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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第2章 海楼国家インキュリア

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13

 走りだしたサレンは、一息で居住区を飛び越えた。


「『まだ事態を理解できておらぬようだな』」

「ぽいね」

「『一つ、先に伝えておく』」


 おおよそ虫の知らせを受け取ったくらいの認識なのだろう。

 この国の民は困惑するだけで、危機感の類を感じている素振りは皆無だった。


「『此度の件、ただの騒動ではない』」

「詳しく聞いてもいい?」

「『詩的に伝えるなら、別の悪意が紛れ込んでいるというだけだ』」

「…………悪意?」


 どこか嫌悪感を含む言い方に、サレンは只事ではないと即座に理解できた。

 

 そしてそれは、次の言葉で確信へと変わる。


「『盟友の学友が、未だ姿を見せぬのもそれが要因であろう。つまるところ、ここ先に盟友の味方は一人としていないことになる』」

「了解。どっちみち、駆けだしちゃった時点で覚悟はできてたから。そこは平気かな」


 孤立無援の戦い。

 しかしそれでも、傍にロアがいるのだから心配はないだろう。


 そんなサレンの思考を見透かすように、ロアは静かに囁いた。


「『相手は小生と同格。つまりは、契約者としての優位は実質ないと思え』」

「…………そこは、分かってるつもりだよ」

「『なら、小生から伝えることは既に終えた。あとは、盟友の心の赴くままに進むといい』」


 どうやら、ロアから言いたいことはこれで終わりだったらしい。


 サレンは自らに漲るロアの魔力を感じながら、その枷を解くための言葉を紡ぐ。


「───────『鳴山震谷(めいざんしんきょう)泰山齎破(たいさんせいは)!』」


 光は強まり。

 インキュリア王国の民はその時、極光の如き白を目撃する。


 そして、時を同じくして。


「何者?明らかに素人じゃなさそうだけど」

「『火車(かしゃ)』と、そうお呼びくだされれば」


 チョコは宿の近くにある路地裏で、一人の男に襲撃を受けていた。


 自らを『火車』と名乗った男は、全身に包帯を包んだ猫背が特徴的だった。


 背丈は恐らくは百と七十前後、ただし極度な前景姿勢のせいでチョコと視線の高さは同じ。

 衣服はどこにでもある、それこそこの国でも買える代物だが、その端々は燃やしたのか黒く焦げている。


 また、靴の類はなく裸足で地面に立ち。

 左膝の皿のあたりに、黒く歪んだ彼岸花の刺青が見えている。


「その刺青、南部一帯で悪名高い『火岸華(ひがんばな)』のものよね?確かどこの国も接触を禁止していたはずだけど、なんでここにいるのか教えてもらえるかしら?」


 火岸華。

 それは『王国』にも『帝国』にも属さない、国家とも呼べない集落の総称。


 その在り方は神出鬼没にして不明瞭。

 なにしろ国家としての体裁を保っておらず、保つ意図が微塵もないのだ。

 

 単に集団を形成しているだけなら無視できるが、問題なのは彼らの活動目的。


「国家殺し。あるいは王族殺しだっけ?標的の首に懸賞金をかけさせて、互いに殺し合いをさせる受託業務型の暗殺集団。契約を無碍にすれば、その相手に莫大な賞金をかけてまで落とし前をつけさせることから、関わること自体が死を招くって言われてるとか」


 火車は動かず、チョコもまた動かない。


 絶え間なく言葉を並べるチョコだが、内心は言葉少なく冷静だった。


(コイツは敵。事情を聞くのは、事が済んでからでいい)


 特別な恨みがあるわけではない。

 

 ただ。

 彼らの場合、会話そのものが毒になる恐れがある。


「懼れ、ですね」


 だから、チョコは素早かった。


「『起動(セット)』」


 相手が言葉を発した瞬間。

 チョコは自らの魔法具を呼び出し、即座に命令を下す。


「『行動(アクション)迎撃射撃(ファイア)』!」


 現れたのは大小さまざまな魔方陣。

 円を描くように配置されたそれは、チョコの詠唱に応じるようにして魔力の塊を射出する。


 魔力の塊、と言っても中途半端なものではない。

 矢より早く、直撃すれば鉄を貫く砲弾だ。


 チョコの手札のなかでも、使用頻度が高い魔法。

 故にもしかすれば、この一撃で片が付くことも想像していた。


「『───────車輪よ、攫え(クリカラ)』」


 火が、起こる。


 まるで一匹の蛇の如くうねるそれは、『火車』の周囲を高速で回転すると。


「っ、マジ!?」


 突っ込んでくる。


 あろうことか火は、チョコの放った攻撃を巻き込み、そのまま轢き殺そうと襲い掛かってきたのだ。


 場所は路地裏。

 左右に狭く、上に飛んだとて追撃されるのは目に見えている。


(アイツ、あの見た目で造形科寄り!?)


 選んだのは、全力疾走での撤退だった。

 『火車』がどうなったのか確認することなく、チョコは脱兎の如く駆け出し路地裏を走り抜ける。


「『検索(サーチ):周辺の地形に関する情報』!」


 相手の魔法は、恐らく可燃性の造形物を生み出す操作系の魔法。

 それも火そのものを操るのではなく、魔法で生み出した物体に火を付与する類のもの。


 そして、チョコは確かにそれを視認していた。


(車輪だった。荷車とかに使う、木製の車輪。大きさは三十センチもないけど、どう見たって単体で運用するとは思えないわけで!)


 予感は確信に。

 確信は現実に。


 大通りへと飛び出した途端、左右と上から同時に燃える車輪が襲い掛かる。


「『反復(リピート)三度(トリプル)』!」


 簡易詠唱。

 呪文を絞ることで、発生速度を向上させる手法だ。


 当然、現れるのは魔力の塊を射出した魔方陣。

 そしてその数は、先ほどの三倍にも増えている。


「さっきは手こずったけど、狙いを絞れば造作もないのよ!」


 先ほどの射撃は狙いを『火車』に絞っていた。

 だからこそ威力の調整も、その軌道も無効化されていただけ。


 しかし、今回は違う。

 狙いは言うまでもなく、迫り来る燃える車輪。

 魔法を成立させている要を砕けば、魔法はチョコに届く前に霧散する。


 だからこそ、そこを狙ったのだろう。


「それは、安直すぎるのでは?」

「そっちがね!」


 チョコの背後。

 音もなく暗器を構える『火車』に、チョコは敢えて振り向かずそう返す。


「っ!?これは…………っ!?」

「『行動(アクション)集中射撃(バラージ)』!」


 立て続けて起こる射撃。

 

 それは『火車』の体を大きく後退させると同時に、絶え間ない弾幕の雨となって防御を崩していく。


「アンタの専門が造形科の時点で、他の道具を持ってることは想定できた。ついでに、『火岸華』の連中が魔法を殺人の道具として使ってることも調査済み」


 迫る燃える車輪を魔法で穿ち、チョコは自身のツインテールを掌で靡かせて言う。


「だとしたら、堂々と声をかけてきたこと自体に意図がある。例えば、魔法使いに魔法を晒すことで、注意をそっちに向けさせるとかね」


 弾幕の雨は暫くして止んだが、『火車』の防御を崩すことは叶わなかった。


 ゆっくりと姿勢を戻す相手を見て、チョコは舌打ちと共に息を吐いた。


「倒しきれたら最高だったけど、流石にそこまでは無理だったか」

「…………お見事、ですね。まさかこちらの狙いがお見通しだったとは」

「マーベラにも言ったけど、アタシら精霊科は襲撃されるのに慣れてるのよ。生憎と、恨みを買う機会が多すぎてね」

「それは、お辛いことですね」

「全くよ。言っておくけど、アタシはそこまでじゃないからね。そこは勘違いしないで」


 思いのほかに強い。

 自らの魔法が通用しなかった事実を前に、チョコは背中に冷たいものを覚える。


(やり方次第じゃ、席持ちの防御魔法も貫通できるんだけど。サラッと防がれるのは割と凹むわね)


 なにより、相手の魔力量にはまだ余裕がある。

 流石に万全ではなくても、疲弊したとは言えない状況だ。


「しかしながら、申し訳が立ちませんね」


 だからこそ、チョコはそこで違和感を覚えた。


「こちらの都合に付き合わせるなんて、なんて勿体ないことで」


 『火車』が発した言葉は。

 まるでどこか、対岸の火事を眺めているように他人ごとだったのだから。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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