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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第2章 海楼国家インキュリア

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 地面を滑るように後退するシュラは、顔を向けるより先に強引にその軌道を変えた。


「はっ!」


 気迫の込められた声。

 

 それが通路に響いた直後、かき消すような轟音と共に地面が炸裂する。


(…………戦斧。形状から推測するにハルバードの亜種のようなものなのだろうが)


 両端に穂先が取り付けられた槍に、三日月状の斧頭。

 ただ叩き割るだけではなく、突く払う斬るといった様々な用途で用いることのできる万能武器。


 セジリオが持つそれは斧頭が従来よりも大きいうえに厚く。

 加えて、その両端に取りつけられた穂先が十字なのが大きく違う点だろう。


(基本は槍で突き払い、崩したところを斧で防御ごと砕く。実に合理的で、隙の少ない戦闘方式だ)


 間合いが違いすぎるうえに、単純に脅威になりえる刃先が多い点でもシュラは攻めあぐねていた。

 下手に踏み込めば槍の餌食になり、中途半端に躊躇うと斧で刀ごと砕かれかねない。


「意外ですね。貴方はもう少し、積極的だと思っていたのですが」


 セジリオにつけた傷は、頬に刻まれた浅い切り傷だけ。

 その対価として、シュラの体にはいくつかの刺し傷が生じていた。


「その様子を見るに、自分の武芸も捨てたものではないらしい」

「…………問うが」

「あぁ、先ほどの質問ですか?確か、貴方たちがここに来ることを、一体だれから聞いたのか」


 話しながら、まるで滑走するようにセジリオが間合いを詰める。

 

 シュラは反射的に刀を振るい、その上を飛ぶようにセジリオが舞う。


「簡単な話です。貴方たちの学校から、ですよ」

「…………」

「冷静に考えれば分かることでは?貴方たちは魔法学校から派遣された、いわば使節団です。それがどこの誰かなんて、お互いに把握していないわけがないじゃないですか」

「違う」


 饒舌に喋るセジリオの言葉を、シュラは端的に否定する。


「拙者が聞きたいのは、もはやそんなことではない」

「…………そうでしたか。それで、いったい何を聞きたいのですか?こんなことをした動機?それとも自分の目的?どちらにしても、貴方に正直に答える義理は」

「貴様は、これが本当に救いになると思っているのか?」


 込められた意図は、限りなくシンプルなものだった。


 シュラの問いの、その真意。

 

 それは、この暴動によって誰が迷惑を被るのか理解できなかったのかという、セジリオに対する憐れみだった。


「貴様が誰に怒りを覚えているのかは知らん。だが、このようなことをして、一体だれが得をする?だれが幸せになる?少なくとも、国家の機能たる精霊使いは確実に処罰されるぞ」

「…………」

「精霊使いを誑かし、暴走させ、先んじて招いていた暴漢たちに暴れさせ、中枢にいる人間に大打撃を与える。貴様の目的がそのような細事であるならば、少なからず達成はされはするだろうな」

「…………黙れ」

「だが、貴様が救いたいと思う相手が、仮に精霊使いだったのなら。この騒動はあまりにも悪手がすぎることだ。歴史的な観点から見ても、暴走した国家元首の行く末なぞ大抵がろくなことにならない」

「黙れ!お前に、自分の何が分かる!?」


 もはや滅茶苦茶に暴れ始めるセジリオだが、その動きは限りなく洗練されていた。


 少なくとも、武芸を修めたシュラを相手にしても見劣りしない程度には。

 その技術の集合体は、確かに一つの高さに至っていた。


「この国は狂っている!誰かが壊さなければ、彼女の犠牲は永遠と続き。彼女の肉体は囚われたままなんだ!」


 斧頭の逆側ギリギリを握ることで、限界まで高めた遠心力。

 そこに怒り狂ったことで増幅した身体能力を組み合わせれば、生半可な防御魔法なぞ容易に粉々にできる。


「だから、自分がそれをやったんだ!それのどこが間違っている!?誰もやらないんだから、一番近くで見てきた自分がやらないといけないんだ!!」

「その結果が、彼女を孤独に追い込むことか?」

「違う!違う違う違う違う!!」


 セジリオは泣いていた。

 怒っているようにも見える表情で、ただあらん限りの怒号を挙げてシュラへ攻撃を続ける。


「できることはあった!してあげられることも、自分にはずっとあった!でも、自分は最後までそれを選ぶことができなかった!父上の顔色を窺うだけで、彼女のことなぞ気にも留めていなかった!!」


 連続する炸裂音。

 鉄球の雨でも降っているのかと錯覚するほどの破壊の嵐に、シュラは一振りの刀でそれを凌いでいた。


「そんな自分が、いったいどうして傍にいられる!味方だと言える!言う資格がどこにある!?」

「ないな」

「だったらっ!!」

「最初から、そんなものは存在しない」


 ギャァン!!、と。

 

 セジリオのハルバードをシュラが弾き返したことで、ひときわ大きな音が通路に鳴り響いた。


「貴様の語るそれは、確かに真実かもしれん。その精霊使いが貴様を快く思っていない可能性は、少なくとも拙者には証明できぬ」


 たたらを踏むセジリオに対し、シュラは切っ先を向けたままこう続けた。


「だが、何もせずとも。何もできなかったとしても。ただ傍にい続けることで救われる者は存在するのだ。苦しい時、悲しい時、逃げ出したい時。それらに圧し潰されそうなとき、近くに誰かがいてくれることは必ず救いになる」


 セジリオの目に、シュラの表情はどう映ったのだろうか。


 少なくともセジリオの表情から激情は消えうせ、より強い感情を前に驚きを隠せずにいる。

 そして、セジリオの視線を向けられたシュラは、平時よりも強い口調でこう告げる。


「貴様の行為は、最後の安息地を奪うことと同義。それは、寒空の下で毛布を奪うよりも遥かに度し難く、あまりにも残酷な仕打ちだ。なにしろ、その者にとって貴様こそが救いだったのだから」


 この瞬間、雌雄は決した。

 

 シュラの言葉はセジリオの戦意を奪い、同時に自らが侵した罪の重大さに気づかせるものだった。


 セジリオの行為は間違っていたが、それでも根底には相手への愛があった。

 それが結果的に相手を傷つけたと知った今、これ以上の狼藉は無意味でしかない。


(…………ガラでもないことをペラペラと。どの口で話しているのだろうな、拙者は)


 終ぞ出てこなかった言葉は胸の内で空転し、やがて溜息と共に空中へと溶けていく。


 それでやっとセジリオは正気を取り戻したのか、改めて今の状況を正しく認識したのか。

 どこか慌てる様子で、それでも幾ばくかの照れの混じった表情で口を開こうとした。


「───────だめじゃあないですかぁ」


 甘ったるい声だった。

 過度に丸みを帯び過ぎた声は、蠱惑を通り越して聞き手の神経を逆なで苛立ちを誘う。


 だが、少なくともそうはならなかった。

 否、なる余裕がなかった。


「マーベラ、か!?」


 やや恰幅のいい体躯に、どこか貴族然とした気品のある佇まい。

 身に着ける装飾は彼女を適切に飾り立て、控えめな美貌を華やかに彩っている。

 

「あなた、彼女ちゃんのためならぁ、なんでもするって言いましたよねぇ?」

「…………ちが」

「ちがくなぁい。ほぅら、がんばれがんばれ」


 音もなくマーベラはセジリオの背後にいると、その両腕を艶めかしく胴体に回し。


「きみの大切なお姫サマがぁ、城の奥で待ってるぞ?」

「ガッ、ッァ、ァァァァァァァああああああああ!?!?」


 何かを埋め込まれた。

 

 それを認知し咄嗟に刀を振った時には、既にマーベラの姿はどこにもなかった。


(してやられた!あの女、よりにもよって弱さを偽装していたのか!?)


 シュラだけでなく、チョコの魔法さえも欺くほどの偽装能力。

 その正体よりも、今は彼女がセジリオに仕込んだ何かの方が遥かに重要だった。


(胸の中央…………あれは、高密度の魔力の塊か?)


 埋め込まれた何かを起点に、セジリオの体が徐々に黒く焦げていく。

 そして同時に、胸の中央が煮えたぎるように紅いヒビが広がっていく。


「ガァァァァァァァァァァアアアアアアッッ!!」


 セジリオだった何かは吠える。


 それは、愚かすぎた自分を嘲笑うようでもあり。

 まだ自分を待っていると信じて疑わない、主を失った獣の悲鳴にも聞こえるのだった。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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