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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第2章 海楼国家インキュリア

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「ここまで来れば、もう大丈夫でしょう」


 チョコらと別れてから一時間ほどだろうか。

 サレンはセジリオの案内に素直に従いながら、その道中でインキュリア王国の全体を眺める機会を得ていた。


「国土の形状は円形で、区域は三つに別れてるんですね」

「主に用途の差です。我が国では定期的に来訪者が訪れる都合上、どうしても治安に不安を覚える民がいますので」

「なら、さっき話してた場所は危険だってことです?」

「残念ながら。こちらとしても歯がゆいところではありますが、一応は観光も我が国の主要産業ですので」

 

 大丈夫と呟いたのは、その危険とやらが及ばない場所まで移動できたからだろう。

 敢えてサレンに聞かせたようにも聞こえたが、少なくとも建前で発したものとは思えなかった。


「その様子ですと、サレン様は我が国のことをあまり詳しくなさそうですね」

「…………ぶっちゃけ」


 変に否定しても後で困るのはサレンなので、ここは素直に肯定してみせた。

 するとセジリオは少しだけ目を見開くと。


「意外ですね。存外、あっさりとお認めになるとは」

「だって、知らないのは事実だし。私はただ、学士になるために依頼をこなすってチョコ先輩に言われたから来ただけで、ぶっちゃけ魔法以外のことは大して詳しくないし」


 サレンの知識は全体的に魔法に特化していた。

 厳密にいえば基礎教養の試験で満点が取れる程度には詳しいが、生憎とサレンは試験で点数を取るためだけに勉強をしていた身。


 簡潔に言えば、ただ効率的に点を取るためだけ。

 断言してしまえば、何も意味のない暗記しかしてこなかった。


 分校で暮らしてる分にはそれで困らないし、なにより故郷では何も役に立たない知識だ。

 だからサレンは、インキュリア王国のことを勉強した覚えはあっても、それの詳細を何も覚えていなかった。


「…………ふふ」


 不意にセジリオは笑いだすと、案内された乗り物が動き出すまでの間ずっと笑いを嚙み締め続け。


「失礼。少々、というよりも非常に意外でしたので。つい笑いを堪えきれませんでした」

「まぁ分校出身だから、セジリオさんが知ってる魔法学校の生徒とは違うと思うけど…………」


 それにしたって笑いすぎでは?

 思わずそう突っ込みたくなったサレンへ、セジリオは目尻に浮かべた涙を指で拭い。


「どうやら、貴女は本気で依頼を達成するためだけにいらしたようだ。そうと分かったのなら、こちらも過度な警戒はしないほうがよさそうですね」

「…………なにかあるわけ?」

「ある可能性が高い、というだけです。少なくとも、平時と様子が違うとだけ伝えておきます」


 一瞬、置いてきたチョコとシュラの顔が思い浮かんだが。


(どっちかっていうと、危険なの私だな?)


 単身で敵地の、いや敵かどうか分からないが。

 少なくとも安全が保障されてはいない空間に赴いているサレンのほうが、実際のところ遥かに危険に晒されている。


(『…………盟友に苦言を呈するのは気が引けるが、次はそこまで考えて発言してくれると有難いな』)


 セジリオから隠れるようにサレンの肩に乗るロアは、呆れ半分にそう指摘すると。


(『だが、相手の警戒を解いたのはお手柄だろうな。様子を見るに、恐らく彼を味方につけたのは非常に大きいと言える』)

(『ぶっちゃけ、いる?』)


 サレンの問いに対し、ロアは端的にこう告げた。


(『あぁ。それも、小生と同じ序列持ちだ』)


 ガツン、と。

 

 見えない鈍器で脳天を殴られたような衝撃が、サレンの視界を揺らし景色を歪めた。


(…………分かってて覚悟してたことだけど、いざ判明すると意味合いが全然違うものね)


 少なくとも、ここに来るまでの間に固めていた覚悟は既に砕けている。

 残されているのは、ロアと同等の精霊が待ち構える場所に、向かうことから逃れられない現実への絶望だけだった。


(普通にいないことに期待してたけど。でも、どっちみち逃げ続けられることじゃなさそうだし。なにより、今回は向き合う理由が私にもある)


 深く、セジリオに気づかれないよう。

 サレンは腹の底から息を吐き出し、そして全身に力を入れ直す。


「ねぇ、セジリオさん」

「どうかしましたか?」

「この国のこと、簡単に説明してくれませんか?さっきも言った通り、私この国のことは何も知らなくて」


 今、やるべきことは情報収集だ。

 幸いにもセジリオから一定の信頼を勝ち得た今なら、ある程度のことなら説明してくれるだろう。


 すると、そんなサレンの思惑に気づくことなくセジリオは快諾すると。


「我が国は海底二千メートルの海の中にある国家です。太陽の概念はありませんが、自然発光する珊瑚のおかげで疑似的に昼夜が発生し、我々はそれに従い一日を過ごしています。また、我が国では魔法よりも、多くの固有生物の生態を利用した道具を扱い生活しているため、サレン様の国よりも魔法習得率は低くなっていますね」


 つらつらと語るセジリオは、さながら熟練の案内人のようであった。

 

 余りにも慣れ過ぎているので逆に違和感を覚えるサレンだったが、生憎とセジリオの説明は続いていく。


「国土は大きく分けて三つに分類されています。一番外側が来訪者を出迎える観光区域、他にも物流や海産物を扱う港などもあり、生活物資を扱う重要な拠点です。真ん中は我が国の民が暮らす居住区域。治安は比較的良いですが、稀に来訪者が不法に侵入することもあるため、中央に向かうほどに階級が高くなる傾向にありますね」


 サレンとセジリオはサーフボードに似た独特の移動手段で、空を優雅に進み中央へと向かっていく。

 

 区域を仕切る壁は高いが、このサーフボード型の移動具はそれを難なく飛び越え、それも揺れることなく安定した走行を続けていた。


「そして中央の区域は国王陛下を始めとした、国家の中枢を担う者たちが住まいを構える場となっています。必然的に来訪者ではまず訪れることのない、いわゆる国家の心臓部だと思ってくだされば結構かと」

「だから、あんなに念入りに確かめてたのね」

「仰る通りです。とはいえ、あそこまですべきかは疑問ですけど」


 最後の一言は明らかに他と違ったので、サレンは咄嗟に意図を尋ねようとする。

 

 だが、セジリオはさらりと話を進めると。


「先にお伝えした通り、我が国の主要産業は観光業と、周辺の海域で獲れる海産物になります。それらは全て、国王陛下の御業があってのこと。本来ならば、我々を含め誰も会うべきではない御方なのですが…………」

「今回の依頼、その人が出したんでしょ?」

「…………申し訳ございませんが、それに関しては回答いたしかねます」


 どうしてか怯えている様子のセジリオに対し、サレンは何気なくこう尋ねてみた。


「セジリオさんは、私にどうしてほしいわけ?なんかあるんでしょ、この依頼を出した本当の理由とか」

「…………」

「さっきの、なんだっけ?あそこまですべきかはーってのも。あれ、私に分かるように意図的にやったでしょ?私まどろっこしいこと嫌いだから、普通に言ってほしいんだけど」


 そもそも会ったばかりの相手に気づけ察せは些か強引な話なのだ。

 少なくとも、サレンは依頼を達成できればそれで構わないし、セジリオの思惑がそこからズレるなら聞くつもりもない。


 だけど、サレンの目の前で、どうか気づいてくれと言わんばかりな態度を取られた手前。

 何も気づきませんでしたと無視できるほど、サレンは大人でも薄情でもなかった。


「…………どうか、内密にお願いします。これは、あくまで個人の願いに過ぎませんので」


 二人は未だサーフボード型の移動具に乗っている状況だ。

 故に、遠くから聞き耳を立てられない限りは、誰一人として二人の会話を聞くことはできない。


 セジリオはその状況であることを念入りに確認したあと、改めてサレンにこう告げたのだ。


「サレン様には、どうか依頼を失敗していただきたいのです」

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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