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第2章 海楼国家インキュリア

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これで第2章は完結です。

第3章は後日から更新します。


長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

 インキュリア王国を出て三日。

 

 サレンはチョコと共に、列車にて帰路についていた。


「…………はぁ」

「なに?まだ引きずってるわけ?」


 向かいに座るチョコにそう尋ねられ、サレンは力なく首を横に振った。


「そうじゃないっていうか、決定そのものに文句はないんだけど」


 インキュリア王国で起きた騒動。

 国家元首にして精霊使いであるクレアと、その身を案じた執務官セジリオの謀略。


 彼らの思惑がすれ違ったことで起きた一連の事件は。


 その全てを、なかったことにした。


「仕方ないでしょ。国家規模で事件があった以上は、原因を追究したうえで誰かが責任を取らないといけない。でも、その責任を押し付けられる一部の人間が揃って消えちゃって、残ってたのはクレアとセジリオだけ。だけどそれは、アタシらも望んでない」


 何かに憑かれたように暴れたセジリオは、サレンらが退散するまで目覚めることはなく。

 そのセジリオを倒したイグニアと、倒されたシュラは先んじて退散。


 聞けば精霊科の先輩らが何人か来てたらしいが、最後までサレンが会うことはなく。

 残されたサレンとチョコ、そしてクレアの三人で後の話し合いをしたのだ。


「アタシらの目的は、学士になれるだけの実績と相手にそれを担保してもらうこと。その要になるクレアを断罪させたら、巡り巡ってアタシらに火の粉が降り注ぐことになる。そうしたらもう、魔法学校に通うどころじゃないもの」


 チョコ曰く、一般人への口封じは何も心配ないらしく。

 起きた全てを、質の悪い悪夢だったと言い訳できる状況にあるらしい。


(きっと精霊科の誰かの魔法なんだろうけど。一国全土に行使できる魔法って精霊より凄いんじゃないの?)


 魔法探求に目覚めたばかりのサレンは、是非とも詳しく知りたかったのだが。

 どういうわけかチョコの口が堅いのもあって、これ以上の情報を得ることはできなかった。


 ついでに、王宮から逃げ出した連中も、クレアとサレンの戦いまでは目撃できておらず。

 あとはサレンらが何も言わなければ、何もなかったで成立する状態にあった。


(ごり押しにも程があると思うけど…………そこはクレアが頑張るって強く言ってたし、変に疑うのもそれはそれで違うし…………)


 実際、精霊の存在をクライドラ王国に隠せていたのだ。

 サレンがあれこれ気に揉むだけ余計なお世話なのは、サレンとて分かっているつもりだった。


「ただ働きになったのは痛いけど。今回ばかりは仕方ないわね。元々、学外依頼なんて成功しないのが当然なわけだし、クレアって味方を作れただけでも大手柄よ」


 騒動の最中、被害を食い止めるために奔走したチョコへの恩義か。  

 あるいは、友だちだと言ってくれたサレンへの友愛の証なのか。


 クレアは個人的に、サレンらと連絡先を交換し協力を誓ってくれた。


 下流階級の生まれで後ろ盾のないサレンにとって、一国の主が味方なのは強力な味方だし。

 なにより、同じ精霊使いとしてこれほど心強いことはないだろう。


「でも、クレアの言い方、なんか変じゃなかった?」

「変って?」

「上手く言えないけど、向けられてる好意がこう、友だちって感じじゃないっていうか…………」


 気がかりなのは、クレアがサレンのことを「お姉さま」と呼びだしたこと。

 そしてそう呼ぶと同時に絡めてきた指が、どことなく艶めかしいものだったことだ。


「諦めなさい。話を聞いた感じ、悪いのはサレンだから」

「友だちだからって殴ったから?」

「さぁね。アタシには分かんないわ」

 

 あれが友愛ではないことくらい、チョコでも分かることなのだが。

 それに気づけないサレンも、それであぁなるクレアも大概なので。


「大いに悩んだらいいわ。どのみち、長い付き合いになるんだし」


 チョコは完全に、他人事だと放置することを決めていた。


「それよりも、これからのことを考えないとね」

「これから?」

「そうよ。想定だと一か月くらいで戻れる予定だったのに、結果的に二か月近い滞在になったでしょ。前に話した期末考査までは時間があるけど、その前に一つ行事があるのよ」


 なんにしても、二人が学生で学び舎に属する人間なのだ。

 当然、学校行事には参加しないといけない。


「それって全員参加なの?それとも一回生だけ?」

「名目上は全員ね。とはいえ、他の学科は違うと思うけど」

「なんで?」

「ルール上は、五人いれば成立するからよ」


 それは本校において数少ない、目に見える形で優劣が分かる催しの一つ。

 魔法の探求に勤しむ者たちが、禍根と研鑽のために争う舞台。


学科(がっか)対抗戦(たいこうせん)。各学科から五人選出して、五番勝負で勝敗を競う魔法模擬戦よ。勝ち上がり形式で、順位に応じて本校から一時金が支払われるの。一位になれば、アタシら精霊科の年間予算より多くのお金が貰えるわ」


 どことなくチョコが息巻いていることに気づいたサレンは、それが正しいと即座に知る。


「これまで精霊科は慢性的な人数不足で常に最下位。おかげで学舎はボロボロで、元の予算もほぼないから研究素材すら買えなかったわ。これまではね」

「…………」

「でも、今年はサレンがいる。頭数としてはギリギリだけど、上手くやれば優勝だって狙えるわけ!」


 サレンは思い出す。

 

 いつ抜けるか分からないほどに脆弱化した床。

 汚れだらけで満足に光を通さない窓。

 建付けどころか穴だらけの扉。


 そして、日夜聞こえ続ける、何かが動き回る音。


「チョコ先輩」


 男勝りな性格ではあるが、サレンとて一人の女性だ。

 身の回りに無頓着とはいえ、思うところがないわけではない。


「私、綺麗なお風呂に入りたい」

「甘いわねサレン。別に女子棟を作れば全て解決するわ」


 この時、二人は本当の意味で理解し合えたのだ。

 

 正しい意味で、理念を共感しあえる友を。

 実質、他の生物たちの住処に寄生させてもらっている待遇を。


「狙うは優勝。ピカピカの新居を手に入れて、快適な学園生活を手に入れるわよ」


 二人は熱い友情を新たに、本校へと続く列車に揺られる。

 話す二人はどこか姉妹のようで、妙に決意に満ち溢れているのだった。


「…………」


 そして。


 時を同じくして。


「お久しぶりですね。やはり、貴方が来てましたか」


 インキュリア王国の一番外側。

 背の高い建物によって作られた偶然の死角に、一人の男が足を踏み入れた。


「えぇー、やだぁなんでここにいるんですかぁ?」


 そこは、散乱とした場だった。

 

 例えるなら帰省途中の若者が、うっかりキャリーケースの中身をぶちまけたみたいな。

 一人の女性を中心に、大小さまざまな荷物が投げ出され地面に転がっていた。


「あぁそうでしたねぇ。あなた、今は学校の先生をしてるんですもんねぇ」


 荷物の正体は、人間だった。


 生きたまま五センチ四方の正方形に圧縮された、この国から失踪した幕僚たちの全てである。


「それで、どうするんですぅ?まさかと思いますけどぉ、いつもの人助けぇ、ですかぁ?」

「いえ。今は辞めておきましょう。今は時期が悪いですので」


 男はそう呟き、そして視線を横に向ける。


「『火車(かしゃ)』くんのことはぁ、気にしないでくださぁいよぉ。これでもぉ、上の命令には逆らえないんですからぁ」

「冗談がすぎますね」


 一蹴だった。

 わざとらしい困り顔の、ふくよかな女性は。


No.2(セカンド)である貴方であれば、精霊ごときに遅れは取らないでしょう?」


 ズルリ、と。

 まるで蛇が脱皮するかの如く、その外側だけを器用に脱ぎ捨てた。


「ふぅ。これ、肩が凝るんですよねぇ」


 出てきたのは黄色髪の子供だった。

 

 全身についた粘質性の液体を手で払いながら、No.2(セカンド)と呼ばれた者は全裸のまま大きく背伸びをする。


「それでぇ、本当に何の用事ですかぁ?まさかと思いますけどぉ、元同僚の顔が見たい、なんて言いませんよねぇ?もしくは、ほんとうに会いたくなった、とか?」


 子供は覗き込むように身を屈め、そして笑った。


 純粋無垢とは真逆の、邪悪と悪意に満たされた視線を向けて。


「警告ですよ」


 対して、男は告げる。


 それら全てに一ミリも意に介することなく。

 あるいは、これぐらいであれば普通だと言わんばかりに。


「次、僕の生徒に手を出したら。その時は容赦しないので」

「…………あはっ」


 その日を、インキュリア王国にいた全員が等しく記憶から消した。

 なにしろ揃いも揃って、悪い夢を見たのだ。


 たった一つの悪意によって、為すすべなく殺される夢を。


「やだなぁもう、そんな熱烈な告白を聞いちゃったらぁ」


 子供は恍惚とした表情を浮かべ、己の指を舌に絡めながら囁く。


「今すぐここで、(ころ)したくなっちゃうじゃないですかぁ」

「…………」

「でもぉ、それは今は許されていないのでぇ。『墜星(ついせい)』の日まで待ちますねぇ」


 だから彼らは、再び眠りについた。


 緩やかに続く安寧に、穏やかに続く平穏に。


「その時が来ることをぉ、首を長ぁくして待ってます♡」


 破滅から()()逃れた幸福に、気づくことなく永遠に。

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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