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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第2章 海楼国家インキュリア

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 サレンがインキュリア王国に到着したのは昼前のこと。

 そこから王宮へと向かい、クレアと謁見し、同行者であるチョコとシュラに再会したのが昼過ぎ。

 互いに得た情報から今後の方針を擦り合わせ、再び王宮へと戻ったのが夜中のことだった。


 事実を並べれば過密な日程であることは明らかであり、国土が狭いとはいえ端から中央へ往復するのにも時間はかかる。

 

 だというのに。

 サレンはクレアに会って戻るまで一日は軽く経過していると思っているが。

 チョコとシュラは、再会するまで半日も経過していないため、進展はなかったと考えていた。


 両者を隔てる時間のズレ。

 それは『進化』の精霊による、認知時間の歪みによるものだった。


 王宮に近いほどに時間の進みが遅く。

 遠ざかるほどに時間の進みが早くなる。


 そして、必然的に。

 その影響はインキュリア王国の内外にも影響を及んでいる。


「……………………」


 クライドラ王国にある、魔法学校。

 その本校にある大食堂にて、皿に余った豆をフォークでつつく一人の女生徒がいた。


「……………………はぁ」


 名を、シルフィ。

 『薔薇』の『原典』を保有するアルクメネ家の天才は、周囲の喧騒とは裏腹に溜息を繰り返すばかりだった。


 それを前にしながらも、向かいに座るラシェトは呆れつつ何も言えなかった。


(サレンの奴がインキュリア王国に向かって二か月。何も連絡がなければ進展の噂すら出てこねぇんだから、そりゃ心配するなってのは無理な話だわな)


 ラシェトはともかく、シルフィにとってサレンは唯一無二の親友だ。

 分校時代ですら一日だって離れたことがない二人が、急に二か月も離れればこうなるのも必然ではある。


(往復だけなら二週間。そっから依頼をこなすの加味しても、一か月がせいぜいって見方が聞いて回った情報だった。シルフィがそれを知ってるかは分かんねぇが、これだけ騒ぎになれば嫌でも耳にはするか)


 騒々しく、活気に満ちた大食堂。

 それはサレンら精霊科の生徒が、インキュリア王国にて消息不明になったことが要因である。


 実際のところ、三人が得た情報をクライドラ王国は殆ど正しく掴んでいた。


 『帝国』の一部上流層に、別荘としての宿を長期にわたって提供していること。

 海中にある立地を考えた場合、敢えて選ぶ理由が存在すること。

 異様に発展した生態系と、その調査がやけに短時間で終わってしまうこと。

 

 これらを総合的に考え、かつ精霊がいると仮定すれば。

 一見無謀に思えることであっても、仮説としては現実味が高い、というのが全体の総意だった。


「だ、大丈夫でしょうか…………」


 一瞬にして走り抜ける静寂。

 その発信源がラシェトらの隣に座ったことに、この瞬間まで気づくことができなかった。


(…………その紋章、確か精霊科じゃねぇか?)


 通常、魔法使いは存在するだけで自身の魔力が漏れ出ているものである。

 これは蒸散する水分や体臭に近く、魔法使いであっても意識しなければ探知できないものである。


 本校においては自己防衛のために探知できるようにする者が多く、ラシェトもそれは同様。

 だからこそ、ラシェトは気づけなかったことに本気で驚き、同時に平静を努めようとする。


「もう、二か月ですよね…………サレンさんたちが、いなくなってから…………」


 黄緑色の髪の少女の問いに、暗色系の赤髪の少女は然して感情を出さずこう口にする。


「平気でしょ。そもそも普段からいない奴のが多いくらいだし」

「それは、そう、ですけど…………」

「むしろトアやクアムが例外でしょ。まぁあの二人は逆の意味で見かけないけど」

「…………ホムラさまは最後に会ったの、いつか覚えてます?」

「さぁ?サレンが来たときじゃない?ライネが覚えてないこと知ってると思う?」


 レンガのような肉の塊を頬張りながら、ホムラは本当に興味がないのか他人事のように言葉を続ける。


「どうせ大事になるなら『(みみずく』経由で情報が漏れてるだろうし。それに、なんとなくサレンなら平気だと思うしね」

「そ、そうなんですか?」


 少し意外だという態度に、ホムラはくだらなそうに息を吐くと。


「ライネも、サレンの魔力は気づいてたでしょ?」

「あ…………はい。あの、混ざった感じですよね?」


 混ざった。

 聞き耳を立てていたシルフィとラシェトは、できるだけ不自然にならないよう自身の食事を継続しつつ次の言葉を待つ。


 途中、シルフィの食事が先になくなったので、ラシェトの食事を渡して状況を維持する場面もあったが。

 もはや大食堂全体から視線を注がれている今、話す精霊科の生徒二人は気にする素振りは見せなかった。


「サレンだけの保有魔力は最底辺ですらない、本校に来れたことを疑うレベル。だけど、全体の保有魔力はクアムに勝るとも劣らなかった」

「ウチ、クアムさまに魔力量で競える人がいると思いませんでした」

「そこは同感。でも、あれは精霊から供給された魔力。本来なら、サレンにとっては体に馴染むわけがない魔力よ」

「一時的に受け入れる、じゃ、ないですもんね…………」


 魔力の譲渡そのものは、魔法使いにとっては珍しいことではない。

 共同で魔法を発動させたり、あるいは一時的に必要になったり。

 そういった理由で貸し与えることは、物品を交換することと同じくらい普通にある。


 だけど、譲ってもらった魔力を蓄え、あまつさえ自分のものにするのは事情が違う。

 できるできないではなく、大前提としてやろうと思わない。

 やったとて、それは自分の魔力に変換したうえで行うことが基本である。


 だがサレンは、ロアの魔力をロアの魔力のまま、自分の内側に所有している。

 それは起爆装置を相手に握られたまま、相手が作成した爆発物を携帯する行為に近い。


 危険だから、という以前に。

 その選択肢があること自体が、ある意味で最もイカれてるのだ。


「だったら、というかインキュリア王国に精霊が本当にいるんだったら。その精霊とも契約を結べそうだなって思ったわけ」

「…………あ。そっか」

「だって、別にロアとしか契約できない縛りはないでしょ?あの感じだと、体に適合するかどうかも大きな問題じゃなさそうだし、サレンからすればロアに拘る理由もないわけで」


 締めくくる形で、ホムラはこう告げた。


「本校に進学するために禁忌扱いの精霊と契約するんだから。それぐらいは平気でやりかねないでしょ」

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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