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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第1章 新入生歓迎会

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「やれやれ。随分と無茶なことをしてくれたものだ。まだ彼女らには接触するな、と伝えたつもりだったんだけど」

「…………も、申し訳ございませんでした」

「ま、今回に限っては構わないよ。僕としても、彼女には一度会っておきたかったからね」


 真っすぐ森の中を進むツグモとシエナラ。

 

 既に日が暮れたそこは暗闇に覆われ始め、あと少しで完全に陰影を失いつつある。


「ただ、次はないから。そのつもりでね」

「…………畏まり、ました」


 カタカタと震えながらシエナラはそう答え、謝罪の意思を伝えるためか視線を下へと向けたまま動かそうとしない。 

 その様子を見たツグモは指先で眼鏡の位置を上げると。


「『門よ、示せ。かくある者に、正しき道を』」


 詠唱。

 虚空に手を伸ばしたツグモは、突如として姿を見せたドアノブを捻り、形の無い扉をゆっくりと開く。


「ただいま」

「シエナラ、戻りました」


 そこは全てが完璧に整えられた空間だった。


 暖色系の照明に、アンティーク調の家具、観賞植物と本棚が各所に配置され、加湿器らしき魔法具が湿度までも完璧に調節している。

 部屋の中央には脚の低いソファとテーブルが、近くに設置された掲示板には画鋲で貼り付けられた用紙が数枚。

 奥にはキッチンと食糧保管のための魔法具が数個、陶器が並ぶ食器棚まで配置されている。


「やっはー!おかえりなさい、ツグモちゃん!」


 出迎えたのはツグモよりも二回り巨大な女性。

 プロレスのリングコスチュームを彷彿とさせる衣服に、肩にかける形で『(みみずく』の上着を。

 鮮やかな黄色の髪を縛った姿は、隆々とした筋肉をあって活発に見せていた。


「出迎えありがとう、ルルア。他の人たちは外出中かい?」

「そうだよー!留守番してるのはルルアだけ!」


 どこか子犬のようにツグモにそう伝えると、台所のほうからピー、という音が聞こえてくる。


「いっけない!そろそろ戻って来るかなって思ってたから、温かい飲み物を用意してたんだ!ちょっと待っててね!」

「そう焦らなくて構わないよ。僕も、シエナラもまだ手を洗ってすらいないんだ」

「あ、そうだったね!手洗いは大切!爪の中もちゃんと洗ってね!」


 どたばたと台所に向かう背中を見送りつつ、ツグモは中央の部屋にあるソファで眠る人物に気が付いた。


「驚いた。いつからそこにいたんだい?」

「んぁ…………?」


 褐色肌に赤い髪、両耳にピアスと大きく開いた胸元から見える金属のネックレス。

 筋肉質な肉体に、甘いマスク、やや釣り気味な目元に、血色のいい唇。


「んだよ、ツグモとシエナラじゃねぇか。もう戻ってきたのか」

「思いのほかに早く用事が済んでね。とはいえ、君がいるなら急ぐ必要はなかったかもしれないけど」

「そいつはどうも。で、そこの馬鹿の件がどうなったんだ?」


 寝起きだからか、その男は乱雑に頭をかきながら大きな欠伸を浮かべる。

 対するツグモは、バツの悪そうな顔を浮かべるシエナラをフォローするように。


「少なからず、こちらの伝達ミスではあったからね。シエナラだけが悪いという話ではないさ」

「だとしても、喧嘩売るなって命令は最初に出してたんだろ。で、それを無視した挙句、精霊使いに喧嘩を吹っかけて、仲裁してもらって退散。これのどこに擁護する余地があんだ?」


 強い口調は生来のものなのだろうが。

 少なくとも、本気で反省し落ち込んでいるシエナラにとっては些か酷なものだった。


「そんなこと言ってるスけど、ザナード先輩も初日に喧嘩吹っかけたんスよね?」

「イオネル。テメぇそれ誰から聞いた?」


 毛先がくるんと丸まった焦茶色の髪と、キツネのような一対の耳。

 その恰好は街中にいる少年のような姿をしているが、それとは余りに異質な『(みみずく』の上着を羽織っていた。


「そりゃ、ツグモ委員長からスよ。というよりも、精霊科に喧嘩を売らないって決まりはそこからできたって聞いたんスけど」

「おいツグモぉ…………テメェ覚えておけよ?」

「仕方ないことだと思うけどね。君のような人が出ない、とも言い切れなかったし。事実として、禁止にしてても破る人間はいるんだから」

「…………その、なんてお詫びすれば」

「あぁ、いいんスよ謝んなくて」


 しおしおと小さくなっていくシエナラに対し、イオネルは人のよさそうな笑みで肩を軽く叩くと。


「友好国の王族の末裔だかなんだか知らないスけど、無駄に自信家で調子に乗っててウザかったんで。ここらへんでサレンさんに伸び切った鼻をへし折ってもらおうと思ってただけスから」

「ガハハ!イオネル、おめぇここに来て追い打ちかけるとか鬼かよ!!」


 腹を抱えて笑うザナードは、笑いすぎて苦しくなったのか飲み物を求めて台所へと向かう。


「もう、ザナードくん笑いすぎ!」

「ゴハっ!?」


 鉄拳制裁。

 垂直に振り下ろされたルルアの拳がザナードの頭部を直撃し、呻き声と共に床へと倒れこむ。


「シエナラくんだって真剣にやったんだから!そうやって揶揄ったら可哀想でしょ!」

「…………あの、何もフォローになってないです」

「それくらいのことをしたんスから、下っ端として甘んじて受け入れるんスね」

「それはそれとして、シエナラを誑かした件については、後で事情を聞かせてもらうからね」

「うっ…………分かりました」


 総勢五名。

 それが魔法組合抗争仲裁委員会『(みみずく』、その総数である。


 彼らは世界中にある魔法教会から選抜され、魔法教育組織の総本山である本校へと派遣された者たち。

 主な役割は第三者としての全ての騒動の仲裁、そして魔法教会へと報告し、然るべき処置を執行すること。


 少人数で構成されるのは、徹底した情報漏洩の防止のため。

 関わる人数が増えるごとに漏洩のリスクは高まり、彼らの行動が露呈する恐れが増す。

 

 そのため、彼らは一人一人が一騎当千の猛者であり。

 シエナラとて、先ほど使った魔法は魔法教会から支給された基礎装備の魔法だった。


「んで、どうなんだ?例の精霊少女はよ?」

「微妙スね」


 ザナードの問いに、情報収集を主な仕事とするイオネルが口を開く。


「彼女、確かに優秀な魔法使いではあると思うス。知識もあるし、保有魔力量に関しても精霊がいれば問題なくなるスからね。ただ…………」

「ただ?」

「どことなく危ういというか、なんスかね。魔法使いであって、魔法使いっぽくないっていうか。そんな、こっちのマニュアルが通用しない感じはあるスね」

「教会の危惧は適切だと?」

「そんなことはないスけど、野放しにしておくのは危険かなと。集めた情報によると、彼女は『喇叭(ラッパ)』と遭遇してるんで」


 喇叭。

 その単語が出た途端、場の空気が一気に張り詰めたものへと変化した。


「ツグモ、どうすんだ?」

「…………いったんは、監視としましょう。直に見た印象だけでいえば、僕とて戦えば無事では済まなそうでしたので」

「ガハハ!本当かよ!?お前に勝てるオンナがルルア以外にいるとはなぁ!」

「ちょっとザナードくん!?それどういう意味!?」


 頬を膨らませ不満の意を示すルルアを、隣に座るイオネルが軽く宥め落ち着かせる。

 その光景を眺めながらシエナラは用意された飲料に口を付け、ほぅと息を吐いてからこう尋ねた。


「彼女、これからどうすると思いますか?」


 その問いに対し、ツグモは口元に手を当て考え込むと。


「向こうの面子を考えるなら、取れる行動はそう多くはないと思います。ただ、気がかりなのは彼女たちの行き先、ですね」

「なんかマズいとこがあるんスか…………?」


 暖かな飲料と共に用意された茶菓子を手に取りつつ、イオネルがそう尋ねると。


「彼女が精霊使いであり、現代の魔法界で精霊は禁忌とされています。ですがそれは、魔法という学問が発展した地域に限定されること。当然、そうではない国であれば常識は変わります」

「…………海楼国家か」

「可能性としては、そこが一番かと」

 

 ザナードの呟きにツグモは同意し、そして他四人に向けてこう指示を出す。


「ひとまず、精霊使いの監視はイオネルに一任します。場合によっては増員はしますが、今は時期がよくありませんので」

「ま、仕方ねぇな」

「そうだねー。やること沢山で困っちゃうよ」

「嘆いていても仕方ありません。皆様、どうぞお願いします」


 締めくくるように、ツグモは最後にこう言った。


「『(みみずく』は監視を悟られず、魔法という生命体を守護する器官です。その活躍が、どうか歴史に残らぬよう注力してください」

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異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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