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墜星のイデア ~生まれついて才能がないと知っている少女は、例え禁忌を冒しても理想を諦められない~  作者: いさき
第1章 新入生歓迎会

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4

「元々、外部組の扱いは酷いんスよ」


 走りながらイオネルは語る。


「地方に分校を設置した理由って埋もれる才能の発掘だったんスけど、いつの間にか内部組にとっては先んじていることの優遇意識が形成されてたスね」

「確か進学比率も凄いんだっけ?」

「内部組が八で、外部組が二ってとこスね。だからって訳じゃないスけど、基本的に内部組は内部組で徒党を組むことが多いんス」

「それで私に声をかけたってわけね」

「弁明しておくスけど、別に誰でもよかったわけじゃないスよ。話しかけやすそうなのもあったスけど、一番は魔力隠匿の上手さスわ」


 魔力隠匿。

 あまり聞かない単語に引っかかるサレンに、イオネルは呆れた様子でこう指摘する。


「流石に魔力保有量で誤魔化しはできないスよ。どう考えても平均以下、下手したら魔法の行使そのものを禁じるくらいしかないじゃないスか」

「…………」


 心臓が不規則に脈を打つ。

 

 湧き出る冷汗が背中を濡らすのを感じ取りながらも、サレンは表情を崩さずこう返した。


「そういうイオネルだって、只者じゃないと思うけど?」

「ほんとスか?いやぁ、確かに中等部の時はそれなりに才能があるって褒められたスけど、本校基準で見たら平均くらいじゃないスかね?」


 どこか嬉しそうにキツネ耳を動かすイオネルを見て、サレンは思う。


(…………マズい。イオネルの魔力がどれくらいあるのか分からない以上に、自分の魔力量の少なさが不自然だと思われるなんて考えてなかった)


 優れた魔法使いになると、対峙した瞬間に相手の技量が分かるらしい。

 これは体から漏れ出る魔力量と、先に施している魔方陣の構築方法、加えて体内を循環する魔力の淀みのなさで判断ができるとシルフィから聞いている。


 その点、サレンの能力では自分の保有魔力量と他人の保有魔力量の違いも分かっておらず。

 イオネルから指摘されるまで、自分がここにいるには余りにも分相応だと思いもしなかった。


(シルフィもラシェトも、私の保有魔力量が少ないことなんて分かり切ってるし。敢えて注意してくれるわけもない。だからずっと、普通にしていれば目立つことはないと思ってたのに)


 だけど、何も知らない第三者から見ると途端に違和感になる。

 特に敵対する意思のないイオネルが、何気なしに指摘するくらいには。


「ぶっちゃけた話、内部組はいい顔しないと思いますよ」

「なにが?」


 意識を内側に向け過ぎた影響か。

 イオネルの話が頭に入っていなかったサレンは、咄嗟にそう尋ねた。


「内部組に関係なく、魔法使いにとって保有魔力量は一種のステータスなんで。それをひた隠しにするってのは、何かやましいことがあるってことの証左になるんスよ」

「じゃあ本校だと皆揃ってダダ洩れにしてるわけ?」

「あくまで不自然にならない程度にスね。後ろめたいことはないですよって、相手にアピールする程度には漏出させてるんス。ただでさえ気難しい人が多いのに、それが原因でもめ事になってたら世話ないスから」


 イオネルからの指摘は、単なる興味以上にサレンへの心配だったらしい。

 変な邪推ばかりしていたサレンは内心で謝罪しながらも、ふと気になったことを口にしていた。


「それにしたって、随分と詳しいわね。同じ分校出身なら、そこまでの情報って手に入らないと思うんだけど」


 この国では身分の格差がそのまま情報の格差に繋がる。

 サレンはシルフィという親友がいるから苦労しなかったが、恐らく大多数の生徒は分校で習う以上の本校に関する情報を持っていないはずだ。


 するとイオネルは得意げに笑みを浮かべると。


「こう見えて、情報収集が得意なんスよ。くだらないゴシップから、上層部でも知らない極秘ネタまで。ただ、無料で渡すわけにはいかないんで…………」

「そ。ならいいわ」

「ちょ、せめてもうちょい食いついてもよくないスか!?反応悪いなぁ」


 唇を尖らせそう呟くイオネルは、そこで何かを思い出したのか話題を変える。


「急に話変えてあれスけど、サレンさんって学科どこなんスか?」

「ほんとに急ね。造形科(サンジュ)よ。イオネルは?」

文学科(ガルグイユ)ス。でも、そういうことなら喧嘩とかしなくてよさそうスね」

「喧嘩?」


 またしても知らない話題。

 殆ど反射的に尋ねたサレンへ、イオネルはなんてことない様子でこう答えた。


「ほら、造形科と文学科は同じ『懐古派(ヒストリア)』じゃないスか。これで『唯只派(クラシカル)』だったらどうしようかと思っただけスよ」

「…………」

「その感じ、もしかして派閥(はばつ)とか知らない感じスか?」


 黙り込むサレンの反応を見てからか、イオネルは「まじスか」と呟くと。


「こう言ったらなんスけど、よく本校に入れたスね。ぶっちゃけこれ、知らないと死活問題なんスけど…………」

「教えてもらってもいい?」

「もちろん」


 二人は本校での入学式に向かう最中ではあったが、どうやら派閥という概念はそれよりも重要なものらしい。

 やや走る速度を緩めたイオネルは、小指だけを閉じ残りの四本の指を立てた。


「本校にある学科は全部で十三。うち一つを例外にして、三つの学科が集まって一つの組織を作ってるんです。それのことを派閥って呼ぶんス」

「全然知らなかった…………」

「基本的に、派閥は本校卒業後の交友関係に直結するくらい、とにかく強固で結びつきが強い代物です。希少性の高い『原典(げんてん)』を保有するほどに、暗黙の優劣が決まるんスけど。重要なのはどの学科がどこの派閥に属してるかスね」


 そう言いながら、イオネルは順番に指を折り畳んでいく。


天体科(スリス)基礎科(サングリエ)応用科(シヤン)の『唯只派(クラシカル)』。本校最大の派閥で、今一番権力のあると言われてるんス。で、次が動物科(リエーヴル)植物科(ティーグル)地質科(ティーグル)の『自然派(ナチュナル)』。歴史は『唯只派』よりも古く、必然的に由緒ある家柄が多いのもここです」


 天体科と植物科。

 少なくともサレンの身内は、全員が異なる派閥に属していることになる。


(でも、そういう話ってまるでしてこなかったけど…………)


 敢えて伏せていたのか、もしくは言わない事情があったのか。

 そこは改めて尋ねようとサレンは考え、再びイオネルの言葉に意識を向ける。


「造形科、歴史科(オワゾ)、文学科は『懐古派(ヒストリア)』って呼ばれてて、他の派閥よりも立場が弱い代わりに他国との交流が盛んなんス。逆の言い方をするなら、政治的なゴタゴタに巻き込まれる可能性はないって思っていいスね」


 将来の目標が魔法統括局に入ることのサレンにとって、喜ぶべきか悲しむべきか。

 今の段階で感じるのは、派閥という存在そのものが既に面倒というくらいだが。


「んで、残りの人体科(ムトン)医術科(セルバン)呪術科(シュヴァル)の『瞑央科(クリフォト)』。ここは魔法近衛兵、いわゆる魔法戦士を多く輩出する軍事色の強い派閥スね。魔法防衛局、王政との関りも多いですし、好戦的な輩が多いのもここス。大概、喧嘩してるならこの連中なんで、気を付けてください」


 イオネルの説明から分かったことは二つ。

 

 思ってるよりずっと本校は面倒で。

 シルフィはともかく、ラシェトとは縁を切ろう。


(ただでさえ色々あるって噂なのに、こんなしきたりまであるとか。道理で内部進学率が高いわけだわ)


 内部進学生が多いということは、それだけ幼少期からの擦り込みが浸透している証拠でもある。

 つまりは、余計な先入観のない、都合のいい生徒が多く欲しいのだろう。


 今になって理由を知ったサレンはうんざりしつつ、謎が一つ解決できたことに満足を覚える。


「とりあえず、もうすぐ着くんで。詳しい話はまた後で」

「分かった。ここまでありがとね」


 イオネルに礼を伝えながらも、サレンの胸中は些か曇ったままなのだった。


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