表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: イサキ
第1章 新入生歓迎会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/62

18

 刀身が鞘から覗かれた瞬間、サレンは反射的にシュラから距離を取っていた。


「へぇ、分かるんだ」


 感心した様子のチョコに構う余裕すらなく、サレンはびっしりと冷汗を浮かべながら半身に構える。


「平気よ。それは確かにヤバいけど、少なくともサレンに危害が及ぶことはないわ」

「…………分かった」


 禍々しい。

 そう形容する他ない異質さが、僅かな隙間から覗く刀身を中心に空間を歪めているように感じる。


「『妖刀の類か』」


 代わるようにして。

 いつの間にか元の大きさに戻っていたロアが、その正体を一言で看破する。


「精霊ってそんなことまで知ってるのね。いや、別にバカしてるわけじゃなくて、単純に人間が作ったものに興味がないと思ってたから」

「『そういう在り方の精霊もいる以上、小生は肯定も否定もできんな』」

 

 端的にロアはそう返すと。


「『その刀、なかなかの曰く付きと見るが?』」

「察しの通りよ。おかげで、シュラは魔法が使えない体になってる」

「…………え?」


 先ほどの移動。

 サレンはその際、僅かながらロアの魔力を借り受け身体能力を強化していた。

 そして、恐らくチョコも同様だったはず。


(…………嘘、でしょ?この人、生身で肉体強化した魔法使いと同じ速さで動けるわけ?)


 単純な身体能力だけでは説明のつかない速さ。

 もはやそれは、ある種の祝福に似た呪いだ。


「とにかく、トドメはシュラに任せて大丈夫だから。サレンは陽動と、隙を作る崩しを任せるわ」


 ここでやっと、この状況がサレンのことを想ってのことだと思い出す。

 サレンは一つ息を吐き、両手で頬を軽く叩いてから。


「分かった。必ず隙を作るわ」

「そんな気合入れなくても、シュラがいるから成功するわ。それにアタシもいるわけだし、ドンとやっておいで」


 差し出された拳に自らの拳を重ね、サレンはオオヅノガガリへと姿を晒す。


「『平気か?』」


 含みの無い問い。

 真っすぐ向けられた視線に、サレンは思わず苦笑いを浮かべると。


「ぶっちゃけて言うなら、割とギリギリかな」


 入学初日から、サレンの身の回りで様々なことが起こり過ぎた。


 精霊の露呈、『導師』の襲撃、精霊科への転科、曰くつきの先輩たち。


 どれも単体でも重たい議題が、サレンの納得を待たずして次々と進んでいくのだ。

 抵抗することも、自らの意思で進むこともできないまま、ただただ力不足を痛感させられるだけの時間。

 

 それは想像するよりもずっと辛く、サレンにとってストレスでしかなかった。

 

 無論、そうなることを予見できていなかったわけではない。

 だけど、予見できていたからといって、全てに耐えられるほどサレンは特別じゃない。


「…………でも、手ぇ貸してもらってるんだ。無様な姿は晒せないでしょ」


 だからこそ、サレンは嘯くように獰猛に笑った。


 爛々と輝くサレンの瞳は、オオヅノガガリの警戒心を一気に跳ね上げる。


「───────!」


 咆哮。

 ヘラジカに似た巨躯を震わせ、オオヅノガガリは蹄で地面を抉りブルルと息巻く。


「やるぞ、ロア!」

「『承知した』」


 手が湿り、脚が僅かに重い。

 頭蓋の頂点から足元まで、走るように悪寒が覆う。


「『鳴山震谷(めいざんしんきょう)泰山齎破(たいさんせいは)』!!」


 途端、サレンの体は純白の光に包まれた。

 

 短く揃えられた黒髪は白に染まり、服装もまた制服からチーパオへ。

 頭部には一対の髪飾りを、閉ざし開かれた瞳は眩い白光を帯びて輝く。


「…………すっご」


 その姿を見たチョコは、思わず役目を放棄しかけていた。


(ロアって名乗った精霊、確かに凄い魔力量を秘めてるなって思ってた。でも、ぶっちゃけあれくらいだったら『席』レベルの魔法使いと同じくらい。だから、禁忌って呼ばれてる割に大したことないなって思ってたけど)


 歴史科に属していたチョコは、精霊に関する知識をサレン以上に有していた。

 なにしろ、魔法の歴史は精霊との歴史。

 必然的に、歴史を学べば精霊にも詳しくなることができる。


 だから、チョコは侮ったのだ。

 いくら精霊とて、所詮は過去の遺物だと。


(…………違う。あの精霊の本質は、内部に備えた保有魔力じゃない。世界そのものから魔力を集め、契約者に流し込む力。言い換えれば、魔法の本質そのもの)


 魔法とは世界に存在する奇跡を、魔力を介して行使する技術。 

 かつて精霊から授かった力は、今となっては人間の手で自在に扱えるようになった。


 それ故に人間は精霊と袂を分かち、次第にその存在は記録にのみ残されることになったのだ。


(『原典』より近い、ある種『原点』とも言える存在。こんな力を人間が扱えるんなら、そりゃ禁忌に指定されるわけよね)


 動く。


 嘶きと共にサレンへと突進を開始するオオヅノガガリ。

 その速度は緩やかなものだが、巨体が伴うと途端に脅威度が代わる。


「サレン!?」


 対して、サレンは動かない。

 あろうことか棒立ちのまま、迫るオオヅノガガリを静観している。


「ちょ、あの子なにして───────」

「案ずるな」


 咄嗟に飛び出ようとするチョコを、シュラが片手で制する。


「この勝負、既に決している」

「…………それって」


 どういうこと?

 そう尋ねるより早く、角を使った薙ぎ払いの一撃がサレンを巻き込んだ。


「はぁ!?」


 止めた。


 片手一本。

 腰を落とさず、膝を曲げず、上半身に力を込めたわけでもない。


 ただ、近くにある私物に手を伸ばすくらいの気軽さで。

 木々すら容易に薙ぎ払う一撃を、サレンは難なく受け止めていた。


「言った通りであろう?」


 ぶわり、と。

 サレンは掴んだ角をそのまま、片手だけでオオヅノガガリを宙へと浮かす。


「今のサレン殿であれば、気遣うまでもないと」

「シュラ!!」


 サレンからの合図。

 それを聞くよりも速く、シュラは木陰から飛び出す。


「───────壱ノ太刀(いちのたち)(やなぎ)


 空中を駆けあがり、抜刀。

 

 その一撃は、一番の近くのサレンですら目視できず。


「…………やっば」


 感嘆と共に、オオヅノガガリの首が胴と一対の角から別れていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方は『ブックマーク』『評価』『感想』をいただけると嬉しいです

☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ