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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: いさき
第1章 新入生歓迎会

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 当然の話だが、サレンの訪問を知っている者はいなかった。


「はぁ?新入生?」


 最初にサレンに気づいたのはピンクと白のトリコロール髪の女性。

 もはや原型を留めていない改造制服に、やや濃い目の化粧、小さな斜めがけのポーチと鮮やかなネイルがサレンの目を強く惹いた。


「入学初日にここに飛ばされるとか。アンタ、一体なにしたわけ?」

「えぇっと、ですね…………」


 何も言わず退散する人が殆どのなか、この人物だけがサレンに近づき事情を聞いてきた。

 ただ初っ端から答えにくい問いを出され、言葉に窮したサレンは同じ質問を返してみる。


「その、あなたはどうしてここに?」

「追放されたのよ」

「…………」

「アタシの名前はチョコ・フォルワ。歴史科(オワゾ)二回生、今は精霊科に所属してるから元ってつけるべきだけど」


 初手で失敗した。

 思わず天を仰ぎそうになったサレンに対し、チョコは鼻を一つ鳴らすと。


「その様子じゃ、ホントに何も知らないみたいね。場所だけ教えられて、指示通りに来たってところでしょ?」

「分かりますか?」

「アタシらを前にして逃げない時点でバレバレよ。それと、敬語は基本使わなくていいわ。どっちみち、ここじゃ上下関係もへったくれもないし」


 ついてきて、と言われ、サレンはチョコの背中を追う。


「ここは精霊科。いわゆる記録上は存在しない十三番目の学科。表向きの活動は精霊に関する過去の記録を保存し、整頓すること。だけどその実態は、各学科にいる問題児を一点に押し込むためのゴミ箱みたいな場所なの」


 辿り着いたのは、半分廃墟と化している学舎だった。

 ただし、その形式な建物の外見を見た限りでは、恐らくはここまで見てきた学舎とは違ってみえる。


「アタシも、まぁアンタもそうなんでしょうけど。とにかく扱いに困ってて、だけど退学にはできない。そういう、中途半端に厄介な人がここには大勢いるってわけ。アンタ…………えっと、名前なんだっけ?」

「あ、サレンです」

「サレンね。サレンも聞いたことがあると思うけど、この学校は入学者の数に対して退学者が結構高いの。その理由って聞いたことある?」


 サレンは素直に勉学が厳しいから、と答えようとし、その口が半分ほど開いたところでそれを止めた。

 それを見たチョコは少し感心した様子で口元を緩めると。


「この学校は、よっぽどのことがない限りは四年で卒業できる。何故なら、留学するような人材を本校に置いておく意味がないからね。だから地位と金銭に余裕がある人は、卒業前に退学して、改めて入学するの」

「意味、あるの?」

「『(せき)』を奪うため」


 その言葉を聞いたサレンは大きく目を見開き、チョコはそれを見て薄く笑った。


「いわゆる『導師』と直接関わる権利。魔法使いにおいては『席』に到達することで一人前だとされてる。そして、それは普通に学園生活を送るだけじゃ絶対になれない。そこに手が届くだけの、埒外の成果が必要になる」

「じゃあ、それを手に入れるために、退学と入学を繰り返してる人がいるってこと?」

「そうなるわね。とはいえ、そこまでしなくても『学士(がくし)』は取れるから、後は魔法統括局に入るって人が大半なんじゃない?確か入局の条件が『学士』を持ってるか、だったし」


 廃墟と化した学舎の内部は意外にも綺麗で、少なくとも今すぐに倒壊するような状態にはなっていなかった。

 床が抜けるのでは?とサレンは危惧したが、歩いている限りではその恐れはないように感じる。


「で、残念だけど。精霊科(シャト)で『学士』は絶対に取れない」


 さらりと。


 サレンにとって最も重要で、本校に通う意味をチョコは否定した。


「さっき話した通り、精霊科は本来なら存在しない学科なの。だけど、『学士』の授与には魔法統括局の認可も必要になる。一応はこの国の魔法を管理してる組織だからって理由」

「…………精霊科が、あるって証明になる、から」

「そういうことよ。なに、アンタもしかして魔法統括局に入りたかったわけ?」


 落胆が伝わったのか、チョコは少し意外そうにそう尋ねると。


「ま、そこに関してはアタシの知ったことじゃないし。なんか可哀想だったから手助けしたけど、担任に引き渡したらアタシはお役御免。後はサレンの好きにしたらいいわ」

「…………あの、さ」

「なに?言っとくけどアタシに文句言われても困るだけだからね」

「ありがとね。会ったばかりなのに、なんか凄い親切にしてくれて」


 一瞬。

 ポカンとした表情を浮かべたチョコは、突沸するかのように顔を真っ赤にすると。


「か、勘違いしないでよね!?別に、アンタのためにやってるわけじゃないから!」

「でも、私の目標を否定しなかったでしょ?」

「そ、れは…………」

「分かってる。なんでここに来たのかも、一人一人説明するのも面倒ってだけで隠すつもりもない。だけど、私が何も知らないって分かってるのに、私のことを一度だって否定しなかった」


 これまでのサレンは、言われずとも否定されることが日常だった。


 なにしろサレンの保有魔力は平均を大きく下回っている。

 それで本校に行きたい、といったところで実現すると応援する者がいるわけがない。


 サレンはそれを、至極当然のことだと思っていたし。

 だからこそ乗り越えてやると、躍起になったから今ここにいると思っている。


「なんか、素直に嬉しいんだよね。私と話して、私のことを馬鹿にしなかった人って結構少ないから」


 でも、目の前の彼女はそうしなかった。

 彼女が優秀かどうかは関係ない。


 重要なのは、サレンの目標を知ってなお、それを否定しなかったこと。

 否定する言葉の鋭利さを、彼女が分かっていることだった。


「だから…………うん。ありがとね、チョコ先輩。私、チョコ先輩と友達になれたら嬉しいな」

「…………っ!?い、いい加減にしなさい!?それよりも、さっさと講堂に向かうわよ!アタシが命令して来れる人集めたんだから!」

「はーい。分かってますよ、チョコ先輩」

「そのっ、先輩呼びは辞めなさいっての!!」


 耳まで真っ赤になりながら視線を逸らすチョコを眺めつつ、サレンはどこか揶揄うように笑う。

 それはもしかすればシルフィですら見たことのない、心の底からの尊敬の眼差しであることを。


 ロアはどこか他人事のように、実体を消した状態で眺めているのだった。

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☆☆☆完結済の過去作はこちら☆☆☆
異世界に転生したら最強になって無双できるんじゃないんですか!?
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