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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第2章 海楼国家インキュリア

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2

 魔法学校、本校。

 その中央近くに建てられた大食堂に、一人の女生徒が姿を見せた。


「…………」


 艶やかな緋色の髪に、薔薇を連想させる香り。

 身に着ける制服は大多数の生徒と少し異なる印象だが、その右胸に刻まれた虎の紋様は紛れもなく本校生のものだ。

 

 植物科(ティーグル)一回生、シルフィ・アルクメネ。

 今年度より本校へと入学した、外部組では頭一つ抜けている秀才。


(…………いない)


 そんな彼女は数百人が入れる大食堂をぐるりと見渡すと、先に注文していた食事を近くのカウンターで受け取り。


(…………来ない)


 まるで恋人の到着を待つように。

 どこか寂し気な視線を出入口へと向けながら、連日使っている席へと腰かけた。


「サレンの奴は来ねぇよ」

「…………ラシェトさま」

「ケケケ!植物科(ティーグル)の入学課題でぶっちぎりの一位を獲った奴が、こんな場所でウロウロするんだ。否が応でも目立つわな」


 トサカのような髪型に、人を煽るような笑み。

 同じ分校出身の天体科(スリス)一回生のラシェト・アルゲスタがシルフィの前に腰かけると。


「そんなに会いてぇんなら、一緒に精霊科(シャト)に転科すりゃいいんじゃねぇの?」

「…………」


 痛い所を突かれ、シルフィは思わず閉口してしまう。

 するとラシェトはそんな態度に驚いた素振りを見せると。


「いや、今のは良くねぇわ。悪かった」

「謝られるんですね」


 殊勝な態度に今度はシルフィが驚き、そして運んできた食事に口をつけると。


「私の知る限り、ラシェトなら言いかねないと思っていましたので。少々、というより本当に意外でした」

「…………ケッ。その割に躊躇なく指摘してくる辺り、テメぇも大概だと思うがな」


 きっと、両者ともに同じことを感じたのだろう。

 特に指し示すことなく、二人は自然と共通の話題に話が進んだ。


「思っている以上に、精霊と契約するということは重く見られるのだなと」

「なにしろ魔法を究める者からすりゃ禁忌扱いだからな。盗みは犯すな人を殺すな、その手の類と同じなんだろ」

「ですが、そうでなければいけない道理はない」

「仕方ねぇさ。人間ってのは暗黙の了解が好きなもんだ」


 精霊と、精霊科(シャト)の扱い。

 そこに属する生徒の話を聞いた限り、想像以上に悪い扱いを受けていることに二人は驚いていた。


 特に、自然派である植物科ではそれが顕著であり。


「…………精霊使いが加わったことで、精霊科の排斥運動は本格化するとのことです」

「どうせ動物科(リエーヴル)あたりだろ?ご苦労なこった」

「何か、事情をご存じで?」

「あぁ。つっても、あそこで所属してた学科と良好な関係を維持できてる奴は一人もいねぇからな。天体科からも一人いるらしいが、ソイツは今どこで何をしてるのか誰も分かっていないらしい。だからか、天体科は精霊科への対応は一貫して静観するんだと」


 天体科第一席。

 ラシェトの兄であるユダからの情報なのだろうが、ただの一回生では到底知ることのできない話である。


 故に、シルフィの興味は自然とそちらに向いたのだが。


「…………言っとくが、まだ兄上とは会えてねぇ。入学初日に時間を設けて貰ったんだが、急な用事があったみてぇでな」

「そう、なんですね」


 重々しく。

 まるで薬草を嚙み締めたように口にしたのもあって、シルフィはそれ以上の言及を憚ってしまう。


「仕方ねぇさ。第一席ってのは『導師(ロワレ)』に変わって学科全体のあらゆる役目を担う立場だ。急な予定なんて無い日のほうが少ねぇだろうよ」


 ラシェトは一気に捲し立てると、ガツガツと音を立て食事を胃へと押し込んでいく。

 そんなガサツな仕草を前にしながらも、シルフィは特に指摘することはなく。


「それで、サレンちゃんは今どこに?」

「海楼国家だと」

「かいろう…………?」

「…………正気か?あぁいや、確かに故郷のほうじゃ滅多に聞く名前じゃねぇし、アルクメネ家の跡取りでも知らないこともあるか」


 アルクメネ家の跡取り、という言い方にシルフィは些か不満を覚えたが。 

 説明の内容を脳内で整理しているラシェトの様子を見る限り、恐らく本心で驚いたと理解できる。


(とはいえ、生まれた家で呼ばれるのは好きになれませんが。とりあえず、かいろうこっか、とやらの説明を聞いてから指摘すれば十分ですね)


 出されたスープを口に運び、そこでやっとラシェトは説明を開始する。


「海楼国家。正式な名称はインキュリア国。こっから南東へ向かった先にある小規模国家で、東に広がる大海原に存在する国家群の一つだ」


 シルフィは脳内で世界地図を思い浮かべ、そしてラシェトの語る方向をなんとなく想起する。


「…………確か、海上国家なるものがあったかと思いますが」

「そっちは東北東にあるし、距離が全然違ぇ。直線上ならインキュリアのほうが近いが、実際の距離はインキュリアのほうが遥かに遠い」

「どうしてですか?」

「簡単な話だ。インキュリア国は、その領土全てが海の底にある。厳密に言うなら、楕円形の球体に包まれた空間が領土の全てってわけだ」


 外見を例えるなら卵の形に瓜二つ。

 それがエッグスタンドに似た大地の上にあることから、海の登楼と呼称され現在に至るという。


「推定に深海二千メートル。独特な潮流と光が届かない場所ってわけで、あらゆる外部攻撃を受けたことがなく、どこにも属することなく完全なる中立を貫いている。そんな理由もあってか、本校からも何人か魔法研究だの調査だので訪問が許されてる数少ない場所でもある。ここらへんでも有名なのは、そんな態勢そのものが珍しい、ってのが殆どだろうよ」


 ラシェトはそう言うと、自身の皿に置かれた料理の残りを口に運ぶと。


「んで、本校にとっては少しだけ意味合いが違う」

「意味合い?」

「相当前から、精霊の存在が確認できてるのさ」


 その言葉にシルフィは驚き、そして同時にラシェトの発言の真意に気づいた。


「つまりは、その精霊の正体を未だ分かりかねていると」

「その通りだ。本校としては是が非でも判明させたい、させないと困るんだが。それがまぁとにかく難航してるみてぇでな。少なくとも、末端の人間が管理してないのは確からしい」


 魔法を究める者にとって、精霊の存在は禁忌である。

 

 暗黙の了解であるはずのそれが、よもや国家の中枢にいるとなれば。


「…………この学校だけでなく、クライドラ王国にとっても不利になる」

「だからこそ、サレンの登場は全体にとって余りにも不都合なのさ。そんな奴が、よりにもよって入学早々にインキュリア王国に向かいやがった。確認できる唯一の精霊使いが、精霊が観測された国家に向かったとなりゃ、そりゃ嫌でも目立つに決まってる」


 やってることは爆弾が隠されている可能性のある倉庫に、爆弾が火種を抱えて飛び込むようなこと。

 

(…………想像するだけでゾッとする話ね)


 どれだけ上が慌てたか、その片鱗すら知らないシルフィでも容易に想像がつく。

 特にそうなるよう仕向けたであろう、精霊科の先輩らへ向ける感情も含めて。


「全部を知った日には、サレンは泡吹いて倒れるかもな。アイツ、この手の話題とか一ミリも興味なさそうだし」


 ケケケ、と悪魔のように笑うラシェトを見てシルフィは思う。


 こればかりは、全く以て同感だと。 

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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